第7話 君は僕
「・・・・・なんて?」
ミアは報告に来た部下に聞き返した。
「はい、明後日をもって帝国軍は日の国へ大陸間の全面戦争を仕掛けるとのことです」
「なにが目的で?」
「何でも、神匠と呼ばれる刀鍛冶をこちらに引き込むそうです。そのために隷属の魔道具まで用意しているらしく」
呆れた。
超越者を一人、あのコジロウを殺せただけでも十分だと思っていたのに。
「分かったわ。準備しといて」
魔法師団長としての命令をした。
「はい。かしこまりました」
部下を下がらせ、背もたれに寄りかかった。
ムラマサを使って何を・・・・・。
月詠ほどの刀の生産?
それとも彼にしか作れなかった・・・・。
「・・・・・そういうこと」
あの王は、不遜にも永遠の命を。
賢者の石が欲しいのね。
ミアは伝播鳥を呼び、足に先程の内容を書いたものをくくりつけ外に飛ばした。
「誰か」
それとは別に人を呼ぶ。
「はい、何でしょうか」
「あなたたちも、この国を出る準備をしておいて」
「わかりました。どこへ行くべきでしょうか」
「そうね・・・・・」
どこがいいかしら、王都、いや日の国もしくは周辺諸国?
一番帝国の根が届かない場所は・・・・、魔王の所か。
「魔界に、これを持っていきなさい」
封書を渡し、魔王に渡すように言った。
フードの女は、受け取りすぐにどこかに消えた。
彼女らは、故郷から何かしらの理由で捨てられた孤児、または娼婦に売られるところを救われ、隠密・暗殺だけを徹底的に叩き込まれた、その存在証明すら不可能と言われる第零部隊。
この世界を情報を持って裏から操る知る人ぞ知る最強の部隊。
世界中の諜報部隊がその正体と、後ろに誰がいるのかを探ろうとしたが、分かった情報はただ一つ。
時の英雄に従っているということだけ。
「はあ、忙しい・・・・」
ミアはため息をつきながら、準備に入った。
◆◆
「お、できてるじゃねえか」
ジンベエは、目の前で淡い緑の光に包まれるセナを見て言った。
セナは、ジンベエに気づかない。
精霊に成った。というより戻ったというべきか、前以上に世界に馴染んでいた。
「あ、ジンベエ様」
「やっとか・・・・・」
ジンベエが来てから長いこと近くにいたが全く気がついていなかった。
「いつからそこに?」
「・・・・・ついさっきだ」
嘘をついた。
人生で数少ない嘘をついた。
「それより、できたな」
「はい。自分としっかり向き合えた気がします」
髪は薄い緑がかかり、雰囲気もエルフのものとは違っていた。
「よし、なら次は力の使い方を教えてやる」
「霊力のですか?」
「そんなところだ。昔、お前さんと同じ精霊体の奴がいたからな、そいつの戦い方を教えようと思ってな」
「いいんですか!?是非お願いします!」
最初の時とは、えらく違うテンションに驚いたが、久しぶりの教え子に気合を入れた。
「よし、なら戦おうか」
「はい!・・・・・・はい?」
「ん?どうした。いつでもいいぞ?」
「あの、いきなりですか?」
最初は、見て覚えるのだと思っていたため、困惑した。
「実戦で覚えろ。それだけだ」
あ、この人もそうなのか。
ラキナ様も、イニクス様もそうだった。
最強格はみんなそうなんだろうか。
「わかりました・・・・。では、行きます」
セナは精霊化を使う。
ブワァッと柔らかな霊力が体の中から溢れ出てくる。
「まずは、その状態で殴ってみろ。衝撃は地面に流す」
ジンベエは掌を見せる。
「わかりました」
素の状態よりもはるかに力の増した拳を打ち込んだ。
ジンベエの言った通り、衝撃が地面に流れヒビが入る。
「次は、それを力を流したい方に流せ」
「流す・・・・・」
体全体に無造作に流れる霊力を握っている拳に集める。
片方の拳に覆い被さるように霊力が集中する。
「そうだ。そのまま来い」
ジンベエの掌に打ち込んだ瞬間、霊力が衝撃波となってジンベエの体を伝い地面に逃げる。
「!?」
セナは、地面に逃げた衝撃が起こした現象に目を見開いた。
何にも変わっていなかった。
え、なんで?
