エピローグ

アリスたちが日本の四季が反映されたエリアでやりたいことをしている中、俺は一人、富士の山と湖を正面に胡坐をかき絶景を眺めていた。


「やっぱり、綺麗だなー」

前世で、一度だが家族とともに見に行った事がある。

その時から、日に日に心が擦り切れていたが、その日だけは全てが洗われた気がした。


”お前は、なぜこっちの世界に来た”

「向こうで殺されて、神様に連れてこられたんですよ」

”神とは、誰だ?”

「フォルナ様です」

”!!・・・・・そうか”

反応から見るに、知っているのだろう。


「知ってるんですか?」

”フォルナは、コウタロウとともにこちらに来た我らの主人だ”

「そうですか」

それだけでわかった。

コウタロウはあの創造神だ。


フォルナ様は、味方で間違い無い。

敵は、ソロモンでもなく最高神や加護を与え力を授けていた神たちだ。


「敵は、多いですね」

”知ってたのか”

「創造神から聞いたので」

あの、創造神に連れられ、精神と◯の部屋のようなところに連れられ、300年間鍛えられた。

その間に、色々と聞く事ができた。けど、元地球人とは教えてくれなかった。


”お前は、主人に会えたのか”

「会ってないんですか?」

”ああ、あの戦争以来な。我々は、この地上の守護を任されておる”

大陸の守護者か・・・・・。

そりゃ強いわけだ。国同士の戦争を収めた程度では、神力を身につけた程度では敵わない。


”我が鍛えてやろうか”

「いいんですか?」

ありがたい。殺しても死なず、逆にこちらが殺されまくる環境なんてそうそうない。

いっぱいあっても困るけど。


”ああ、その前に自分の特性でも確認してろ”

そう言ってイニクスは、準備してくると飛び立った。


特性か、そういえば見てなかったな。

見てみるか。



『名前』アルベルト

『種族』神人 『性別』男 『年齢』ー

『能力』ー


『原初』

三千世界


『特性』

固定魔法 魔素供給不要 環境無視 物理攻撃無効 魔法攻撃無効 即死無効



『固定魔法』これは、魔法設置からできたものだろう。

『魔素供給不要』これは、精霊卿で体の中に魔素の発生源を作ったことによるもの。

『環境無視』これは、例えば水の中で火属性の魔法を使っても、地上と変わらず使えるようなもの。



これは、なかなかだな。しかも、名付けをすることで特性を引き継げると知った。

これで、また強くなれる。


”待たせたな”

イニクスが戻ってきた。

「いえ、大丈夫ですよ」


”まずは、我の再生の炎のようなものに慣れてもらう”

「あ、多分それは出来ます」

”なに?”

固定魔法を使って、聖属性が進化した太陽属性の魔力で再生魔法を体に設置すればできるはず。


”ならば、いくぞ”

イニクスは、手に持った石ころを投げてきた。

それは、とんでもない速度と火力を持ち、迫ってくる。


パアアアン!!


体が弾ける。

即死無効で死にはせず、設置した再生魔法が発動し、光が収束し元の体に戻る。

「物理攻撃無効なんじゃ・・・・・」

普通に弾け飛んだんだけど・・・・・。


”我ぐらいになればそんなもの関係ない”

えー、無効の意味を成してないじゃん。


”だが、再生はできるな。ならば、次は体を流動体に変化させろ”

属性はなんでもいい、と言ってきた。

「えっと・・・・、どうやって?」

わかんねーよ。流動体って液体とかだろ?

魔力に変化させようにも肉体を骨まで変えるとかできないし。


”我の体を想像してやってみるんだ”

「イニクスさんの体・・・・・」

全身が炎で、斬られても流動する体を斬ったようになるだけ。


うーん、イマイチわからん。

流動体・・・・流動体・・・・・。


”あまりチンタラやってると弾け飛ばすぞ”


パアアアアン!!


もう弾け飛んでますけど。

警告しながら投げないでほしい・・・・。

しかも、顔に直撃。


あ、そうか。別に全身を変える必要はなくて、攻撃が当たる場所さえわかれば、そこだけを魔力に変えればいいのか。


「もう一度、攻撃してもらえませんか?」

”何か、掴んだのか?”

「はい」

ニヤリと口を歪めながら返事をする。

攻撃される場所さえわかれば・・・・・。


パアアアアアン!!


弾け飛んだ。

速すぎて、わからない・・・・!!


”何がしたいんだ、お前は”

「・・・・・・・・・・」

恥ずかしいー!!

顔を背け、イニクスの呆れ顔から逃れた。


「あ、あの、どうやったら攻撃される場所がわかりますか?」

”あ?そんなもの感じろ”

「え?」

”感覚だ”

だめだこりゃ。典型的にだめなやつだ。


”なんだ、その顔は。なんかムカつくな”


パアアアアアン!!


体が元に戻っていく。

この瞬間は、弾け飛んだ部分が、魔力で作り替えられていく。

この感覚はわかるんだけどなー。


それから、なぜか日が暮れるまで石を投げられまくった。

夕暮れや夜の切り替えもできるのか。

すごいなここは。しかも、星もある。


”そろそろだな。今日はここまでだ”

「は、はい・・・・」


途中から、アリスたちが見学に加わり、弾け飛ぶのを一日中見られていた。

最初、アリスがイニクスにキレかけたが、アイナたちがなんとか宥めた。


”では、我は、休みに行くが、ここは好きに使え”

「ありがとうございます」

”だが、この景観は損なうなよ。もしそうなったら、お前らは全員殺す”

「は、はいっ!!」

ビシッと敬礼をし、イニクスを見送った。



「ねえ、あっちに家があったからそこに行こうよ」

アリスがイニクスの殺気から解放され、こちらに歩いてきた。

「家?」

「うん!」


みんなに案内されたどり着いたところは、冬のエリア。

そこには、大きな温泉と宿があった。

なるほど、冬の温泉か。

いい趣味してるな、コウタロウさん。


(でしょー?)

