第21話 王都vs聖教国②

〜聖教国教会上空〜


そこでは、ラキナと偽セリカが互角の戦いを繰り広げていた。

二人の衝突により、教会は半壊状態、中が丸裸になっていた。


「お主、まさか・・・・・!!」

「ふふ、ようやく気付かれましたか?」

ラキナは、偽装の魔法が解け、本当の顔が露わとなった女を見てあることに気がついた。


「システィーナか・・・・・?」

「ええ、改めてお久しぶりです」

システィーナ。

彼女は、混沌の時代、マルスに惹かれ彼のために世界と戦った仲間の一人だった。


「なぜお前があやつらと!?」

「なぜって、マルスさんのためですよ」

「なに?」

マル坊のため?

なにを言ってるんじゃ、この女は。


「マル坊は、もう死んでおるんじゃぞ」

確かに、あの時魂は消滅した。

肉体は、なんとか守ったが、ソロモンに奪われ依代にされている。


「生きてますよ。マルスさんは・・・・」

「・・・・・・は?」

「生きてます」

そんなはずはない。

あの時、目の前で、妾の腕の中で・・・・・・。


「その昔、精霊卿で子供だったソロモンが魂の存在を色濃く認識したのをご存知ですか?」

「・・・・・・」

ラキナは、なにも答えなかった。

それでだけで今なにが起きてるのか理解したからだ。

「そうか、そういうことか。マル坊はまだ・・・・・」

戦い続けてるのか・・・・・・。


「なら、妾にできるのは、マル坊を楽にすることじゃ」

「だから、彼を殺すと?」

「ああ、体を取り返したいと思っておったのじゃが、そういうことなら話は別じゃ」

「そうですか」

システィーナは、自然体を崩さずに”気”練り始めた。


「それが”仙気”というやつか」

「はい、彼が生きてると知った日から100年と少し、”気”を練り続けやっと到達した境地です」

ラキナは、システィーナの”気”の流れを視る。

確かに、気門が開いておるな。

しかも、心臓の終門まで・・・・・。


「これは、全力で行くしかないの〜」

「そうですか。あなたにそこまでいっていただけるとは思っていませんでした」

「「・・・・・・」」


「「ふんっ!!」」

二人の拳が衝突し、先ほどまでとは比べ物にならない衝撃波が国を襲った。





衝撃波で、建物が揺れ、中には倒壊するものも出ている中、この国での最後の食事が焼肉丼だった者、外の国の者は、国民の異常さに困惑していた。

コジロウとサクラもそのうちの人で、異国の国民の異常さに若干引いていた。


「どうなっとるんじゃ・・・・・」

「戦争をここまで助長するなんて」

本来戦争は、国民から食料や税を搾取した上で行うもので、勝てば天国、負ければ地獄なのだ。

勝てばいいとはいうが、それまではろくに食事もできないのだ。

だからこそ、この国の異常性がわかる者にはわかる。


「あなたも外の人?」

そんな二人の元に女性が二人歩いてきた。

「其方らもそうか?」

「私は、ラン。世界を旅する美食家よ」

「私は、焼肉丼の提供を始めた店の店主のアンジュです」


「わしらは、日の国のものじゃ」

コジロウたちも身分を明かし、現状を把握しあった。

「師匠、原因はわかるのですか?」

「そうじゃな・・・・・・」

外の国の者と一部の者だけがこうして発狂せずにいる。

以前どこかで・・・・・。


「”錯乱薬”か?」

「錯乱薬?」

「ああ、混沌の時代と呼ばれた、まだ日の国が世界と関わりのあった頃、人々がこぞって乱用した薬じゃ」

「それって、”幸せを呼ぶ薬”と呼ばれるやつじゃないの?」

ランが、コジロウに聞いた。


「そうじゃな。歴史では、そうなっておるが、ただの麻薬じゃ」

「それを飲むとどうなるのですか?」

アンジュは、同郷のものがそんなものを飲んでいると聞いて、不安で仕方ないのだろう。

「聞いた話では、恐怖感情がなくなり、服用しすぎると自我がなくなっていくそうじゃ」

「自我が・・・・・」

まだそこまでになった人が周りにいないため、まだ大丈夫なのだろう。



「それで、皆さんはどうするのですか?」

アンジュが聞いた。

「わしらは、会いに行きたいものがおるでの」

「そうですか。ランさんは?」

「私は、王都に向かうわ」

「王都に?」

「ええ、まあ、戦争が終わってからだけど」

「なら私もついていっていいですか?」


「いいけど、店はいいの?」

「ええ、この有様じゃ、続けられそうにないですし、商品は、信頼できる人に預けてますので」

「そう。そういうことならよろしくね」

「はい!」

この二人は今後、世界を旅し、”白い米”に合う食材を探し続けるのだがそれは、まだ先の話。



「では、わしらはこれで」

