第9話 帝国崩壊の始まり
帝国騎士団副団長である私は、王の命により、日の国へ進軍した。
目的は、神匠・ムラマサの身柄と敵の戦力ダウンだ。
こちらの戦力は、千人以上、対して敵方は前回の情報からすると百人にも満たない。
余裕のはずだった。
宣戦布告と同時に国を出て大陸を渡った。
騎馬は、今部隊の隊長である私だけが乗る。
当日、使者を送り日の国の王に最終確認を行わせた。
これから、お前らの国を蹂躙すると、そうなりたくなかったらムラマサを渡せと。
使者が何か激昂しているとことを見ると、交渉は失敗したようだ。
使者の話によると、日の国は民が戦争に加わるそうだ。
確かに、舐められてるな。
「一人残らず殺せ。女は好きにして構わん」
兵士の士気が上がる。
「進軍開始!!」
閃光玉と共に日の国を蹂躙するため、一斉に走り出した。
なんだ、あれは?
正門前には、王が一人立っている。
隣には、男が一人。
周りには、明らかにただの民が散らばっている。
我が兵達も勝ちを確信したのか、口をニヤつかせている。
確かに、日の国の女は良さそうだな。
王から手のひらサイズの水晶玉らしきものが投げられる。
「ふんっ、諦めたか」
騎馬によってその玉が割られた瞬間、膨大な魔力の奔流が巻き起こった。
馬は驚き足を止める。
「何だこれは!?」
地面が揺れ、進軍していた全兵士が大穴に落ちていく。
到底人の身では上がれないほどの崖ができる。
慌てて、上を見上げると日の国の民が、かわいそうな目でこちらを見る。
その手には、先ほどと同じ様な水晶玉が。
やめろ、そんな目で、そんなものを投げるな!!
「す、すいません・・・・」
あちらこちらから、そんな言葉が聞こえる。
私は、誇り高き帝国の士団副団長だぞ!
貴様らの様な下賤な者にそのような目を向けられる人間ではない!!
そんな思いとは裏腹に次々と投げ込まれ、兵達の悲鳴が上がる。
何だこれは、こんなもの戦争ではない・・・・・。
ただの、蹂躙だ。
不幸にも、自分たちが行おうとしたことが、そのまま自分たちの身に降りかかり、帝国の半数の兵士が日の国の民によって、全滅した。
◆◆
「よし、戦争終わり」
どうしようか、この後処理。
そう思い、リョウマ様を見る。
「何してるんですか?」
リョウマ様は手を合わせ、かわいそうに、とつぶやいていた。
自分たちを殺そうとした人たちに手を合わせるほどのお人好しではない。
「いや、こんなにも可哀想な死に方、哀れまないと。帝国は本来、全戦全勝の最強の軍なんだから」
「あー、そういうこと」
この人たちが、最強ねー。
まあ、まだ他にもいるんだろうけど。
「それで、どうします?これ」
「そうだなぁ。・・・・・送り返せるか?」
「送り返すって、帝国に?」
「ああ」
送ると言っても、帝国に行かないと座標が・・・・・。
(座標の設定なら、僕がするよ)
うへっ!
(そろそろ慣れてよ)
すみません。・・・・・マルスさんがするんですか?
(ああ、君の魔法に僕の知る座標を組み込めばできるよ)
すげー、そんなこともできるんですね。なら・・・・・。
「何とかしますね」
「頼む」
穴の中に、ある焦げたり、凍ったりしている死体の山に魔法陣を組み立てる。
マルスさん、できました?
(ああ、いつでもいいよ。帝国の正門付近に設定したから)
「よし、転送」
魔法陣が光り、死体を包み込む。
光がおさまったところには、何も残っていなかった。
「この穴も埋めときますか?」
「ああ、そうしてくれ」
時魔法で時間を巻き戻し、崩壊前の状態に戻した。
リョウマ様からは、大きなため息とともにお礼を言われた。
◆◆
帝国王城内・謁見の間
「なんだ、この魔力は!?」
不在の魔法士団長に代わり、副団長が宰相、それから騎士団長・タケルが王と共に報告を待っていた。
騎士団副団長には、占領が完了次第、通信の魔道具で報告するように言ってある。
そして、謁見の間は本来、厳重に警備されており、些細な魔力が感知されると、対抗魔法が発動し、対処される様になっている。
その謁見の間になんの前触れもなく、とんでもない規模の魔法が発動された。
「こりゃあ、攻撃魔法じゃねえな」
タケルが、警戒をとく。
魔法陣の中に現れたのは・・・・・
「「「な!?」」」
日の国へ進軍をしたはずの、帝国全兵の半数の死体だった。
すでに、誰が誰か判別できないような者ばかりで、生きている者を探す事はできなかった。
「あれは、レイル副団長!?なぜ彼がこの様な・・・・」
彼は、この国での最強格に入っているはず。
その彼が、顔も判別できない状態で、鎧からしかわからない様な姿になっていた。
「はっ、面白え。こんなことが出来るやつがいんのか。早く戦いたいぜ」
「あなたは・・・・・・」
副団長は、あなたの師匠のはず。よく、そんなことが・・・・。
「王様よ〜、これをやったやつが来たら俺に任せてくれよ」
「・・・・・・いいだろう。やってみせろ」
王は、内心は怒りに埋め尽くされていた。
敵ではなく、死体となった者達に対しての怒りだ。
よくも、我が悲願を、二度までも!!
