第8話 蹂躙
”君は僕なんだよね”
さて、この世界にこんなことを言われて理解できる奴はいるだろうか。
否である。
「えっと、どういうことですか?」
訳のわからないことを、言われただけでなく、その相手がマルスという英雄なのだ。
理解しろ、という方が酷だ。
「君は、僕の遺物を見れると思うんだけど、どこまで見た?」
「えっと・・・・、聖教国にあった四枚目までです」
あってるよな。
最近は、別世界にいたから内容以外はハッキリと覚えてない。
「なら、僕が’あっちに残した子’って言ってたのは覚えてる?」
「ええ、覚えてますよ」
あれは、二枚目だったような・・・・。
「そのあっちというのは、僕の魂のかけらを飛ばしたどこかの世界のことなんだよ」
「どこかの世界・・・・」
それは、地球ということなのか?
「僕の魂を残すことで、最高神たちを倒す手段と方法を伝授しようとしたんだ。それで、どこかの世界に分霊体を作った。それが君だ」
「なるほど・・・・・」
いや、なるほどじゃないけども!
規模が大きすぎるし、何で俺!?とも思うし、なら、あそこで死ぬのも運命だったのかとか、その他諸々あるけども。
「何で、あなたの魂があったのに、前の人生うまくいかなかったんですか!?」
これを聞いておきたかった。
なぜ、あなたほどの魂を持っていながら何もかもうまくいかなかったんだ。
「気にするところ、そこなの?」
イリアさんから突っ込まれた。
だって、この世界でとはいえ、救世の英雄の魂が入っていたのに、前世の俺は、あんなんだったんだから。
「ま、まあ、それは僕じゃどうしようもないから・・・・」
苦笑いをしながら言われた。
世界を救った英雄ですらどうしようもないとは・・・・・。
なんか、逆に誇らしくなってきたな。
でも、少し泣いていいですか?
「ねえ、話進めない?」
心の涙を流す俺を放って、イリアさんがマルスさんに言った。
冷たいな、この人。
「そ、そうだね」
マルスさんも、びびってんじゃないか。
「元々、そっちに居たフォルナ様に頼んで、君が死んだ時点でこっちに連れて来るようにしたんだ」
「あの時に声が聞こえたのは、そういうことなんですね」
死ぬ間際に神の声が聞こえるなんて、小説の世界でしか知らない。
「その後は、君の知っているように僕と関わりのある人のところに転生させ、母さんや僕を知っている人と関わることで、君の中の僕の存在力を強くしていったんだ」
「存在を強くしたのは・・・・・・」
乗っ取るとか?
それだったら困るなー。
「ああ、乗っ取りとかじゃないよ。君の中で僕の存在が強くなればなるほど、僕の力を君を通して使えるんだ」
「それって、結構すごいことですね」
ていうことは、あの雷を落としたりできるのか。
あれに関しては、今でもやろうと思えばできるが、英雄には俺の知らない力がまだまだあるはずだ。
「私の場合は、あなたのそばにいるアリスちゃんよ」
「え?アリスも?」
アリスも、俺と同じなのか?
「ああ、彼女は違うわよ。この世界の人間で、才能があっただけだから」
「はあ・・・・・」
やっぱり天才なのか。
「君はすでに、僕たちの敵を、戦うべき相手を知っているだろうから、そこは説明しないけど、これからは僕が君の中から教えることもあるだろうから、よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
英雄がそばにいるのか、これ以上に心強いことはないな。
「そろそろね。マルス、私はアリスちゃんの中に戻るわ」
「・・・・・ありがとう、イリア」
「また、会えるわ。この二人が離れない限りね」
「大丈夫ですよ。そこだけは何があっても」
「よろしくね」
イリアは、最後は笑顔で消えていった。
「じゃあ、目覚める時間だ。大罪と向き合い克服したんだ。ちゃんと使えるようにね。それと、母さんによろしく伝えといて」
「はい。では、また」
世界が白くなり、精神世界とのつながりが消えていく。
「頑張ってね」
その言葉を最後に現実世界に引き戻された。
◆◆
「起きたか」
ラキナの声が聞こえる。
戻ってきたな。
「どれぐらい眠ってたの?」
「二日じゃ」
「は?二日?」
そんなに経ってたの?
精神世界での時間感覚はどれくらいなんだ?
(ここでの半日が、現実での一日ぐらいだよ)
うわぁ!
(話しかけると言ったじゃないか)
そうですけど、これは驚きますよ。
「どうした?」
「いや、何でもない」
創造神と二人になって、頭の中が騒がしくなりそうだな。
「それより、寝てる間なんかあった?」
目覚めてから気配を濃く感じる。
国中が慌ただしくなっているのも、敏感に感じ取れる。
「それはだな・・・・・」
「あれ、アルが先だったんだ」
ラキナが何か言う前に、アリスが起きてきた。
「おかえり、イリアさんとは話せた?」
「うん。色々聞いたよ」
「色々?」
「アルのことについて」
「え」
どこまで聞いたんだ?
