第9話 霊峰へ
『不死鳥』にとって、創造主であり、親であったコウタロウたち以外には興味がなかった。
彼らは、我々を創り、育ててくれた。我々は、五人の主人たちからそれぞれ能力を受け継ぎ、強さを手に入れた。
彼らは、この世界で生まれたわけではないそうで、次々とこの世界に新しいものを作り上げていった。
彼らは、いつも楽しそうだった。
コウタロウは、主人の一人である女の人からよく”ショタ”と呼ばれていた。
意味は知らないが、コウタロウはよく、怒っていた。
彼らは、我の尾羽を取り込み、不老を手に入れた。
いつの日か、彼らは地上の民から神だと、崇められるようになった。
それを喜んでいた彼らは、誰がなんの神になるのか話し合っていた。
彼らには、本当に神になる力があった。
彼らは、創造神・幸福の神・魔法神・海神・天神・生命神になった。
しかし、それを気に食わない者たちが、降神術を使い、その身に神を降ろして、戦争を仕掛けてきた。
それが、のちに『神界戦争』または『神の遊戯』と呼ばれることになる全世界を巻き込んだ戦いとなった。
我々は、コウタロウたちとともに戦った。
しかし、圧倒的な数の差は埋められなかった。
主人たちの中で生き残ったのは、『創造神』コウタロウと『幸福の神』フォルナのみ。
我々は負けた。
その後、奴らは、最高神や魔人、武神などと名乗り、世界を再構築し、地上の民に力を分け与えている。
全ては、コウタロウとフォルナを討つため。
だが、それだけでは飽き足らず、英雄を作り上げ我らをも討とうとした。
こちらの味方はコウタロウがこの世界に来て、初めて仲良くなった魔王のみ。
魔王が生み出す魔物と我々のみ。
奴らの中には、最高神がこちらに連れてきた英雄とこの世界にいた素質ある者がいた。
英雄の力はとんでもないものだった。しかし、ある時、当時は隠していなかった『霊峰』に彼らが来た。
そこで、主人の日記を見つけ、真実に気がついた。
それからは、彼らは最高神たちを討つために戦うことを決めた。
そんな時、最高神らは仲間の一人の恋人を人間に紛れ惨殺した。
彼の心に人間たち、英雄たちへの憎悪が沸き上がり、敵へとなった。
英雄たちは、彼を倒し、神へと挑もうとした。
だが、唯一全てを知る英雄は神に弄ばれることに耐えきれず精神を崩壊させた。
彼は、何かに託したようだが、数百年、奴らと戦えるものはいない。
◆◆
「よし、これなら!」
刀には、オリジナルの太陽属性の魔力が纏われている。
「いけるな?」
ラキナの黒舞には、同じくオリジナルの月属性の魔力が纏われている。
「みんな、ありがとう!一旦引いてくれ!」
アリスたちに一度撤退してもらい、二人は『不死鳥』だけに集中した。
”それは・・・・”
「知ってるのか?」
流石に『不死鳥』なら知ってるか。
でも、防げるかどうかは別問題だもんなっ。
「「
ラキナの黒舞と刀の間に、太陽属性と月属性が混ざり、小宇宙が出来上がる。
それを『不死鳥』に向け放った。
光の速さを超え、一瞬で『不死鳥』に当たる。
”ぬ、ぬぅ・・・・・”
さすがに、苦しんでいた。
いけるか?
”この程度か”
は?
「ねえ、ラキナさん?虚無が打ち消されたんですけど・・・・」
「これは、予想外じゃったな・・・・」
一応、最終手段だったんですけど・・・・。
”ふむ、ここまでできるとは思わなかったな。いいだろう、合格だ”
『不死鳥』は、ゆっくりと地面に降り立ち、渦巻く炎の中から人の姿で出てきた。
うわぁ。
むかつくほどイケメンだー。
”この姿になるのも久しいな”
声まで、イケメンだー。殴っていいかな。いいよね。
”お主らを『霊峰』へと案内しよう”
「ここが『霊峰』ではないのですか?」
アイナが尋ねる。
”『霊峰』で違いないぞ。ただ、隠しているだけだ”
ここが、『霊峰』で合ってたのか。
意外とすぐに見つかったが、なるほど。
冒険者が無理だと言うわけだ。『不死鳥』に認められるなど、ほぼ不可能に近いし、ここまでくる前に干からびそうだしな。
”では、ついてこい”
「あの、なんて呼べばいいですか?」
名前がなければ、話しかけづらい。
”好きに呼べ。なんなら名前をつけてみろ”
「え、そうだなぁ。『イニクス』なんてどうですか?」
「ちょ、待ってっ・・・・・」
アイナが待つように言ってきたが、少し遅かった。
まあ、『不死鳥』の別名を少し弄っただけだけだから・・・・。
”ふん、いいだろう”
「良かっ・・・・・うっ」
体の奥が燃えるように熱くなってきた。
「アル君!?」
胸を押さえ、膝をつくアルベルトにアリスが駆け寄る。
「おまえ・・・・!!」
アリスがイニクスに怒りを表す。
”安心しろ。死にはせん。我の名付けをしたことで特性の共有がされているだけだ”
「だい・・・じょう・・・・ぶ」
アリスは、肩に手を置かれ、そう言われたことで安心した。
特性の共有か・・・・・。
それはとんでもないな。
つまり、これを乗り越えれば魔法・物理攻撃無効に即死もしなくなる。
後で、特性も見てみるか。
でも、きついな、これは。
ただただ、熱くなる。血液の流れが超高速になったみたいに体中が熱を持つ。
「うっ・・・・ふう・・・・」
おさまってきた。
だんだんと楽になっていく。
”耐えたか、よくやった。普通のやつならそのまま燃えるのだがな”
「え・・・・・・」
名付けってそんなにやばいの?
