第7話 vsアルベルト

冒険王・ペルカルトの手記によると、灼熱と極寒が無造作に襲ってくるとあった。

しかし、現在。

灼熱でしかなかった。


「なあ、ここ二日、ずっと灼熱の方じゃないか?」

「そうね。全く極寒なんて襲ってこないわね」

「ここまで、暑いと流石に疲れるな」

寒い時にはこの暑さは、嬉しいが、ここまで暑いのが続くと精神的に参ってくる。


「あー、あついー」

「・・・・・・・・・」

アリスも文句を垂れ、サクラに至っては、ただただ黙って無駄な体力は使わないようにしていた。

日の国には、四季があり、年に一度、暑い季節がやってくるそうだ。

夏みたいなものか。


そして、ラキナはと言うと・・・・・

「・・・・・ふふっ」

黒舞を手に取り、不敵な笑顔を見せていた。

大丈夫か、あいつ・・・・・。


もうこうなったら、最終手段だ。

「みんな、合図したら跳んでくれ」

「なんで?」

アリスが首を傾げる。


「ちょっと試したいことがあるから」

「いいよー」

他のみんなも了承してくれた。


よし、やるか。


両手を地面につけ、魔法を唱える。


「氷魔法:銀世界」


両手を起点に、絶対零度も生ぬるい氷の世界が山の頂上付近に向けて、放たれた。


「これでよしっ」

上から降りてくる熱波と下から上がってくる冷気がいい具合に作用し、地上付近と同じ温度になった。


「おおー、すごい涼しいー」

「これはいいな」「ですね」

結構高評価みたいだ。

ちゃんと跳んでくれたみたいだ。

もし地面に足をつけてたら、凍るところだった。


「アル坊、妾は、寒いのは苦手じゃ」

「え、そうなの?」

いつものように、肩車を要望されたため、それに応じ、登山を再開した。




「あー、これ以上は銀世界でも無理か」

『不死鳥』に近づくにつれ、銀世界の効果も効かなくなっていた。


それに、

「なんか、ものすごく殺気を向けられてるし」

これ以上近づいたら、戦闘が始まるなー。

戦ってはみたいけど、あれは、天界の中でも上位に位置する魔物レベルだ。

天界でのゴブリンで死にかけた俺じゃまだ勝てない。


天界でのゴブリンは、地上での暴食レベルの強さだった。

創造神に連れられ、死んでは蘇生、死んでは蘇生を繰り返し、天界の神力を身体に混ぜていた。

戦っては死んでを繰り返し、

やっとゴブリンに勝てるようになり、上位の魔物を見ることを許された。


あれは、戦おうなど考えるものではなかった。

見た瞬間にひたすら逃げた。

うん、あれはダメだ。


『不死鳥』もそのレベルに届きそうなほどに強い。

しばらく、挑むのは避けた方がいい。


「どうするの?」

アリスが珍しく挑もうとしない。

あれの強さはわかっているみたいだ。


「そうだな・・・・・」

全員生き残るためには、あの炎に耐えられるだけの力を手に入れる必要があるな。


「アイナの異空間で、鍛えよう。あれと同じレベルの炎を作るから、その中で戦おう」

「戦うの?」

「ああ、俺対全員で」

一撃入れられたらそっちの勝ちで、と宣言した。

久しぶりに全力を出せそうだ。


ピクッと、アリスとラキナの体が反応する。

「言ったね」「言ったな」

おおう、やる気満々だな。

「私も、全力でどこまでいけるか試したいわ」

「私もだ」

「刀の力を試してみたい」

みんなもやる気だな。


「よし、アイナ頼む」




◆◆




アイナの異空間からさらに空間を作り、真っ白な世界を作り出す。

外の世界から直接作ってもいいが、影響力がありすぎて何が起こるかわからない。

その点、アイナの異空間は、超越能力を持って作られているため、影響はない。


「焔魔法:業火の灯火」


『不死鳥』の姿をイメージして、新しく作ってみた。


「これを丸くして、上に・・・・・」

そして、さらに火力を上げる。

球体の炎が、高火力で空に浮かぶ様子は、

「太陽・・・・・」

誰かの呟きが聞こえる。


「これぐらいでいいか」

結構暑くなったと思う。

魔法でコーチングしても暑いレベルだ。


「よし、始めるか」

全員が武器を構える。

あ、言い忘れてた。


「言い忘れてたけど、この世界では死なないから。どんな傷も一瞬で再生するようになってるから、頑張って」

「「「え?」」」

天乃尾羽張を一閃。


「まっ・・・・・」

アリスとラキナは反応し、斬撃を受け止め後ろに吹っ飛ぶ。

アイナやセナ、サクラは体が真っ二つになる。


「え・・・・・・」

斬られたことを自覚した瞬間に、半分になった体が元に戻った。


「ほら、どんどん行くよ」

今度は、近距離で刀を振るう。

「守護剣術:桜凪」


「うっ、つよっ」

ガンッ!!

音をあげ、横に吹っ飛んでいく。


「雷霆:神の雷!!」

離れたところに移動したアイナが、雷を放つ。


「ふんっ」

真正面から刀でぶつかり、半分に斬った。

雷は左右に割れ、後ろに逸れる。

「嘘っ!?」


驚いたか?

