第3話 忍術

「では、私から行かせていただく」

戦士団長が、その場から動かず、刀だけを振る。

まさか・・・・。


「これは、爺さんの?」

とんできた斬撃を体で受け止めながら言った。

「お師匠様を知っておるのか。それにしても、私の斬撃を受けて傷一つ付かないとは・・・・」

これはまいったなー、とすでに諦めかけていた。


「情けないぞ、ヤマト。全力を出せ」

ヤマトっていうのか戦士団長さん。


「忍者とは、隠密の部隊。だがこうして姿を見せた以上、真正面から行かせていただく」

直剣を構え、もう片方の手で印を結んでいる。

か、かっこいいー。


「忍法:分身の術」

唱えた瞬間に、同じ格好をした忍者が大量に現れた。

すげぇ、これが忍法か。

魔力時の流れが独特だったな。

みんなと戦った時のとは、ちょっと違うな。


「確か、こんな感じか?」

見様見真似で、同じ印を組み唱えてみた。


ボボボボン・・・・・。


「お、できた」

俺の周りには、相手よりは少ないが、同じ強さの分身が三人。

オリジナルと合わせて四人。

これで、一人につき、二人で相手をする状態になった。



「「・・・・・・・・・・・・」」


ヤマトと忍隊長の間で沈黙が流れる。

お互いに顔を合わせ、頷いた。


「「参りました」」

武器を横に置き、膝をついて降参の意を示した。


「なんで!?」

まだ何もしてないのに!


「いや、一人ならまだしも四人相手にするのは・・・・」

「それに、秘術の一つを一度見ただけでできるようになるような奴には敵わん」

「あ、そうですか・・・・・」

もう少し、戦いたかったんだけど。

それに、忍術ももう少し見たかった。

頼んだら教えてくれるかな?



「お前さん、つえーな」

王様が予想以上の状況に、いやー驚いた、と言いながら肩を叩いてきた。

「どうも」

「一応、あいつらコジロウやジンベエさんを外したら最高戦力なんだが・・・・」

お前さんならこの国一日で滅ぼせるな、と笑っていた。

滅ぼすつもりはないけど・・・・。


「そろそろ、行こうかね」

「そうですね」

乱入者がたくさん来たため、なかなか進めないでいた。


「おい、ラキナ起きろー」

「んあ?」

暇すぎたのか、腹一杯食って眠くなったのか鼻ちょうちんを出しながら寝ていた。


「ラキナちゃんは相変わらずだねー」

「そうですね」

アリスたちからも呆れられているが、気にしていない。


血溜まりとなった男と殺気だけで死んだ取り巻きの痕跡を綺麗に消して、王城へと足を進めた。




◆◆




「ここが、俺の家だ」

王様に案内され、この国の王城についた。


「これって・・・・・」

城っていうより屋敷だな。

それを証明するように、コーン、コーン、と音が響く。


「鹿威しか・・・・いいな」

この国はもう、ほとんど日本だな。


「お、これ知ってんのか?」

「ええ、昔ちょっと」

「これは、大昔に俺の先祖が神に教えてもらったんだと」

もしかしたら桜の木もコウタロウさんが植えたのかもな。


「じゃあ、この国にいる間は空いてる部屋を使ってくれて構わんぞ」

「ありがとうございます」

使う部屋を決め、自由行動をすることにした。


アリスは、戦士団長に日の国の剣技を教えてもらいに。

アイナは、この国の食材を見に。

セナは、適当に歩いてると言っていた。

ラキナはもちろん昼寝だ。


そして俺は、


「忍術を教えてもらいたいと?」

忍隊長の元に行き、忍術を学びに来た。

名前は、センゾウさんというらしい。


「はい、分身の術は見せてもらいました。他に何かありませんか?もちろんタダとは言いません」

忍術を学べるなら、できることは何でもするつもりだ。


「ならば、その大罪能力を自分のものにするというのはどうですか」

「え?」

そういえば、あったな大罪能力。

いろんな力をつけすぎて忘れていた。


「自分の能力にとは、どういうことですか?」

「あなたは、確かに最強に近い。だが、大罪能力はこの世界に初めて現れた自然発生の能力です」

「自然発生?」

「ええ、スキルなどが作られたことは?」

「知ってます」

それは、知ってる。

シルビアさんに教えてもらった。


「大罪能力は全部で七つ。元は、コウタロウ様たちが世界を作る前、人間という概念と魔物という概念を作った存在がいました。名は、リリス」

「リリス・・・・」

この忍者、色々知りすぎじゃない?


