第12話 叛逆の英雄
「・・・・しょっ!」
流星群が続く中、アルベルト達のジャンケンもまた続いていた。
「あの、これは・・・・・」
流星群の轟音に日の国の民達が、起きてきた。
「・・・・・しょっ!」
「あああああ!!!」
アルベルトが崩れ落ち、他のみんなが腕を突き上げた。
「くそ、強すぎる・・・・」
アルベルトの一人負けだった。
普通じゃない人たちによる、普通じゃないジャンケンは、魔眼もフル稼働で行われていた。
手を出す瞬間に、魔眼で出す手を見極め、あいこに持っていったり、一人勝ちを狙ったりしていた。
そこまでするなら、もう相手しろよ、と言いたくなるが、何か思うところがあるのだろう。
「あの、何が・・・・」
「あ、ごめん。なんか、襲ってきたから誰がその相手をするかどうかで・・・・」
「おい、あれって!!」
集まってきた一人が、じいさんを指差して叫んだ。
「あれって、聖魔じゃないか!?」
「うそ・・・・・、それってあの?」
「そんな・・・・・」
え、みんな知ってる人なの?
「聖魔って何?」
「聖魔は、帝国最強と言われる三聖人の一人です」
比較的お年を召した人が教えてくれた。
「ここには、何回か来てるの?」
「いえ、年寄りなので、外には何度か・・・・」
なるほど。
鎖国国家といえど、交流はあるか。
じいさんの正体がわかった頃、ようやく攻撃がおさまった。
「これで、終わりじゃな」
土煙が収まる前にそう結論づけた、じいさんこと聖魔は帰ろうとしていた。
「え、帰るの?」
せっかくジャンケンまでして決めたのに。
俺の声に、聖魔は大袈裟に振り返る。
「なんじゃと!?」
聖魔は、あたりを見渡して、目を見開く。
「痕が・・・・ない?」
日の国の門の前には、流星群で出来たはずの痕が全く無かった。
聖魔が創った天魔法は、これまであの英雄以外には、防がれることすらなかった。
さらに、この天魔法は、対バハムート用にまわりの被害など一切考えず火力だけを考え創ったもの。
天魔法の一つである流星群は、天よりさらに上界にあると言われる宇宙と呼ばれる空間より、隕石を落とす魔法。
隕石が一つでも落ちれば、生命は蒸発し、大海すらも焼き尽くす。
なのに、痕すら残っていない。
「なぜじゃ・・・・。あの魔法は、空の覇者であるバハムートでさえも防げないはずじゃ・・・・」
そもそも、その前提が間違っているのだ。
バハムートは、不死鳥イニクスの妹で、守護者の中では最強に位置する存在。
隕石如きでは、傷を負うことすら難しい。
「そんな魔法をこんなところで使うなよ・・・・」
「そんなことはどうでも良いわ!!今は、なぜ貴様らが生きているかどうかじゃ!!」
「うーん。・・・・喰った、としか言いようがないんだけど」
「喰ったじゃと?」
天魔法の魔力を暴食で喰って、強欲で我が物とする。
今頃、マルスさんも精神世界でぶっ放しまくってることだろう。
「こんな感じ?」
天魔法の魔力を練り、小規模に展開する。
小さな魔法陣を聖魔に向け、起動する。
「天魔法:
小さな隕石が落ちるのではなく、銃弾のように地面と平行に
しかし、威力は流星群よりも強い。
無造作に落とすより、圧縮されたものが一点集中するのだ、その威力は計り知れない。
流星弾は、聖魔の顔を掠め、止まることなく進む。
それは、大陸を横断し、海の上に乗る。
帝国兵が乗ってきたと思われる船の骨部分を撃ち抜き、海面を割りながら進む。
たまたま海面に上がってきた海竜を撃ち抜き、襲われていた船を助ける。
そして、ついに帝国のある大陸が見えてきた。
国に張ってある結界を易々と突き破り、王城を目指す。
王城に入った瞬間失速し、地面に落ちた。
高音の熱を帯びた隕石は、落ちた瞬間に周囲を巻き込み爆発する。
その日、最強の国と呼ばれた帝国の城が、正体不明の爆発で吹っ飛んだ。
〜隕石が海竜を撃ち抜いた時〜
「急げ!!急いで舵を切れ!!」
