第7章 大帝国編

第1話 変わりゆく世界

英雄とは何か。

弱きを助け、強きを挫く者か。

絶望の淵に希望の光を届ける者か。

アイツならと、命を預けられる者か。

弱くとも、大衆に興奮を与える舞台役者か。

それとも、女の子を助ける者か。


では、弱きとは何か。

生存競争の下にいる者か、力・権力に抗えない者か。

はたまた、強きとは何か。

人の上に立ち、詐取する者か、力で全てをねじ伏せてきた者か。


英雄は、世界にありふれている。

子供にとっては、親が、騎士が英雄に見えるだろう。

今この瞬間にも、英雄が生まれては何かを成し遂げている。


小さな村に生まれ、数千年分の歴史を背負った少年は、誰の英雄となり、何を成し遂げるのか。


著:アイナ・モトギ『新・英雄物語〜あらすじ〜』より



◆◆




「お世話になりました」

18歳となり、すっかり大人びたアルベルトは、イニクスに挨拶をしていた。

”すっかり、様になったな”

イニクスはアルベルトと、その後ろにいる女性たちを見て笑いかけた。


「ええ、おかげさまで」

”では、行って来い。世界は広いぞ”

「はい!行っていきます!」


イニクスは、出口を作り出し、アルベルトたちを送り出した。

『世界は広い』その言葉は、ちゃんと届いただろうか。

イニクスは、技術の全てをアルベルトに叩き込んだ。

だが、それだけではまだまだ足りない。


イニクスは、この大陸では最強だ。

しかし、世界はこの大陸だけではない。

イニクスでは、弟妹たちには勝てないし、強者は常に生まれ続けている。


”お前が英雄になる日を楽しみにしているぞ、アルベルト”




◆◆




「おおー、懐かしいなー」

ゲートから出て、久しぶりに外を見たアルベルトは、手を広げ空を仰いだ。


「アル、まずはどこに行くの?」

子供から大人になり、より美しさがましたアリスは、肩に少しかかるぐらいの髪を靡かせながら聞いてきた。

「そうだな。まずは、日の国にでも行くか」

「いいのですか?」

こちらも妖艶さを増したサクラが伺う。


「ああ、ちょうど刀がからさ、せっかくなら職人に頼みたいじゃん」

「そういうことなら・・・・」

天乃尾羽張は不壊のはずだったのだが、『霊峰』での修行中にアルベルトの魔力に当てられ砕け散った。


「あの時の衝撃は凄まじかったな」

セナが思い出して冷や汗を流す。

「だね。私も、まさかあんなことになるとは思わなかったわ」

アイナも苦笑いを浮かべ言う。


「そんなことより早う行くぞ」

ラキナが急かすように、会話を遮る。

こちらは、龍だからかあまり変わっていない。


「はいはい。よし、サクラ案内よろしく」

「わかりました」

アルベルトたちは空に浮かび、日の国へ向けて、飛んでいった。




「アル、竜がいっぱいいるよ」

「お、ほんとだ」

「あれは、成竜じゃな」

「ラキナの同族だったりする?」

「いや、あれはただの竜だ。妾らとは関係ない」

成竜もこちらに気が付いたのか、明らかに敵対の意思をむき出しにしていた。


「俺がやっていい?」

「いいよ」

よし、なら魔石だけとるか。


手を成竜の群れに向け、ギュッと握った。

「「「「「ギャアアアアアアアア!!」」」」」


成竜は、叫びながらこちらに向かってくる。

「こんなもんかー」

アルベルトの手の中には、収まり切れないほどの魔石があり、溢れる分は魔法で浮かしていた。

魔物にとっての心臓を手のひらに転移させた。

人間で言えば、気づいたら相手の手に自分の心臓があるようなものだ。


成竜は、心臓だけが抜かれ、魔素を循環させ、肉体を維持する機能を失った。

最後の魔素循環が終わり、成竜は魔素となって空気中に消えた。


「何度見てもエグいのう」

同じく魔石を持つ、ラキナとセナは慣れないようだ。

「二人には、何があってもこんな事しないって」

こんな抵抗すらも許さない倒し方は、めんどくさい時にしかしない。


その後も、何度か魔物と遭遇したが全て魔石を抜いて倒していった。


「なあ、魔物が多くないか?」

明らかに前より、遭遇率が高くなっていた。

「おそらく、ソロモンと神の親和性が高まっているせいじゃろうな」

「なんで?」

「以前の時もそうじゃったが、奴らの力が増すたびにこういうことがあった」

魔素が濃くなってるってことなのか?