「はい。しかし、彼女が作ったのは無機質な人間だけ。そこで、感情という概念を生み出すために生み出したのが大罪能力です」

「なら、この能力が感情の元だと?」

「そういうことです。それを全て集めることで、彼女に会うことができると」

「・・・・・・・・・・」

「まあ、真実かどうかは知らないんですけどね」

えー・・・・。

でも、あまりにもリアリティーがありすぎて事実に思えてくる。


「そのリリスはどこにいるとか伝わってないんですか?」

「浮遊城ですよ」

センゾウさんは空を指差しながら言った。


「あそこに大罪能力があれば行けると?」

英雄やラキナでも行けなかったのに?

「ええ、日の国に伝わる書物にはそう書いてありました」

そういうのも、日本に似てるな。何でも書として残すとか。


「それで、教えていたただけるんですか?」

「いいですよ。ただもう一つ。新しい忍術を編み出してくれませんか?」

「俺にできるなら」

「交渉成立ですね」

大罪能力のことは後で考えよう。

今は、忍術への興味の方が優先的だ。


「では、早速・・・・・。私を斬ってみて下さい」

印を結んだ後に、そう言ってきた。

センゾウさんの魔力と気の流れを見ても特段変わったところはない。


「いきます」

言われた通り、渡された刀でセンゾウさんを斬る。


「!!」

明らかに斬った感覚があった。

ボンッ!


センゾウさんの体が煙となって消え、後には切れた葉っぱが一枚。


「これが、忍法:身代わりの術です」

「すげぇ・・・・。確かに斬った感覚があったのに」

それに、魔力も気も実体と変わりがなかった。

俺が前回作ったのは、一瞬だけのものだが、これは攻撃を喰らうまで、実体としてあり続けるものだ。


「これは、忍者が最初に身につける術です」

「最初に?」

「ええ、忍者は隠密部隊ですが、生きて帰って来れなければ意味がない。まずは、逃げる手段から身につけるのです」

なるほど、情報を盗むことは命懸け、逃げることも重要ということか。


「では、印は基本的に好きなもので構いません。やり方としては、身代わりとするものに自分の情報を投影する感じです」

「投影って・・・。全情報をですか?」

「はい」

「それを瞬時にやれと?」

「そうです。でなければ普通に斬られますよ」

まあ、あなたはそう簡単には斬れなさそうですが、と笑う。


アルベルトは、手に葉っぱを一枚取り、集中する。

情報を完璧に投影するには、まずは、自分の情報を知る必要がある。

頭のてっぺんから足の指先、髪の毛の先端から爪の先、体内に流れる血液や伝達物質、脳から送られる情報物質、体細胞に至るまで、全てを読み取っていく。


そして、あと少しとなったところで、心臓付近にある影が邪魔をした。

「何だ・・・・・今の・・・・」

イニクスさんとの修行の時でもここまで脳の演算能力をすり減らしたことはなかった。

あ、意識が・・・・・。




◆◆



サクラが連れてきたアルベルトという青年が忍術を学びたいと私の元に来た。

私の眼は少し特別なもので、相手が超越者であろうと、それ以上の存在であろうと、情報体を見ることができる。

眼のことを知るのは、王とコジロウ様だけ。

コジロウ様がいなくなった今は、王と自分だけとなった。


一眼見てわかった。

彼は、彼自身が魔力を生み出す存在で、仙気も扱え、見たこともない力を持っていた。

そして何より、大罪能力者だった。

以前、この国で内戦があった際、現王の敵の懐に入り、情報を探っていた。

その際に、書庫で一際古い書物を見つけ、読むとそこには歴史が記されていた。


リリスという全ての始まりにして、誰も到達したことのない浮遊城の行き方などが書かれていた。

この世界の創造神は、最高神たちとの戦いに敗れ、隠れたということ。

他にもいろいろ書いてあったが、一番目を引いたのは大罪能力の使い方。


大罪能力は、リリスが感情を無機質な人間に覚えさせるため、人や魔人の姿をしたスキルらしい。

能力は、全部で七つ。しかし、七つが一つの器に集まって初めて真価を発揮する。

それが、浮遊城への鍵となり、リリスとの謁見するための権利となるということ。



そして、今日この日、大罪能力を四つ、集めた青年が日の国へ来た。

浮遊城の鍵を手に入れられるようになるまで、あと三つ。

だが、彼は力を手に入れすぎて忘れているようだ。

大罪能力に魔力が回っていない。

そこで、忍術の教えの対価として、大罪能力のことを意識するように促した。


最初に一番の難易度を誇る身代わりの術を見せた。

これができるようになるには、自分の情報体ーーありとあらゆる情報ーーを知る必要がある。

彼が、自分を知れば大罪能力について何かがわかるかもしれない。


あわよくば、私も知りたい。

隠密としての性が、未知への探究心を燻った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る