第10話 自滅作戦

”お前、ぶっ殺す!!”

その言葉と同時に、仕掛けてきた。


魔力は、そんなに強く感じないし、剣持ってるから剣士なのか。


そこらの達人が見れば、とんでもない魔力量なのだがアルベルト達からすれば雀の涙だ。

そんなことは知る由もないタケルは、魔力を最大限練り上げる。


「はっ、そこそこやる様だがオレには敵わねーよ!!」

魔力を纏わせた剣を振るってきた。


体をずらし避ける。

すかさず剣を振るってくるが、同じ様に避ける。

何度か繰り返したところで、相手が憤慨してきた。


「どいうつもりだ、てめぇ・・・」

「だって・・・・・・」

単純すぎて、面白くない。その言葉は出さなかった。


「お前も、剣士だろ?抜けよ!!」

抜けよと言いながら、単純な剣で来たので、腕を掴み、背負い投げすると同時に剣を奪い取る。


「はい、これが俺の剣だ」

「あ?・・・・・返せ!!」

「だって、今、刀持ってないから」

まだ作ってもらってる最中だし。


「あ、そうか。君、魔力少ないから剣がないと戦えないんだったね」

剣を放り投げて返す。


「調子に乗るなよ・・・・」

プルプル震え出し、魔力を練り始めた。


これは、ちょっとバレそうだな。

そこまで、多くはないがこの量の魔力を解放されたら人が来る。


「ちょっと、場所を移そう」

「あ?」

指を鳴らし、魔法を発動する。


「ちょっと、行ってくる」

「好きにしろ。妾は、好きにやっとく」

ラキナに断りを入れ、移動する。


景色が変わり、日の国周辺の荒野。

ここなら、どれだけ魔力を使われようとバレることはない。


「何だこれは・・・・?」

「え、転移魔法だけど」

「は?」

え、知らない?

異世界人なら、そういうのもらってそうだけど。


「それは、ミアのババアしかできねえはずだろうが!!」

「ミアさんもできるのか」

そりゃそうか、何百年も生きてりゃできるか。


「・・・・・お前、何者だ?」

「君と一緒だよ」

「は?てことは、最高神様に連れてこられたのか?」

「あんな奴じゃないよ」

そうか、帝国は最高神信仰だったな。


「お前は、邪神信仰か」

「邪神?フォルナ様達のこと?」

「そうさ。オレの目的はそいつらを殺して全てを手に入れるんだよ。金も地位も女も全て!!」

「ていうことは、ソロモンって知ってる?」

回答次第で、対応が変わるな。


「ソロモン?あー、なんか女を目覚めさせるために力を貸せって言ってきた奴だな」

「君は、そいつの仲間なのか?」

「仲間ってほどじゃないが、あいつはオレより、つえーからな。色々してきたぜ」

「たとえば?」


「奴隷どもを殺して贄にしたりだな。まあ、お礼に女をいただいたが」


「そう。なら、いいよな」

「あ、何が・・・・・!!」

タケルは、腰がひけ、震える足でアルベルトから下がっていく。


「あ・・・あ・・・あ・・・」

剣を持つ手も震え、魔力も乱れて拡散していく。

アルベルトは魔力の一端を気絶しない程度でタケルに当てた。


「ほら、来なよ。ソロモンが一番殺したいやつが目の前にいるんだから」

「お、お前が・・・・あ、アルベルト・・・・?」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

まあ、7、8年前とはだいぶ変わったから、わからないのも分かる。

顔が割れてるのかは知らないけど。


ゆっくりと、近づいていく。

タケルも、それに合わせ下がっていく。


「魔力出すのやめるから、ほら」

「かはっ、はあ・・・はあ・・・・」

過呼吸気味から解放され、息を荒くしている。


「お前が・・・・強いのはわかった。だが・・・・これには敵わねえだろう・・・」

「ん?」


「限界突破!!」

ん?

それだけ?