大気の魔素を使わなくなってから気にしていなかった。


「じゃあ、そろそろ戻ってくんのかな?」

「いや、まだじゃな。こんなもんではないからのう」

まだ増えるのか。

まあ、前回は世界中で魔物が大量発生したって言ってたしな。

ただ、一つ魔大陸にいる一部の意思疎通ができる魔族・魔物は味方らしい。

魔王が英雄に協力していたそうだ。


普通は、敵じゃないかと思うが、この世界ではそうらしい。


「あ、見えてきましたよ」

サクラの声につられ、目を向ける。

視線の先には、巨大な桜の木が見えた。


「え、あんなに大きかったの?」

日本によくある桜の木ぐらいの大きさだと思っていたが、遠目からでもはっきりと確認できるほの大きさだった。

「私がいた頃よりも大きくなってますね。魔素が増えたからでしょうか」

この世界は、植物も魔素の影響を受けんのか。


一段階速度を上げ、日の国の入り口に立った。



「ただいま」

「サクラか?」

「はい」

衛兵は挨拶をしたサクラを最初、見分けられなかった。

それにしても、衛兵の袴かっこいいな。


「見違えたなー」

「すっかり美人になって」

「ありがとうございます。それで、師匠は・・・・・」

サクラが衛兵と話をしている中、日の国全体を瞰た。


所々、綺麗な建物が混ざってるな、それに魔素が一番集まってる祠のようなところは警備兵がすごいいる。あそこが、月詠があって場所か。


「え!?そんな!!」

衛兵と話していたサクラが叫んだ。

「すまん。我々では歯が立たなかった・・・・」

「コジロウ様は、最後まで我々を守って・・・・」



「どうした、サクラ?」

「師匠が、コジロウ様が敵の刃にかかったと・・・・・」

「え、あの爺さんが!?」

英雄の宴の時に訳のわからない斬撃を放ってきた爺さんが負けるなんて。


「あれ、超越者じゃなかったっけ?」

超越者は、そう簡単に死なないはずなんだけど・・・・・。

「この方達は?」

衛兵が、怪訝そうな目でサクラに尋ねた。

「あー、私の大切な人たちだ」

「そうでしたか」


「それが、コジロウ様は確かに超越者でしたので、四肢を切られてもなお生きておられましたが・・・・」

「・・・・・!!」

サクラが手で口を押さえている。

「その後、敵の一人が短剣をコジロウ様の胸に突き刺した瞬間、体が灰に・・・・」

超越者の体が灰に?


「ラキナ、そんなこと・・・・・・」

そんなことあり得るのかと、聞こうとラキナの方を見て驚いた。

あの、ラキナが、怒りに顔を歪ませていた。


「おい、小僧。敵はどこの誰じゃ」

「!!・・・・・・帝国です」

ラキナの殺気に体を震わせながら答えてくれた。


「帝国ってこの大陸の国じゃないよな」

「ええ、”第二大陸”ね」

大陸に名前などないのだが、コウタロウさん達が想像した守護者の順番で第一から第五までつけた。

『フェニックス』が守護する第一大陸。『バハムート』が守護する第二大陸。『リヴァイアサン』が守護する第三大陸。『ベヒモス』が守護する第四大陸。『ヨートゥン』が守護する第五大陸。


帝国は、この第二大陸にある大国だ。

「なんで、帝国の奴らが?」

「奴らは、前回の戦いも最高神共についていたのじゃ」

「なるほど。それで、この国を襲った理由は?」

まだ、ソロモンも力に馴染んでないらしいし、襲う理由がわからない。


「おそらく神匠・ムラマサ殿を攫うためでしょう」

ムラマサ!!しかも、神匠とは似合っているな。


「ムラマサは、無事なのじゃな」

「はい、ご無事です」

それは、よかった。

その人に刀を頼もう。


「それよりもその短剣のことだけど、そんなことあり得るの?」

「ああ。じゃが、あれは壊したはずじゃったが・・・・」

ラキナは悔しそうに話してくれた。


「マル坊の血。それが、その短剣の素材だ」

「マルスの血が?」

「ああ、短剣を作る際にマル坊の血を混ぜることで偶然できたものだ。確かに、役には立ったが、マル坊が死んだ時に破壊し尽くしたはずなんじゃが・・・・・」

「ねえ、それってさ、マルスの体があればいいんだよね。なら、ソロモンでもできるんじゃ」

「・・・・・・まずいな」


「あいつら、超越者でも容易に殺せる武器を大量生産してる可能性がある。妾たちは到達者だから問題ないと思うが、他の奴らに警告しないとな」

そういえば、こちらの味方をまだ知らないんだった。

確か、魔王一派と各地に散ったかつての仲間たちだったっけ。


「ひとまず、中で話しませんか?」

サクラが提案する。


「そうだな」

ずっと入り口の前で話すのもちょっとね。


「では、ようこそ日の国へ」

衛兵が頭を下げ、迎え入れてくれる。

鎖国国家日の国に初めて足を踏み入れた瞬間だった。




◆◆




その頃、帝国内部。


「日の国のコジロウを消しました。しかし、ムラマサは・・・・・」

「失敗したか・・・・。まあ、いい。あのコジロウを殺したのだろう?」

「はい」

「それで十分だ。その短剣は、うまく作用したな」

「ええ、さすがは、英雄の呪血ですね」

薄暗い個室の中で、二人の不敵な笑い声が響いた。




「ミア様、何か御用でしょうか」

魔法師団長ミアの執務室にフードを被った女が現れた。


「ジンベエさんに伝えて、コジロウが殺されたって」

「それは・・・・・。わかりました」

フードの女も信じられない情報を一瞬疑ったが、この人が嘘を言わないのは知っている。

すぐに、執務室から消え伝達に行った。


「まさか、私が知らないところでこんなことになってたとは。もう、のんびりしてる暇はないわね」

ミアは帝国最強の一角でありながら、マルスとともに最高神と世界と戦った者たちの一人だ。







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