「無理です!!海流に船が持って行かれ、身動きが取れません!!」
頭に、獣耳を生やした船員が大慌てで、逃げようとしている。
「くそっ、こうなったら姫様だけでも!!」
「キリカ、ダメよ。何としても、みんなで帰るの!!」
その時、海竜が飛び上がった。
「ティア姫!!」
獣戦士長キリカが覆い被さるように、そして、筆頭執事も護衛として、
もちろん、意味がないことはわかっている。
竜に連ねる海竜に対して、人間など陸で生活する者たちは海では無力だ。
影が船を覆った時、姫は見た。
とんでもない速度で何かが海面の上を走るのを。
その何かが、海竜を撃ち抜くのを、キリカと執事ザニアの隙間から見た。
海竜は大きな波飛沫をあげ、その巨体は沈んでいった。
「助かったのか・・・・・?」
船員がつぶやく。
全員が、その事実を認識し、歓声を上げた。
キリカも、ティアに抱きつき、生き残ったことを喜んだ。
その中でただ一人、ティア本人は先程の何かが気になって仕方がなかった。
(あれは、一体・・・・・)
〜帝国の少年〜
日が暮れそうになり、妹を寝かせていた時、遠くの方にいた人が、何かが向かってきてると話しているのが聞こえた。
誰か助けに来たのか?
しかし、それは人ではなく、むしろ何なのかすらわからなかった。
大通りを城へ向けて一直線に、一筋の閃光が走った。
地面のタイルは焼け、端端が燃えている。
それを認識した、ほんの数瞬、城が吹き飛んだ。
「城が・・・・・・」
「帝国の象徴が・・・・」
チラホラと聞こえてくる。
歓喜にも似た震える声。
「墜ちた・・・・」
この日まで、最強を謳い、その覇権を内外に示し、国民から全てを奪い続けた巣窟が一瞬にして崩れた。
「あ、あれ・・・・・・」
城の瓦礫の中から、人が出てくる。
一人は、信じて、とお願いをしてきたミア様。
もう一人は、
「王・・・・・」
全ての悪の根源が、生き残っていた。
さらには、両親の仇である男も、騎士を何人か犠牲に助かっていた。
騎士の亡骸を瓦礫でも、どかすように振り払い外に出る。
「あの目・・・・!!あの時もっ!!」
両親を連れ去るときも、死体を見た時も、あの目だった。
人の命を、死を、なんとも思っていないあの目。
握る拳に力が入る。
痛みを忘れ、いつの間にか血が滲み出ている。
「おい坊主、大丈夫か?」
「えっ・・・・・。あ・・・・」
近くにいた人に声をかけられ、自分の状態に気がついた。
「あ、大丈夫です・・・・」
「アイツらに、何かあるのか?」
「あの貴族の男は・・・・両親の仇なんです・・・・」
「そうか・・・・」
一呼吸おいて、こんな提案をしてきた。
「この国を俺たちの手で終わらせないか?」
「え?」
「今まで、苦しめられてきたんだ。ここまで、誰かわからない人にやられたら、この恨みをどこに吐き出せばいいか、わからなくなる」
「そうだな」
「やってやろうぜ、ガキ」
周りの大人たちが賛同していく。
「子供は、この国の未来だ。俺たちは導く役目と同時に、その背中に未来を見せられる希望もある」
見知らぬ大人が、少年に向かって、
”未来”と”希望”を託す。
少年の中で、何かが生まれる。
小さな小さな火が灯る。
「やりましょう。僕が、あの男を。皆さんがあの王を」
「「「ああ」」」
少年の力強い言葉と、目に焚き付けられた人たちが、小さな火に照らされた者たちが立ち上がる。
少年は、ミアから境界線だと言われた、線を踏み越え、第一歩を、英雄への第一歩を踏み出した。
その背中に引っ張られ、大人たちがそれぞれの目指す国のために立ち上がる英雄となるため、後に続く。
その少年の姿は、まるで英雄の導き手”ヘルメス”のよう。
小さな火はやがて、帝国を照らす聖火となる。
少年の英雄譚は、まだ始まったばかり。
タイトルはこう、『叛逆の英雄の導き』。
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