「宰相。国中の奴隷を集め、軍隊を作れ、女子供もだ」
「かしこまりました」
「そいつらには、肉の壁になってもらう」
使用人に死体の処理を命じ、謁見の間から出て行った。
王が出て行った後、他の全員も謁見の間から退出した。
この場にいた誰一人、魔法陣が起動し続けていることに、こんなことを可能とする者が、攻撃魔法を直接放てるということに、気がつかなかった。
「・・・・・クズだな」
魔法陣からヤマトとセンゾウとその部下、そしてアルベルト達が出てきたことに誰も気が付かなかった。
「よし、姿を変えるから。好きに動いて、俺たちは奴隷を開放して来るから」
「「わかった」」
ヤマトとセンゾウは、部下を連れ、姿を消した。
「よし、アイナとセナは、この城の食料を占めといて。サクラとアリスは奴隷達を、俺とラキナは、ミアっていう人と合流するから」
「「わかった」」
「ああ、任せろ」
「よし、行こう」
それぞれが、帝国を内部からぶち壊すため動き出した。
「で、ミアさんはどこにいるのかわかるの?」
「いや、この国にいるということだけじゃ」
何も手がかりないじゃん。
どうしたもんかな。
「あ、その人って魔法が得意なんだよね」
「そうだな」
「なら、魔力が多い人を手当たり次第当たれば・・・・」
「それが早いのー」
なら早速。
この部屋にある感知装置にぎりぎり引っかからないほどの魔力を国中に広げる。
大きな魔力がふたつ引っかかる。
人の魔力、おそらくミアさんだ。もう一つは・・・・・地下か?
機械みたいなのがあるな。
とりあえず壊しとくか。
ただ、破壊するとバレるから、機能だけを殺す。
「時魔法:時止め」
機械に施されていた魔法、機能を全て停止させた。
もう一度起動するには、同じ時魔法で時間そのものを動かす必要がある。
「ま、そんなことさせないけど」
機械に埋め込まれた、巨大な水晶を転移させ、目の前に持ってくる。
「おい、これは・・・・」
「知ってるの?」
「これが、ナーマだ」
「え、あのソロモンの?」
「殺していいの?」
「別に構わんが・・・・・」
(いいよ。楽にしてあげて)
この人のことはよく知らないが、魔力からして人間ではないし、何より大罪能力者だ。
それに、マルスさんも承諾してくれた。
水晶に入れたまま、命だけを刈り取った。
そして、何も変化のない水晶を機械に戻した。
「これで、バレないな」
「お前は最近、容赦ないな」
「そう?」
確かに、大罪を吸収した時から、罪悪感とかは感じなくなったな。
「あなた方でしたか」
ミアさんらしき人のところに行こうとしたところで、声をかけられた。
まさか、バレた!?
「ミア、久しいな」
「ええ、ラキナさんも、お元気そうで」
この人がミアさん?
子供じゃないか。
「あなた、アルベルト君ね。見た目はこんなだけど、一応数百年生きているのよ」
「あ、すみません」
つまり、ばば・・・・・、
「あ?」
ひえっ・・・・。
「それより、なぜここに?」
「この国を崩壊させるためですよ」
「あなたが、魔法を打ち込めばいいだけじゃないの?」
「それだと、国民に被害が及ぶから」
確かに、一発、中心地に打ち込めばそれで終わるが、怨嗟を残さないためには、腐った部分だけを取り除けばいい。
「なので、ミアさん。国民にこれから伝えることを、誰にもバレずに伝えてくれますか?」
その内容をひとつずつ伝えた。
「なるほどね。わかったわ」
そう言って、この場を離れた。
「俺たちの用事は終わったみたいだけど、どうする?」
「そうじゃな・・・・」
ラキナにどうするか聞いた時、扉が乱暴に開かれた。
「誰?」
「お前かー!!副団長の奴らをやったのはぁ!!」
ん?
こいつ、日本人か?
なんで、この世界にいるんだ?
それにしても、ものすごく好戦的だけど。
「どうするラキナ?」
「妾は、やらんぞ。面倒じゃ」
「あ、そう」
なら、俺がやるのか。
まあ、ちょっと強そうだし。おそらく異世界人特典とかもらってそうだし。
「ああ、俺がやったよ」
「そうか、ならオレと戦え!!」
「はあ、まあいいけど」
「何だぁ!?びびってんのか!?」
え、そう見えんの?
「いや、君、弱そうだけどいいのかなぁって」
「よし、わかった。お前、ぶっ殺す!!」
ちょろい。
こんなにも簡単に挑発に乗ってくるとは。
他の日本人がどれだけ強いのか試しにやろうか。
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