「ええ、またどこかで」

それぞれが目的地に向かっていった。




「師匠、私たちはどこへ?」

サクラは、コジロウの目的をいまいちわかってなかった。

「ラキナ様のところへ行く」

上空でとんでもない戦いを繰り広げているラキナを見て言った。

「あそこに行くのですか?」

コジロウが強いことは知っているが、あの戦いを見ては足手まといにしかならないと思ってしまう。


「おそらくあの人は、誰かを庇いながら戦っている」

コジロウの予想は、当たっていた。

ラキナは、離れてはいるがシスティーナが狙い続けるセリカを庇いながら戦っていた。

「では、その者の安全を?」

「ああ」

そう言って、迫り来る衝撃波をかわしながら、教会の方へと向かっていった。





◆◆




アリスは、エリスたち騎士団と別れ、王城のもう少し奥に感じた二つの魔力の方へと向かっていた。


あれは、人?

違う、人じゃない。

魔族でも、竜でもない。

今まで、感じたことのない気配に危機感を感じていた。


「これは、少しまずいかも」

一段階速さを上げ、急いだ。




「ゾイドの気配が消えた」

「それは、真ですか?」

ソロモンの言葉に疑問を呈したのは、ジーナだった。

「ああ、指輪が一つ反応しなくなった」

手を広げ、指の一本一本に嵌める指輪の一つの反応が消えたのを確認していた。


「我々が行って来ましょうか?」

静聴していた男二人が前に出てきた。

「本当かい?」

「ええ、『鍵』の回収も任せてください」

「なら、俺は、ゾイドを消したやつを相手してくる」

二人は、片膝をつきながら、ソロモンを見上げた。


「なら、二人に任せようかな」

「「ありがたき幸せ」」


ソロモンは、二人に手を向け。

「ダグラス、グリム。頼んだよ」

「「はっ」」

二人は、その場から転移し、王都近辺に現れた。



「ここが王都か」

「では、私は、『鍵』の回収に行って来ますね」

「ああ、俺は、こっちに向かってきてるやつの相手をするぜ」

ダグラスは、グリムと別れ、王城の中へ向かった。



そこに、アリスが到着した。

「あなたたちは誰?」

ダグラスを追いかける余裕のないアリスは、グリムに意識を向け聞いた。

「お前、ゾイドを殺したやつだろ?」

「ゾイド?・・・・・・ああ、あの人?」

そうだけど、と何事もないように答えた。


「弱い奴が死のうがどうでもいいが、あの方の障害となるならここで殺す」

「殺せるといいね」

アリスは聖剣をだし、グリムは大鎌を出した。


二人は同時にかき消え、衝突を繰り返した。




一方、ダグラスは・・・・・。


「ここも変わってませんねー」

以前来たことがあるのか、軽い足取りで目的の部屋へと向かっていた。

「あなたは?」

後ろから声をかけられた。


「おや、王女様ではありませんか」

「私を知ってるの?」

「それはもちろん」

ダグラスは、ナイフを投げ殺そうとした。


「っ・・・・・・」

アイナは、頭を傾け避けた。

「ほう」

王女らしからぬ動きに、ダグラスは感心していた。


「王女様、大丈夫か?」

二人の間に、ガルムとサナが現れた。

「あれ、ガルム先輩、あの人って」

「ん?・・・・・なんであんたがこんなところに?」

「二人とも知ってるの?」

アイナは、二人に尋ねた。


「ああ、あいつはブライトリヒ家の執事だった男だ」

ブライトリヒ家といえば、悪魔に身を売った一族の家名。

「ああ、あの人間が雇っていた暗殺者ですか」

「まさか、お前が悪魔だったとは」

「これで納得がいきました?」

「ああ、王女様に悪魔の核を埋め込んだのもお前か」


アイナは、心臓が跳ねるのを感じた。

「ええ、そうですよ」

「・・・・・・ガルムさん、こいつは私にやらせて」

「王女様、しかし・・・・・」

「大丈夫だから」

「・・・・・・・・!!」

ガルムは、怒りに満ちたアイナを見て一瞬たじろいだ。


「二人は、他のことをお願い」

「「わかりました」」


「いいのですか?王女様」

「ええ、あなたは私が殺す」

アイナは、ケラウノスを手に持ち自分のために”捌くもの”を使うことを決めた。


「まあ、いいでしょう。あなたを殺せば『鍵』の入手も捗るでしょうし」

「『鍵』?」

「いえ、なんでもありません」


ダグラスは、アイナに迫り、二人の武器がぶつかった。




一方、王都正門前では、エリスがやり切った表情で仰向けに倒れていた。

そこに向かう、新たな絶望に気づかずに・・・・。










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