明らかに、前よりは威力あったと思うんだけど。
「ふむ。そうなったか」
ジンベエ様は、一人で納得したようだが、全くわからない。
「地面を触ってみろ」
「はあ・・・・・」
言われるがまま、地面に手をついてみる。
え?
手をついたところが崩れ、腕が地面の下に埋まっていく。
慌てて、手をあげる。
「これは・・・・・」
「それがお前の霊力の性質だ」
「霊力の性質ってどういうことですか?」
「今、殴った時に地面が陥没すると思っただろ?」
「はい」
「でも、こうなったのはお前の霊力の性質が表面にダメージを与えるものではなく、内部にダメージを与えるものなんだ」
「内部に?」
だから、地面の中だけがボロボロだったのか。
つまり、体内の破壊ができるようになったと。
「理解したな。なら、それを連続して出せるようになるまで相手をしてやる」
「お願いします」
セナは、霊力を両手に集中させジンベエに向かっていった。
◆◆
「「はあ、はあ、はあ、はあ」」
ボロボロのマルスとイリアは座り込んで上を向きながら息を切らしていた。
「や、やっと終わった・・・・」
「予想・・・・はあ・・・・以上に、疲れたわね」
二人の前には、アルベルトが倒れている。
やっと大罪を四つとも吸収し終わり、感情の化け物との戦いが終わった。
「ちょっと、強すぎたね」
「そうね」
アルベルトは、四つ目の強欲に進んだ時には、怠惰も暴食も憤怒も、そして強欲も同時に使っていた。
魔法を放てば、吸収され、怒り狂っていたため攻撃も激化し続け、物理攻撃さえも”強欲”で吸収されていった。
そして何より、少しでも休めば全快するという”怠惰”の力もあったため手のつけようがなかった。
「起きるかな?」
「起きなかったらまずいわよ」
一番大事なのはここから。
アルベルトが起きることは大前提だが、感情が残っているかどうかが二人にもわからない。
「うっ・・・・」
「「きた」」
アルベルトが呻き声を上げた。
「痛ってえええええええええ!!!!」
「「え?」」
予想外の絶叫をあげたアルベルトに二人は、驚く。
「なんで!?めちゃくちゃ痛いんですけど!!」
「「・・・・・・・」」
二人の内心は・・・・・・
(ヤバい。流石にやりすぎたかも)
(それは、あなただけでしょ?流石に、神格まで降ろして神聖剣まで使ったらああなるわよ)
(君だって、四将全員をまとめてぶっ飛ばしたやつ使ったじゃないか!)
(それは・・・・仕方ないじゃない!)
(僕だってそうだよ!)
罪悪感で埋め尽くされていた。
「だ、大丈夫かい?」
「ってええええ・・・・・え?・・・・・誰?」
マルスの声に気が付き、アルベルトが痛がりながらも振り向いた。
「君がアルベルト君だね」
「そうですけど・・・・」
「僕はマルスって言うんだ。で、こっちが」
「イリアよ。よろしく」
「マルス?イリア?」
アルベルトの時が止まった気がした。
「ええええええええ!?」
なんで?
え、この二人ってあの英雄だよね?
なんで、精神世界にいるんだよ?
しかも、普通に生きてるし、霊体とかじゃないし。
「まあ、驚くのも無理ないんだけど」
「ラキナさんから何も来てないのね」
「ラキナから?」
まあ、彼女は過去のことについて何も教えてくれてないけども。
「僕が言っていいのかな?」
「いいんじゃない?ここは、精神世界だし。大罪を乗り切ってるんだから」
「そうだね」
「大罪を乗り切った?」
あ、確かにあの球体がひとつもない。
全部終わったのだろうか。
「まあ、前提から説明すると。
ーー君は、僕なんだよね」
うん。わからん。
◆◆
「ラキナ様。二人はどうですか?」
「アイナか。今のところどうともないぞ」
「そうですか」
ラキナはあれから一時間。
ずっと二人のそばから離れなかった。
「食事を持ってきたのでよかったらどうぞ」
「すまんな」
「いえ。それよりも二人があの英雄と関係があったとは。何となくそんな感じはありましたが」
アイナは、ラキナからそれなりに聞いていた。
「おそらく目覚めたらこいつらも色々知っているだろうから、詳しいことは二人から聞いてくれ」
「はい・・・・」
ラキナは相変わらず、自分の口から教えようとはしない。
どこか後ろめたいことがあるのか、それを知るのは本人だけだ。
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