アイナを見る。
彼女は、額に汗をかきながら頷いた。
「名付けは、普通自分よりの弱い相手に行って、戦力を強化するもの。でも、その逆は・・・・」
”そう、その逆はうまくいけば特性を手に入れられるが、普通は死ぬ”
だから、あの時止めようとしたのか。
「ていうか、そんなことしてよかったんですか?」
”構わん。我は、兄弟の中で一番最初に生まれたが力的にはそこまで強くない”
そこまで?どこが?
イニクスは、五大大陸クエストの討伐対象の一体。
もちろん勝てはしないがこれでも強くないと言われると他の四体が気になりずぎる。
”それよりも、日の国の小娘よ”
「ひゃ、はいっ」
サクラ予想外のことに変な返事をする。
なんか、お姉さんポジションだと思ってたけど、意外とドジっ子気質もありそうだな。
”石板を一つ拾っただろう。小僧に渡せ”
「は、はい」
イニクスに言われ、アイテムボックスから取り出し持ってきた。
「これが読めるのですか?」
「ま、まあね」
どっかで、異世界から転生したってバレそうだな・・・・。
それを、アイテムボックスに入れ、後で読むことにした。
”では、開くぞ”
イニクスは、瓦礫の中で一際大きな門のようなところに手を翳し、何かを呟いた。
門の間に別の空間に繋がるゲートが現れた。
「「おおー」」
ラキナも含め全員が感嘆の声を上げた。
”これぐらいで驚いている場合ではないぞ。我らが主人たちの理想郷だ”
「わあ!すごいねー!」
「ええ、これは・・・・。さすがは、秘境ね」
「あれはなんでしょうか?」
「これは、見た事もない山ですね」
「妾もこのようなもの見た事がないの」
みんなが驚きの声をあげる中、俺だけは別の驚きに包まれていた。
すごい?見た事もない?
そりゃそうだ。
なにせ、目の前に広がるのは、
ーー富士の山とそれを映し出す湖が広がる、前世で見た絶景そのものだった。
「なんで、こんなところに・・・・・」
”そうか。お前には、懐かしいのか”
隣にきたイニクスが小声で聞いてくる。
やはり、気を遣ってくれているようだ。
「これが、コウタロウさんたちの理想郷。やはり、帰りたかったんですかね」
”だが、主人たちは、残ることを決めた。我々とこの世界でできた友人のために”
でも、ここを理想郷とするほどだ。やはり、帰りたかったのだろう。
「ねえ、ねえ、アル君!探検しようよ!」
アリスが駆け寄ってくる。
「いいね。行こうか!」
あくまでもここは異世界、前世とは違うところがあるかもしれない。
「私たちも、行ってみましょう」
「ですね」「はい」
アイナとセナ、サクラの三人は、ゆっくりと湖の周りを歩き出した。
”黒龍の、お前は行かんのか?”
「・・・・・いくさ」
ラキナは黒龍に戻り、湖を空を飛んで越えて行った。
「なんじゃ、あの山は・・・・・」
地上は暖かいのに、山頂付近には雪が積もっている。
あそこだけ天候が違うのか?
それに、この湖。あまりにも透き通っていて、鏡となっておる。
「!?」
上から全体を見て、初めて気がついた。
『霊峰』は、四つのエリアに分かれていて、桃色に輝くエリア、赤や黄色に染まるエリア、白く光を反射するエリア、太陽の光を受ける植物が広がるエリアがある。
その中心に、この湖と山がある。
「どういう事じゃ。どうやってこのような空間を・・・・・」
神の魔力を手に入れていたアル坊ならできないことはないかもしれんが、ここまで精度の高い空間を作り出すのは、並大抵の存在にはできない。
できるとするならば、この世界を救った神ぐらい・・・・・。
「・・・・・そうか。そういうことか」
イニクスたち神話の魔物の主人にして、このような事ができる存在。
そんなもの創造神たち以外にありえない。
ラキナは、一人納得いった様子で浮いていた。
だが、一つだけわからない事がある。
アリスたちは聴こえていなかったようだが、黒龍たる妾の耳には、アル坊とイニクスの会話は聴こえておった。
”帰りたかったのでしょうか”
これの意味だけがわからなかった。
神が帰りたいなどと思うだろうか。
思ったとしても、なぜアル坊からそのような言葉が出てくるのか。
それだけがわからなかった。
◆◆
「イニクスさん、ここでしばらく修行していいですか?」
”好きにしろ”
「ありがとうございます」
ここは、思ったとおり、魔素に神聖さがある。
それに、ここにいるだけで心が落ち着く。
「じゃあ、みんなしばらく、ここで力をつけよう」
「はーい」
「わかったわ」
「わかった」
「了解です」
「・・・・・・うむ」
ラキナだけ何かを考えながら答えた。
「どうした、ラキナ」
「いや、なんでもない・・・・・」
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