第30話 歴史の転換点
「ここにいたか」
ラキナが王都に到着した。
「ラキナ様」
「アル坊には会ったか?」
「ええ、下で戦っています」
「そうか」
「ラキナ様。下で戦っているのはあの少年たちとソロモンでしょうか?」
コジロウが尋ねる。
「じゃろうな。雰囲気は別の奴っぽいが・・・・」
明らかにアレはソロモンじゃない。
おそらく最高神じゃの。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、そのソロモンが持っている武器でしょうか、なんか嫌な感じがするのですが・・・・・」
「・・・・確かに、ただの武器ではないの」
「はい、我々は刀の性質が変わっても素が同じであれば感じ取ることができます」
日の国出身特有の感覚か。
あの武器に覚えがあるのか?
「アレは、どう考えても月詠としか思えないのですが・・・・・」
「「・・・・・は?」」
ラキナとサクラが素っ頓狂な声をあげる。
サクラは月詠を見たことがないので、あの刀の持つ覇気がわからなかった。
「あの刀は、日の国で保護していたのではないのか!?」
「ええ、我々が外の世界に出るまでは確かに日の国にありましたが・・・・・」
「お主たちが出ている間に襲われでもしたのか」
「おそらく・・・・」「そんな!?」
コジロウとサクラは信じたくはない事実を受け止めきれずにいた。
「アル坊は、もう一段階存在が昇華していたから大丈夫だろうが、アリスはよくて妾と同じ到達者。・・・・・・きついの」
ラキナは、下で最高神、しかも最強の刀・月詠を持つ神を相手にする二人を、特にアリスを心配した。
「ラキナ様でもですか?」
「ああ。そろそろ鍛え直さんとな。相手も強くなって来たからの」
「そうですか・・・・・」
ラキナが鍛えたらどうなるのか。
コジロウは、恐ろしい未来を想像しながら、身震いした。
◆◆
地下空洞では、人の身では到達しえないレベルの戦闘が続いていた。
3本の光が交錯する。白い光に黒と赤の光が追随する。
左右から黒と赤の光が白を挟み込む。
アルベルトとアリスが同時に斬り込んだ。
これが、普通の人間相手であれば到達者と神威を持つ者の同時攻撃、防げはしない。
だが、相手は神。さらに、ほんの少し、本当にほんの少し、アルベルトとアリスにズレがあった。
しまった・・・・・。
まだ、身体能力を甘く見てた。到達者であれば、同じくらいだと思ったが創造神に言われた通りだ。
◇神威取得後のこと◇
「いいかい?神位に続き、神威を手に入れた今、君の身体能力は桁違いになってる。たとえ、身体強化を使わずとも到達者と同じレベルだ」
「マジで?」
なら、ビシスさんにも勝てんのかな?
この万能感。今なら・・・・・・。
「あの、ビシスには勝てないよ」
考えてることは筒抜けだった。
「・・・・・マジで?」
「うん。あの子の『天上天下唯我独尊』は、戦闘に入った時点で相手よりも強くなるものだ。いくら君が強くなろうと対峙した時点で負けが決まってるよ」
嘘だぁー・・・・・・。
マジかよ。もうあの人を仲間にしたら勝ち確定じゃんか。
「でも例外はあるよ」
「まじで!?」
あの人を超えるという不労以外の目標を達成するためには、ぜひ知っておきたい。
一つでも勝てる部分があればそれを極めれば・・・・・!!
「あの子の能力の性質上、身体能力が相手の能力に依存するという欠点がある。つまり、あの子が相手の能力を超えた自分の体になれるまでにケリをつける事」
「それなら!!」
「でも、あの子もそんなことは理解して、何百年と鍛え素の力は今の君の何倍もある。それに、神威も使える。それでも、その可能性があるのなら試してみるといいよ」
「・・・・・・・・・」
無理じゃん。
「でも、これから戻るんだから誰かと共闘する事になったら気をつけてね」
そして、現在。
最高神が二人のちょっとしたずれを見逃すわけがなかった。
早かったアルベルトの剣を先に弾き、遅れてきたアリスの剣を、それでも目では追えない速さだが、弾いた。
3人の姿が見えるようになる。
「ごめんアル君。次は合わせる」
一人息を切らせながら、アリスが謝る。
「無理するなよ」
「わかってる。足手まといにはならないから」
「いいね〜。面白いよ、やっぱり人間の可能性は無限大だなぁ!!」
最高神が恍惚とした表情で叫ぶ。
「おまえ、人間が好きなのか?」
「ん?当たり前じゃないか。私は、この場所で人間と暮らしていたんだ」
「え、それって」
アイナが最高神の話に反応する。
「そうだよ。この腕は私の腕だ」
その言葉とともに封印の解除が完了した。
腕がひとりでに動き出し、最高神の魔力に引き寄せられていった。
「うん、この腕はあっちで本体につけようか」
腕を掴み、異空間に入れた。
「これで、ソロモンに頼んだことは終わったし、あとは君だけだ」
腕が戻りご機嫌なのか、口調が柔らかくなっていた。
「俺がなんだよ」
「君の魂が欲しいんだ」
「なに言ってんの?」
魂?そんなものもらってどうするか知らんが、こいつらが欲しいと思うならあげたくはない。
「まあ、今回は急ぎじゃないし、他にやることもあるし、今回はもう少し遊んでもらうよ!!」
その言葉と同時に3人は再び光となった。
三本の光が何度も何度も交錯する。
火花が絶え間なく弾け飛ぶ。
光速の戦闘の中で、アルベルトとアリスは意志を疎通していた。
二本の光が一本の光を下から突き上げる。
今度は同時に。
「くっ」
最高神は、そろった攻撃に耐えきれず、地下空洞から地上へと叩き上げられた。
◆◆
「なんだ!?」
ラキナは、突然の揺れに声を上げた。
下から?
