第11話 襲撃
その日、日が暮れる頃、帝国の王は今までにない程、機嫌が悪かった。
このような時に限って、国民ーー家畜としか思っていないかもしれないーーが思うように動かないからだ。
会議室に、コンコンコンコンコン・・・・・と膝をゆすりをする音だけが響く。
大臣達は顔を上げずにその音だけを耳に入れる。
「調査報告は・・・・・・」
王がイラついた声を出す。
「誰もいませんでした・・・・・」
部下を使い、城下の調査を行った大臣が恐る恐る報告する。
部下に調査させたのは、国民がなぜ集まらなかったのか、食料がなぜ集まらなかったのかだ。
結果は、何もなかった。
人も、家畜も、食料も。
つまり、この国には、王城や貴族の屋敷で勤める兵や使用人、そして、この会議室にいる強者どもだけ。
「なぜ、わしに従わん。なぜ、思い通りに行かん」
肘から上で頭を支えながら、膝を揺らし続ける。
ますます、雰囲気が重くなっていく。
「お、王よっ・・・・・・」
気遣うような声を発した大臣の頭が飛んだ。
「誰が喋っていいと言った」
片付けろ、と使用人に命じる。
使用人も、嫌そうな顔をせず血塗れの死体と床を片付ける。
「儂が行こうか?ロドリゲス」
白髪頭で長杖を持つ老人が発言する。
「マーリンか。お主にやれるのか?」
「儂は、聖魔じゃぞ。小僧には遅れをとらん」
「なら、行って来い。失敗した時は、どうなるかわかっておるだろうな」
最高戦力といえども、この王にとっては、ただの駒にすぎない。
「ホッホッホ。安心せい。ではの」
聖魔は、転移した。
「剣聖、お前も行け」
「は?何で私が・・・・・」
「なんだ?」
「はあ、わかったよ・・・」
嫌々ながらも、圧に押され承諾した。
「ミア、飛ばしてくれ」
「・・・・・・・」
ミアは黙って、剣聖を日の国の近くまで飛ばした。
会議はなお、続いていく。
◆◆
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
幼い兄弟が、帝国にあるが外からは認識できない空間に多くの民とともに入っていた。
「これからどうなっちゃうの・・・・・?」
幼い妹が兄の腕にしがみつきながら尋ねた。
外から、この空間は認識できないが、中から見ることはできる。
多くの武装した兵が、家や、路地裏を破壊しながら人を探している。
ここにいる国民は、魔法士団長・ミアの
国民は帝国の王が自分たちから搾取していることは知っていた。
外交上は、大帝国と言われるほどだが、内情は最悪だ。
こんな、外の国に行ったことのない幼気な子供でさえ、この国の異常性がわかる。
各区画の貴族が好きに法を定め、欲しいものは人だろうと何だろうと、奪い去っていく。
この子供の両親も貴族に弄ばれた挙句、後日遺体となって発見された。
そんな腐った上流階級にいる人間の中で、唯一まともなのが魔法士団長であるミアとその部下の副団長だけだ。
ある日いつもの日常が、繰り返されると思っていた時、彼女は突然城下に降りてきた。
彼女の話には、皆が耳を傾ける。
まともだからだ。
表向きには、何かをしたわけではないが、何かと手を差し伸べてくれる。
「これから、この国が崩壊に進んでいく。でも、あのクズどもはあなた達をさらに追い詰めてくる。だからお願い・・・・」
ーー信じて。
そのように言ってくれる上の人はいない。
みんなが、救いを求め食料、家畜をこの空間に入れ、逃げてきた。
そして、彼女の言った通り、貴族の兵達が家の扉を蹴り飛ばし、家財を燃やし、破壊し、食料や人を探している。
そして、無いとわかれば家を倒壊させ次の家へと向かう。
周りの大人達は、自分たちの家が破壊されるのを、唇をかみ見ていた。
「あいつはっ・・・・・・!!」
兵を従えている貴族の男を見た。
それは、自分たちの両親を連れ去っていった男だった。
妹が、先ほどよりも震えているのがわかる。
ついには、誰一人として見つからなかったと分かり、貴族と兵は城の方へと引き返していった。
「お兄ちゃん・・・・・」
「大丈夫。絶対に守るから」
妹だけは、死んでも守る。それが、最後に両親とした約束。
そして、叶うのならあの貴族を・・・・・。
◆◆
「ん?なんか来たね」
アリスが、口いっぱいにご飯を詰めながら何かに気づいた。
「お、結構強いんじゃない?誰が行く?」
「一回見てから決めようよ」
「それがいいね」
というわけで、ご飯に夢中のラキナを置いて、外に出た。
「おじいちゃんじゃん。めんどくさい」
アリスが一目見て、おりた。
「私も嫌だわ。まだご飯も作りたいし」
「私もだ」「私も、めんどくさいかな」
え、誰もやんないの?
