第5話 天使再び
セナの体内魔力がなくなったことで、人間が強制的に酸素を取り込もうとするように、セナの体内に魔力とは違うものが集まってくる。
「これは?」
「それが、霊力だ。大気中の精霊がお前という上位の精霊に還っているんだ」
「霊力って、精霊化した時に使うものじゃ・・・・」
霊力の存在は知っている。
エリス様が精霊化をするとき、私自身が精霊化するときに体に纏わりつくものだ。
「これまでは、霊力が外から来ていたはずだ。おそらくお前の知り合いも同じだろう。だが、これからは、それもお前の体内で生み出し、循環させろ」
「それができれば、調和できるのですか?」
「いや、まだスタートラインに立つだけだ」
「そうですか」
アルベルトに教えてもらい魔力の永久機関を作り上げるだけでも大変だった。
なのに次は、体内に入れたことすらない霊力だ。
「やってみます」
「おう、気長にな」
ジンベエは、後でな、と何処かに行ってしまった。
「魔力と同じ方法で、まずは霊力を体内で感じるところから・・・・・」
精霊は、霊力でできている。
人間が、魔法を行使する際に、彼らが感じ取れるように魔素に変化し、魔力として使うのであって、元は霊力からできている。
つまり、霊力は精霊にしか使えず、精霊卿で精霊になれと言われたアルベルトも、使おうと思えば使える。
「魔素になる前に、魔力になる前に留める」
今は、ただ外部から入って来ているのを、体内で作るためには、魔力を作ろうとした際にあるいくつかの工程を省き、一番最初の工程のさらに最初の時点で完結させる。
十の工程の内、最初の工程をさらに細分化してそこで終わらせる。
「できるかな?」
考えれば考えるほど、不可能に思えてくる。
アルと出会ってから、これまで思ってもいなかった域まで来ることができたけど、それは、お手本があったからこそ到達できた。
精霊の扱いに関しては、故郷のみんなが、超越者や到達者に関してはアルベルトが、戦い方に関してはアリス・・・・・は本能的すぎて参考にならなかったが、手本は周りにありふれていた。
しかし、今回に関してはそれがない。
「やるしかない、アルにこれ以上負担を背負わせたくない」
これまで、アルに何度も救ってもらい、何度も迷惑をかけた。
アルは気にしていないようだったが、日に日に何かを背負い続ける彼にこれ以上背負わせたくなかった。
セナは、集中力をさらに上げ、霊力の感知に力を入れた。
◆◆
「アリスさん、いかがでしたか?」
ヤマトは、一通り、日の国の剣技を見せた後アリスに聞いた。
「よかったよ、でも一つ聞きたいんだけど」
「なんでしょうか」
「この剣技ってさ、全部繋がるよね?」
「はい?」
ヤマトは、アリスが円環流を使えることは聞いている。
「それは、円環流から派生したものだからでしょうか・・・・」
「ううん。円環流とはちょっと違うかもだけど。やってみるね」
「え、はい」
何をするんだ?
アリスが、鉄の剣を構える。
それだけでも勝てないと確信できるほどの覇気が溢れている。
日の国には、大きく分けて三つの剣技がある。
ヤマトの使う攻めに特化した『無心流』、サクラの使う守りの剣『守護剣術』、一芸に特化していないが攻守に優れた『守勢剣』。
それはすべて、『円環流』を分け、派生させたものであるため、アリスのような円環流を使える者には、何があっても敵わない。
「ちょっと、ヤマトさんの刀で攻撃して来てみて」
「では、行きますよ」
ヤマトは、アリスには敵わないが、この国で間違いなく最強候補には上がる刀の達人だ。
周りにいる戦士団員も固唾をのんで見守る。
アリスの実力を知らないため、あの団長の本気の斬り込みに緊張が走る。
ヤマトが一番得意とする刀技、無心流の中でも『必殺の技』と呼ばれる確実に敵を惨殺する剣、それを構えるアリスに向け放つ。
初撃目、アリスは普通に受け止める。
そして二撃目、ヤマトの剣を流し受ける。
それは予想の範疇だったのか、すぐに三撃目を放つ。
ヤマトは、攻撃をし続け、違和感に気づく。
これはっ!