これが本物の雷切じゃー!!

フハハハハ。


「英霊剣:天桜!!」

最初の一撃から全力を放つ。


ガッ!!


お互いの武器に纏った魔力だけが衝突する。

白銀の魔力と漆黒の魔力が混ざり、アリスとアルベルトを衝撃波が襲う。


「うおっ」「きゃっ」

二人は、衝撃で距離ができる。

これは、あれだ、混ぜるな危険だな。


間髪いれず、アリスがこちらに迫ってくる。

「妾を忘れるな」

アリスの上からは、ラキナがいくつもの魔法陣を展開している。

「私もいるぞ」

セナとサクラが左右から、

「もう一度行くわよ」

背後にはアイナがケラウノスを構えている。


セナとサクラが同時に斬りつけてきた。

地面に刀を刺し、柄に手を置いて、上に跳んだ。

二人の刀が当たる瞬間に刀を消し、転移させる。

アイナの方へ、短剣を投げるが、届かずに地面に刺さる。

ほんの数瞬後、アリスがティルフィングを叩き切るように振り下ろしてきた。


刀を転移させたところに自分も転移させる。

目の前には、下に向けて魔法を放とうとするラキナがいる。

「な!?」

ラキナがこちらに気付くが遅い。

天乃尾羽張でラキナを斬る。


だが、さすがは黒龍。

そのまま斬れずに叩く感じになった。

先程までいたところにラキナを落とし、アリスとアイナの攻撃をラキナに向ける。


ここまで、約2秒。

これで、みんなが互いに互いを攻撃するハメに・・・・・。


「おい、うしろ」

ラキナがニヤリと笑い、こちらを指す。

アリスたちはラキナに入れ替わったことを気づいていながら、攻撃を続けている。

「なにが・・・・・」


「あ、しまった」

ラキナの魔法が消えていなかった。

「龍魔法:ノヴァ・ストライク」

ラキナがパチンッと指を鳴らす。

七色の閃光が一点に集中して、放たれる。


これは、避けられない。

だったら、ラキナと入れ替わるか。

一瞬で、ラキナと座標を入れ替える。

目の前には、アリスの剣が、背中のすぐそこには雷霆が、迫る。

アリスの剣は受け止めるが、雷霆は避けられない。


「あがっ!!」

貫通することはなかったが、背中に火傷を負った。


ラキナは!?

あれ、魔法は?

「ハッタリじゃよ」

え、ハッタリ?


「発動兆候だけ見せたのじゃ」

「ええー・・・・・・」

そんなことできんの?


「じゃが、これで妾たちの勝ちじゃな。気に食わんが」

一対一で、勝てないと分かったからか、悔しそうだ。

でも・・・・・・、


「そう思った?」

「何を言って・・・・・」


ボンッ


「あ?」「うえ?」

ラキナとアリスが変な声を出す。


「これは、日の国の”分身の術”!?」

サクラは、アルベルトがまたも日の国の秘密を知っていることに驚いた。

「消えた・・・・・」

セナが呟く。


上に飛ぶ前に投げた短剣と変わるように姿を現す。

これは、天界で身につけた新しい技術。

前世での記憶を頼りに編み出した技だが、サクラの反応を見る限り、日の国にすでにあるようだ。

ということは、本物の”忍者”がいるのか?

いるのならぜひ会ってみたい。


「ほい、俺の勝ち」

突然現れた俺に、驚くアイナに刀を向け、アリスたちの四方八方を塞ぐように魔法陣を展開する。

誰も、反応してくれなかった。

え、なんで?

なんで変なものを見る目で見られてんの?


「アル、なぜあなたが日の国の秘術を?」

え、秘術なの?