「これだけじゃねえぞ。狂人化!!」

え、狂人になったら自我を無くすんじゃ。


「心配すんな。オレは、状態異常は無効なんだよ」

「それは、よかった」


「お前は、なんかないのかぁ?邪神にもらったなんかがよー」

「ないよ」

あるにはあるが、使わなくてもいいからね。


「はっ、邪神もクソだなぁ!」

身体能力が格段に上がり、斬りかかってきた。

それを避けようとせず、拳を引いて構えた。


タケルの剣がアルベルトの体を切り裂く。


「大したことなかっ・・・・・な!」

剣は体を斬った。

だが、斬った箇所が炎と成り、流動する。


「何だよ、それっ・・・・」

「ふんっ」

「ぶへっ!!」

アルベルトの拳が顔面にヒットする。

限界突破と狂人化で強化された体然り、顔面であってもその拳には勝てず、地面を転がっていく。


「あ、あがっ・・・・」

それなりの身体能力を持っているため、背はつかず、四つん這いの体勢になる。

口に溜まった血を吐きながら、アルベルトを睨みつける。


「ほら、今まで何人も殺してきたんだろ?」

「テメェもだろうがっ!」

「そうだな。でも、お前は罪のない人を殺してきたよな」

「だったらどうしたんだよ!!」

一番言いたかったことを、誰でもよかったから叫びたかったことを言える気がする。


「お前みたいなやつのせいで・・・・・怒りや苦しみが・・・・・絶えず流れ込んでくるんだよ!!」


「ひっ」

今度は、無差別に魔力を全開放した。

それを見て、魔力を収める。


「おい、大丈夫か?」

「ラキナ・・・・・」

帝国で好きにしていたはずのラキナが、そばに来ていた。


「アリスたちが奴隷を解放したらしいぞ。それに食料も奪った。まだ、バレておらんぞ」

「そう。ならもういいかな」

こちらを見て怯え続けるタケルを見て、いいことを思いついた。


「なあ、生きて帰りたいか?」

震える体で、首を縦に振る。


「なら、帰してやるよ」

転移魔法を発動すると同時に、ある魔法を体内に設置する。


「あれ、今のは?」

転移させると同時に、多くの奴隷達を連れ、アリスやアイナ達が帰ってきた。

「お土産かな」

「誰に?」

「帝国のお偉いさん達」

ここまですれば、思い通りに動き、自分で自分の首を絞めることになるだろう。




「よし、この人たちどうしようか」

アリス達には、警戒を解いているが、こちらを見て怯える者もいる。

それにしても、子供から大人まで、年齢層広いな。


「帰る場所がある人いるかな?」

怯えながらも、何人か手を挙げる。

残りそうなのは、数人か。


「なら、帰すから、場所だけ教えて」

アリスに橋渡しを頼み、何とか転移魔法で全員送り届けた。


「そういえば、王国に孤児を預けてるんだっけ」

完全に忘れてたな。

もう、立派に成人してる年齢だよな。


「それに関しては、王家とエルギス家が対応してるわ」

アイナが覚えていてくれた。

いつの間にそんなことに。


「なら、この子達も預けられるかな。生きる術を教えるぐらいは」

「いいわ。なら、私が行ってくるわね」

「よろしく」

アイナが王都に転移し、問題は解決した。

なんか、転移を使いすぎだな、今日は。


「そうだ、ラキナ。ミアさんは?」

「まだ残ってやることがあると言っておったぞ」

「そう」

「それより、腹が減った。なんか食べたいぞ」

「はいはい。アイナが戻ってきてからな」



その後、一時間ほどでアイナが戻り、日の国の屋敷で休憩をした。




〜帝国会議室〜


「それで、日の国はどうする」

謁見の間を出た王は、会議室に大臣達を集め、意見を求めていた。


「もういっその事、全軍と彼らを動員しては?」

か」

三聖人は、剣聖・聖魔・聖帝の三人で構成され、そのうち、聖帝は王本人だ。


「はい、王は出ずとも、あのお二人が出れば他愛もないでしょう」

「しかし、それはタケル殿にも言える事だぞ。彼も、あの二人に近づいておる」

タケルは、すでに手も足も出ずに負けているのだが、そんなことを知らない彼らは、そのまま話を進める。


「ミア殿はどうか。彼女の遠距離魔法ならば」

王を含め、全員の顔が代わりに来ている副団長に向けられる。


「・・・・・いくら団長でも、大陸間の魔法発動は不可能だと思われます」

「では、先程の魔法はどこから打ち込まれたのだ」

「わかりません。しかし、下手すれば団長以上の魔法の使い手かもしれません」

ミアの実力を知っている彼らの口が閉ざされる。


その時、扉が音を立てて開かれた。


「何事だ!!今は会議中だぞ!!」

「申し訳ございません!!しかし、急を要するため!!」

報告に来たのは、衛兵の一人だ。


「なんだ、話せ」

「はいっ。奴隷と・・・食糧庫がもぬけの殻となっております!!」

「何だと・・・・?」

これには、王も疑いをかけた。


「おい、嘘を申すな!!」

大臣の一人が、衛兵に詰め寄る。


「本当ですっ!この目でしかとっ!!」


「なぜ奴隷達が!?それに食料も!!」

「知らん!!いいから、対応策を考えろ!!」

アルベルトによる、国力を低下させるための行動で、重鎮達は焦った。


「落ち着け。奴隷など、まだこの国には大勢おるだろうが、食料もそれらから取ればいいだけだ」


その言葉に少し遅れて、またも王のいるところに魔法陣が展開された。

そこから出てきたのは、先ほど議題に上がったタケルだった。

しかし、その姿は、今まで見たことないほど傷だらけで、目の焦点も合っていなかった。


「た、タケル殿?」

「防衛大臣!!近づくな!!」

魔法士団副団長が叫ぶ。


「え?」

その言葉も遅く、タケルは大臣を巻き込んで爆散した。


その爆発で、タケルと防衛大臣、報告に来た衛兵が被害を被った。


「王よ。これは・・・・・」

「ああ、これ以上、舐められては困る」

「では・・・・・」

「ああ、全軍と三聖人。食料と平民どもを駆り出せ。日の国を潰す」

儂も行くと、参戦の宣言をした。


その宣言と同時に、国中から食料と人を集める命令が国中に発令された。


しかし、誰一人、水の一滴さえも集まることはなかった。









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