アルベルトたちか?
巨大な魔力が三つ、
轟音とともに白い光の線が上がってきた。
あれは、最高神か!!
アルベルトたちが本体ではないとはいえ、あの最高神相手に・・・・・。
さらに追随するように黒と赤の光の線が最高神に向かって、四方八方から攻撃を加えていく。
「すごい・・・・」
アイナが、つぶやいた。
セナもエリスも見逃さないように見つめていた。
王都の国民もその全員が彼らの戦闘を食い入るようにみていた。
だが、ラキナは、ひとり違う感想を抱いていた。
アルベルトはもちろんのことアリスも強くなった。
アリスは存在自体は妾と同等に、アルベルトに至ってはあのビシスと変わらないほどに。
でも・・・・・・・。
黒と赤の光の渦の中にいた白い輝きがよりいっそう増した。
輝きの中から黒と赤だけが弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「まだまだ。未熟な体では、私には愚か、新たな力を身につけるであろうソロモンにも勝てないよ」
でも、やはり最高神には、まだ敵わない。
唯一、ビシスに勝ったマルスが封印、それも生命を賭す形でしか勝てなかった相手だ。
さらに、この目で確認して確信した。
確かに纏う覇気は以前とは違うが、奴の手にはマルスの愛刀・月詠がある。
あれでは、最強の敵と最強の味方が合体したようなものだ。
「あれは、一苦労というレベルではないの」
地面に叩きつけられた二人が立ち上がる。
二人とも息が切れ、アリスに至っては一際汗が吹き出していた。
「今日はここまでだね。この体に居続けるのも限界のようだし。勝手に死ぬなよ。まだ楽しませてもらうから」
「ああ、死なねえよ。お前を天上から引き摺り下ろすまでは」
「いいねえ、その顔。しばらくは休戦だ。お互い力を蓄えようじゃないか」
ーーまだ始まったばかりだよ、『遊戯』は。
そう言い残し、ソロモンはどこかへ転移した。
「ああ、疲れた」
「そだね」
ドサッと、二人がうつ伏せに倒れた。
「アル、アリス!!」
アイナたちが駆け寄る。
すぅ、すぅ・・・・・・。
「・・・・・・なんだ、よかった」
二人は、究極の緊張感から解放され、糸が切れたように強制的に体がシャットダウンした。
11歳の体には、まだ早すぎる戦闘だった。
「これは、奴の言ったとおり此奴らの成長を、体の慣れを待つしかないの」
ラキナは、ゆっくりと二人に近づきながら言った。
「サクラ」
「はい」
コジロウが、眠る二人を見ながら話しかけた。
「この二人について行きなさい」
「よろしいのですか?」
日の国の心配をしているのだろう。サクラは、即答したかったが心配の方が僅かに勝った。
「そちらは儂がなんとかする。お前は、この者たちとともに頂を目指しなさい」
「はい。・・・・・・有難うございます」
サクラは、コジロウに深く頭を下げた。
「しばらくは休戦か・・・・・」
ラキナもこれからの方針を考えながらひとまずの休息を楽しむ事にした。
冒険者や騎士団が捕虜として、生き残った聖騎士を縛り上げ、エリスに報告をしていた。
負傷者は少なかれ出たが、死者は奇跡的に出なかった。
目の前では、アリスたちの友人だろうか人間と獣人の少女が駆け寄ってきていた。
後世の歴史家が、『歴史の転換点』と呼ぶことになる、神の気まぐれで起きた戦争が終結した。
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