「いや、そのー、こういうの良いかなと思って・・・・」

前世の知識は多用しない方が良さそうだな。


「そうですか・・・・。まあ、今は深くは聞きません」

一応納得してくれた。

まあ、異世界云々はまだ話す気にはならない。

フォルナ様に会って話を聞くまでは。


「俺の勝ちでいいよね」

「・・・・・・・・ああ」

ものすごく不満そうなラキナがいた。

これは、またどっかで解消しないとな。

アリスも、ものすごく悔しそうだった。


これは、後々が大変だなー。


「よし、とりあえず一回休憩しようよ。後で、してもらいたいから」

「なにそれ?」

「後で説明するから」

アイナの質問をひとまず置いておくことにした。

楽しみは後に取っておく派なんだ。




◆◆




「それにしても、強かったねアル君」

「じゃな」

アリスとラキナは、二人、先程の戦いのことについて話していた。

アリスはいつの間にかその差を離され、ラキナはいつの間にか追いつかれていた。


「のう、アリスよ」

「なに?」

「おまえは、アル坊が変わってもそばにいてくれるか?」

「当たり前だよ。だって・・・・・


ーー私にはアル君しかいないから」


「そうか」

「なんでそんなことを?」

「いや、なんでもない。気にするな」

「そう?変なの」

アリスは、いい匂いがしてきた。元の異空間に帰っていった。


「ラキナちゃんも早くー」

アリスがラキナを呼ぶ。

「今いく」

ラキナは少し安心した顔でこの空間から出た。




◆◆




食事と休憩を取った後、今度は居間で集まっていた。


「今回は、俺と器合わせしてもらいまーす」

「それで、なんなのそれは」

アイナが再び聞いてくる。


「器合わせは、みんなの魔力量を俺と同じ量にするためのものだよ」

「おい、それは」

「ラキナは知ってるか。そうだよ、禁呪の一つだよ」


禁呪。それは、名前の通り禁じられた魔法。

強すぎて、世界への影響が強いもの。

使うための代償が大きすぎるもの。

そして、理論上は可能だが実行が不可能なものが当てはまる。


今回は、最後に当てはまる禁呪だ。

無理矢理、魔力を流しこみ、対象の魔力回路の限界を底上げするということ。

今まで、何度も試されてきたが、例外なく、流された側の人間は耐えられずに破裂した。


「え、それを私たちにするの?」

アイナが少し顔を引き攣らせていた。

「大丈夫だって。信じて」


「はい」

アリスが手を出してきた。

「いいのか?」

「うん。アル君が大丈夫って言うなら大丈夫だから」

「よし、いくよ」


アリスの手を取り、魔力を流し込む。

「うっ」

アリスの魔力回路が破壊されると同時に神力を用いた再生魔法を施す。

それを繰り返すこと5分。


「はあ、はあ、はあ」

息を切らしたアリスが仰向けで倒れた。

頬を紅潮させ、涙目になっていた。

これは、何かいけないことをしている気がする。


「どんな感じ?」

「前・・・よりも・・・10倍以上増えてる・・・・気がする」

それはすごいな。これで、さらにアリスの戦術の幅が広がった。

アリスを起こそうと手を差し伸べた。

アリスが掴んだ瞬間、

「あっ!!」

ビクッ!と身体が跳ねた。


「え?」

やばい、本当になんかまずいことをした気がする。

「当たり前じゃ。今アリスの体の中をアル坊の魔力が循環しておるのじゃぞ。感覚が敏感になるのは当然じゃ」

そ、そうなんだ。

おい、創造神、話が違うじゃないか!

なにも問題ないと・・・・・。


(別に悪影響はなかったでしょー?)

「は?」

え、なに、急になんで?

「どうしたの?」

「え、あ、ごめん。なんでもない・・・・」

気のせいか?


(頭の中で会話してるんだよ)

・・・・・・・・・。

(ねえ、聞こえてるでしょ?)

・・・・・こういうことは事前に言っといてくれよ。

(サプライズだよ。サプライズ)

サプライズすぎるんだよ。それより、これは大丈夫なんだよな。

(うん、大丈夫だよー。それよりも、『不死鳥』のところにいるんでしょー?)

やっぱり見えてるのね。

(そいつの試練を乗り越えたら、すごいものがもらえるから頑張って)

試練?

(神話の魔物は殺しても死なないからね。立ち向かってきたものには試練を与えるんだよ)

死なないって、じゃあ、今やってるのは・・・・。

(いや、試練って言っても戦わないとは限らないから、無駄ではないよ。むしろ今後のためにやっておいた方がいいね)

そうか。なら、よかった。

(とりあえず、今の調子で頑張ってー)


そのまま、創造神との会話は終わった。


「おい、大丈夫か?」

急に黙りこけたのを心配して、ラキナが伺ってきた。

「ああ、大丈夫。よし、次行こうか」

「じゃ、じゃあ、私がやるわ」

アイナの手を取り、同じように魔力を流した。





目の前のみんなを見て、気まずくなった。

ラキナ以外は、頬を紅潮させ、息を切らし、艶かしい雰囲気を醸し出していた。

「なにもなかったか?」

「ああ、それほど増えなかったからの」

ラキナに至っては、あまり増えなかったために影響は小さかった。


「しかし、どうするのじゃ、これ」

「うーん・・・・」

腕を組み考える。

なにも思い浮かばんな。


「よし、なにもしないが吉だな!」

「はあ・・・・・・」

こういう時はなにもしないのが一番だと思ったが、ラキナ的にはダメだったらしい。


だって、こんな状況経験したことないし、分かんねーもん。




その後、全員が復活するまでラキナと軽い運動をし、汗を流していた。

「あ、やってる」

アリスがやってきた。

「おい、アリス復活したなら協力しろ」

「わかった!」

アリスがラキナに加わり、襲ってくる。

魔力が大幅に上がったため、先ほどとは比べ物にならないぐらい強くなってる。


「私たちも入るわよ」

アイナたちもやってきた。

5人がかりになり、こちらにも余裕がなくなってきた。


セナとサクラは身体能力、技の威力と精度が格段に上がり、対処が難しくなってきた。

アイナは、雷霆の魔力の密度と魔力操作が上がっていた。


まだ、魔力と身体能力だけでも勝てていたが、何度も繰り返すうちに負けることも出てきた。


これなら、『不死鳥』相手でも死ぬことはない。


「明日、行こう。頂上に」






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