ああ、あんたもあっちの人だったんだな。

(まあね。割と歳は近かったかもね)

え?時系列どうなってんだよ。

(さあ、戻った事がないから分かんないねー)

まあ、いいか。今のところ戻るつもりはないし。



そんなことを話しながら、温泉に入り、食事を取ることにした。

温泉はもちろん混浴しかなかった。

やるじゃん。コウタロウさん。




◆◆




ここは、『バハムート』が守護する大陸。

そこに在る、大陸一の大国・大帝国。

その、帝国議会には、帝王や宰相、各大臣、士団長たちが参加していた。


「では、我々は最高神様たちの敵であるその少年たちを帝国に仇なす存在と見なすと」

宰相が、帝王に確認を取る。


「ああ、我が帝国は最高神様たちの末裔にあたる。彼らに仇なすものは排除する」

帝王・ロドリゲスは、低く響き渡る重厚な声で宣言した。


「彼らは、必ず『バハムート』に会いためこの大陸に来るはず、そこを狙いましょう」

宰相が会議に参加している大臣・士団長たちに提言する。


「どうせこの世界の人間だろ?俺にかかれば余裕だって」

「タケル殿、油断はいけませんよ」

「わーってるよ」

騎士団長である、タケルは帝国が最高神の神託により召喚した日本人であった。


「ミア様も、お願いしますね」

「はーい。・・・・・はあ、めんどくさい」

魔法師団長・ミア。

少女の姿ではあるが、巨大すぎる魔力を隠すために子供の姿になっている。

隠すために、労力を使っているため、普段は寝ている。


「では、各大臣もそれぞれの部署に周知を。入国が確認出来次第報告をお願いします」

「「「承知しました」」」

「では、今日はこれで、解散しましょう」

その言葉を持って、大臣・士団長たちは会議室を出て行った。


「王よ。本当に良かったのですか?」

「ああ、先日、最高神様からの神託が司祭に降りたのは本当だからな」

「しかし、ここ数百年何もなかったのに急でしたな」

「時代が動くのだろうな。久しぶりに昂ってきた」

帝王の昂りと同時に会議室が揺れる。

魔力の振動が部屋全体に広がっているのだ。


「はあ・・・・・」

宰相は、忙しくなりそうだとため息をつくが、その表情は心なしか楽しそうだった。




◆◆



「おい、あれなんだ?」

海に出ていた漁師の一人が、海面を見ながら言った。

「どうした?」

「いや、ものすごくでかい影が動いたんだ」

海面を指しながら説明する。


「そんなわけないだろう。ここは、もう守神様の領海だぞ?」

「それもそうだな」

二人は、大量にとれた魚を港町に卸すために船を再び動かした。




海底ではーー


一体の魔物が目を覚ましていた。

「『不死鳥』の野郎が動いたな。見つけたのか?」

大陸を囲む巨体を少し動かすだけで、その大陸に地震を及ぼす。

そのため、目だけを開け、来るべき大戦に向けて、もう一度眠った。




◆◆




別の海には、霧に囲まれた大陸に上陸しようと試みる一団があった。


「なんとしてでも上陸するぞ!この大陸には、何かあるんだ!」

一人偉そうな人物が、船員たちに怒鳴り散らす。


「全く、なんでこんな仕事受けちまったかなー」

「しょうがねえよ。俺たちは、海賊崩れだ、仕事は選べねえ」

聞こえない声で、こそこそと愚痴っていた。


「おいっ、なんだあれ!」

船員の一人が叫ぶ。


霧の奥で、巨大な影が動く。

大陸から響く地響きは、海にも伝わり、大波となって船を襲う。

叫び声を上げる間もなく、船は全て海の藻屑へとなった。


これが、上陸不能と言われる所以。

霧の奥にいる何かが動くだけで、周囲の海は大荒れとなり、例外なく波に飲まれる。

上陸するには、空から行く必要があるが、先が全く見えない中、巨人の住む大陸に行こうとしたものはいない。




◆◆



ゴゴゴゴゴゴ・・・・・。


その日、大陸を横断するほどの山がほんの少し動いた。

山の周りにある四つの国の、中枢はパニック状態だった。

過去、歴史上ただの一度も動いたことがなかった、神話の魔物が動いたのだ。

その魔物が動けば、大陸は簡単に沈んでしまうことを理解していた。


地面より上に出ている部分が魔物の全てとは限らないのだ、下手をしたら自分たちの国が魔物の上に建っている可能性だってある。

事実、この大陸そのものが魔物であるが、そのことを知る日はまだ来ない。



◆◆




最高神がソロモンを使い、表舞台に上がったことで、英雄の資質を持つ者たちが、強制的に舞台に登場する。


どこの国が誰に付き、何を企むのか、また誰の味方になるのか。


まだ、何も始まっていない。世界はようやく、止まっていた歴史が動き出し、再び混沌の時代へと進み出す。



〜第一部 英雄の卵〜  完




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