まあ、俺も嫌だけど。
「んー、どうする?」
こちらを見ている、お年寄りと続いて出てきたーーこちらは、若い女の人ーー人を放って、話し合う。
「何をしておるんじゃ?」
おじいちゃんが、尋ねてくる。
「あなた達の相手を誰がするかですよ。みんなめんどくさがってて・・・・」
「お主ら全員でかかってくれば良かろう。それでちょうど良さそうだからの」
「いや、それは無いんじゃない?」
また、こういう感じのやつか、勘違いじいさん。
「ねえ、私、やりたく無いんだけど」
「なんじゃと?」
じいさんと違って、剣を持つ女性は好戦的ではなかった。
「何で?」
「だって、あなた達と戦ったら秒で殺されそうだもん」
「へえ〜」
この人は生かしておくか。まともな気がする。
じいさんが、女性を殺そうと魔法を放つ。
「なっ・・・・!!」
女性が、近距離で放たれた魔法に反応できず、そのままでは直撃する状態だった。
「反魔法」
女性の前に、魔法陣を展開する。
じいさんの魔法は、障壁に当たり、跳ね返る。
「何・・・!?」
杖で地面を叩き、魔法で相殺する。
「今のは何じゃ!!あれは、忌々しいマルスの!!」
「知ってんだ。そうだよ、反魔法だ」
「なぜ、貴様が使える!!」
「何でだろうね」
じいさんの口調がどんどん強くなっていく。
「よりによって、儂の前で使いおってっ!!」
詠唱せず、巨大な魔法陣をいくつも作り上げていく。
そのうちの一つは、自分の周りに防御魔法を張るものだ。
女性の周りには、展開されていなかったため、こちらから障壁を張ってあげた。
女性は、こちらを向き、困惑する。
さらに、俺たちの周りに見えないように魔法を展開する。
「これだけの魔法であれば、防げまい!!儂の生涯をかけ作り上げた魔法をくれてやるわ!!」
「天魔法:流星群!!」
何それ!
見たことない魔法だったので、障壁に暴食の魔力を纏わせる。
空から降ってきた、隕石が障壁に当たり、暴食によって吸収されていく。
おおー、この魔力属性は初めてだな。
アルベルトは、魔力を食し、楽しんでいた。
その様子は、土煙や爆発で見えず、マーリンは高笑いをしていた。
この魔法が破れるわけがないと信じているのか、完全に油断している。
一方、女性ーーモルガンーーは、自分にも向かってきた隕石が当たった瞬間に障壁に吸い込まれていく様子を、目に焼き付けていた。
「良かった・・・・」
こんなことができる人たちに挑んだら、本当に秒殺だった。
ここに来て、彼らを見た瞬間、本能か直感、もしくはその両方が危険信号を全開で出した。
手を出せば、殺されると。
「これから、どうしよう・・・・・」
彼女は、帝国に生まれ、剣のみで今の地位に成り上がった。
先代の剣聖が死んで、代替わりで剣聖となったため、そこまで帝国に執着はしていなかった。
むしろ、出ていけるのなら出て行きたかった。
そんな時に起こった今回の一連の出来事。
それを引き起こしたと思われる彼らに出会い、戦意が喪失し、帝国に未来はないと確信した。
「お願いしたら、許してくれるかな」
高笑いをひたすら続ける聖魔のじいさんを見ながら、ため息をついた。
そして、アルベルト達は・・・・・
「よし、今のうちに誰が相手するか決めよう。ちなみにあの女性の方は、生かしとくから。まともそうだし」
「また、増える・・・・・」
アリスが何かを言っていたが、よく聞こえなかった。
「どうやって決めるの?」
アイナに聞かれる。
「ジャンケンだ」
「「「ジャンケン?」」」
ルールを、教え、面白そうということで、やることにした。
「さーいしょーは、グー。じゃーんけーん、ぽんっ!」
あいこだった。
「あーいこーでしょ!」
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