刀を振らされている!?
なるほど、守護剣術で相手を操りながら、攻撃をする。
そうか、そういう風にできているのか、円環流は。
我々は、円環流から派生した県議を使い、それを極めようとする。
しかし、円環流は、それらをすべて極め、さらに洗練されて初めて円環流に手をかけることができる。
できるかどうかは別だが・・・・。
「あなたはとんでもないですね」
「なんで?」
ヤマトの刀を軽々といなしながらアリスが答える。
「あなたがやっているのは円環流にオリジナルが加わっているでしょう」
「分かるんだね」
「まあ、私もそこを目指してましたから!」
自分の理想を目の前で体現する歳の離れた美女を見て、胸を借りようと判断した。
「アリスさん。私の全力を受けていただきたい」
もはや、どちらが年上かわからないような会話だ。
日の国では、年功序列の気質があるが、剣の道では、その技量がすべて。
この時点で、アリスに敵うものは誰一人としてこの場には、いない。
「いいよ。私も見てみたい」
「ありがとうございます」
アリスから離れ、礼をする。
「すぅ・・・・ふぅ・・・・・」
ヤマトが呼吸を整える。
「無心流:天」
無心流を極め、最も相手を殺すのに適した刀技。
アリスの懐に入る。彼女の目を見ると確実にこちらを見ていた。
冷や汗が止まらない。
だが、こんなにも恐怖を感じる瞬間はこれから先、一度もないと思える。
これほどの機会はそうそうない。全力をぶつける!
刀を下から振り上げる。
一撃目は、相手の
アリスも気づいたのか、剣を叩きつける。
すっ。
ヤマトが刀から手を離す。
「!?」
アリスもこれには予想していなかったのか、驚きが表情に出る。
アリスの剣に刀の先が押され、持ち手が上になる。
ヤマトが刀を取り、今度は上から振り下ろす。
アリスの剣は地面にめり込んだまま。
入ったか!!
ヤマトは、確信をした。
刀は、そのままの威力でアリスの頭に直撃した。
ガキィィィィン!!
が、あと少しのところで何かに阻まれた。
「羽根?」
ヤマトの視界には純白の翼がアリスを守るようにあった。
何だこれは?
彼女から生えてるのか?
刀が押され始める。
「くっ、つよっ・・・・」
力負けし、ヤマトは後ろに下げられた。
「何ですか、それは・・・・・」
「ごめんなさい。まさかこれを使わされるなんて思わなかった」
アリスの姿、それはまさに天使。
その容姿も相まって、そうとしか形容できないほど美しい姿をしている。
「あなたは、天使ですか?」
「うーん、どうなんだろ?一応、まだ人間だけど・・・・」
一応とつけるあたり、普通の人間が翼などは生やせないことを分かっていた。
戦闘狂でも、そこまでぶっ飛んでいない。
「でも、ヤマトさん。やっぱり強かったね」
「そうですか?まあ、あなたに言われたら嬉しいですね」
「うん。ここまで追い詰められるの、アルかラキナちゃんぐらいだもん」
懐にはアリスから入れさせたものの、並大抵の実力なら初撃目を仕掛けた時点で負けている。
「あれ?」
「どうしました?」
アリスが突然、屋敷の方角に振り向き、訳がわからないという表情をした。
「アリスさん?」
翼を生やしたまま、アリスが屋敷の方へ飛んでいった。
「どうしたんだ?急に・・・・」
しかし、飛ぶ姿を見ると本物よりも天使だな。
部下たちに、断りを入れ休憩に入った。
「アルっ・・・・・!!」
アリスは、アルの変化は全て分かるという、変態的な感覚を持っていた。
アリスが、ヤマトとの模擬戦が終わった頃、ちょうどラキナがリョウマとセンゾウに事情を聞いていた時だった。
アリスが、常に感じているアルの気配が薄くなったり、濃くなったり、別の何かがアルの中に生まれたことを感じ取っていた。
だが、不思議と正体がわからない何かには、どこか懐かしいといった感覚を感じていた。
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