「おい、ちょっと待て、あいつらと話たのか?」
アリスに聞こうとした時、ラキナが詰め寄ってきた。
「マルスさんがよろしく言っといてって」
「イリアさんも言ってた」
ラキナはそれを聞き、顔を背け「そうか」とだけ言った。
「「「アル!!」」」
アイナたちも入ってきた。
「ただいま。ごめんね、迷惑かけたみたいで」
だいぶ迷惑かけたみたいだ。
三人とも、すごくホッとした顔で、肩の力が抜けたみたいだ。
三人を見て気づいたことが一つ。
「セナ、なんか変わったよね?」
明らかに、ここにきた時とは雰囲気が違った。
「ああ、私は精霊だったみたいでな。その力の使い方を教えてもらったんだ」
「すごいじゃん」
よくわからんけど、また強くなったんだ。
「それで、何が起こってるの?えらく、慌ただしくなってるみたいだけど」
「それが・・・・・」
アイナの説明によると、帝国側から、全面戦争の宣戦布告をしてきたらしい。
戦争をするか、ムラマサさんを渡せということだったらしく、即決で戦争を選んだらしい。
「そんなことが・・・・・」
これは、国民のみんなに頑張ってもらおうかな。
ふふ、試作品の実験台になってもらうとするか。
「アル、どうしたの?」
「いや、ちょっとね。王様ってどこにいる?」
◆◆
「おー、目が覚めたのか」
王様が書類を整理しながら身を案じてくれた。
「なんか、大変そうですね」
「そりゃ、戦争だからな」
そうだよね。だから、来たんだ。
「王様、一つ提案があるんですが」
「リョウマでいいぞ。それで、その提案って?」
リョウマっていうのか。
この人は、本当にいい王だ。人の話を聞いてくれる。
「これなんですけど」
手のひらサイズの水晶玉を見せた。
「それは?」
「はい。これは、相手に投げつけ割ったり衝撃が加わることで、この中に設置してある魔法が発動する使い捨ての魔道具です」
「・・・・・・・・」
リョウマ様は、目を見開いて驚いている。
「・・・・・そんなことが可能なのか?」
「はい、これを国民一人にほぼ無限に配り、帝国軍に放り投げて貰えば軍を出さずに勝った、という事実を帝国に思い知らせることができます」
民だけで、軍を使わずに勝ったという事実は、帝国の中枢に大きな痛手になるし、今後のためにもなる。
「だから、説明をしろ、ということだな」
「そうです。俺では、無理なので」
「わかった。皆には俺から言おう」
「では、一つ渡しておきますね」
リョウマ様に一つ、とっておきのを渡す。
「ちなみにこれには何の魔法が?」
満面の笑顔で答える。
だから、そんなに引かないでもらいたい。
◆◆
〜戦争当日〜
「いいか、皆!これから行うのは戦争という名の敵討ちだ!コジロウさんが、俺たちの家族が殺された!その敵討ちだ!遠慮なく友人から受け取った力を使ってくれ!」
「「「「おおおおおおお!!!!」」」」
王の言葉に民が熱狂する。
魔道具の説明はあっさりと終わった。
民が、速攻で了承したからだ。
「これは、もう勝ったな」
「そうね。王族の私が見てもそう思うわ。ここまで、民に慕われる王なんてそうそういないわ」
アレク様達も、慕われてたと思うんだけど。
アリスに聞くと、
「それは、一部の人たちよ。王都は、私たちが知らないだけで腐ったところがあるの。外に出てきてわかったんだけどね」
「そうなのか・・・・・」
それは、いつか綺麗にしたいな。
英雄が夢見た世界を作るためにも。
「おい!来たぞ!」
見張りの一人が声を上げる。
正門に集まり、散らばっている民に緊張が走る。
「私は、帝国の使者である。ここに、宣告した戦の火蓋を切る!!投降するならこれが最後だぞ?」
帝国の使者が、書状を読み上げる。
「そんなことはしないさ。徹底的にぶっ潰してやる」
「・・・・・軍の姿が見えんが?」
「貴様らに出す兵などいないさ、民達の力で十分だ」
「・・・・・貴様、我らを愚弄するか!!」
それを聞いた王が口調を変える。
「我が国の民を殺し、あまつさえ戦争まで吹っかけて来るような奴らに対する敬意など持ち合わせてはおらんわ!」
「!!・・・・・いいだろう。やれるものならやってみろ」
今、完全にびびっただろ。
よく、その言葉が出せたな。
使者が帰り、少しした頃、火の玉が打ち上げられた。
「あれは?」
「攻撃開始の合図よ」
アイナが答える。
「なら。リョウマ様、合図したらその水晶玉を投げてください」
「ああ、わかった。・・・・だが、本当に発動するんだな?」
「信じてください。必ず、この国には一切手を出させませんから。まあ、一瞬だと思いますけど」
口で説明されただけでは、理解は難しいのはわかってるが、信じてもらうしかない。
それに、今回はヤマトさんも、センゾウさんにも遠くから見守ってもらっている。
ラキナたちは、アイナの作った料理を食べてティータイムを楽しんでいる。
帝国の軍が近づいてくる。
「・・・・・・今!!」
「!!」
言葉と同時にリョウマ様は、水晶玉を投げる。
それは、まっすぐ飛んで行き、先頭の兵に当たり、地面に落ち、割れた。
水晶玉に設置した、魔法が発動し、魔力が溢れ軍の足が止まる。
「「「「「「・・・・・・・・・・!!」」」」」」」
王と民が目を見開き、口を明け驚く。
「大地魔法:崩神です。これで、全帝国兵は地面の下に落ちました」
日の国、周囲半径五〇キロまで見たが、誰一人としていない。
落ちたものの中には、それなりに強い人もいたが知ってこっちゃない。
「さあ、皆さん。手に持っている水晶玉をテキトーに放り投げてください」
「「「「「お、おう」」」」」
だから、引くなって。
民のみんなが申し訳なさそうに水晶玉を投げる。
そんな顔しなくても、彼らは敵だよ?
中には、声に出し謝りながら投げている人もいる。
日の国には水晶が割れる音に続く、帝国軍の絶叫が響いた。
「よし、戦争終わり!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます