第20話 王都vs聖教国
生命の起源であり、『創造神』という、子供の提案は、大変魅力的なものだったが
「いや、結構です」
キッパリと断った。
「うんうん・・・・・え!?」
予想外の返答だったのか目が丸くなっているように見えた。
「いや、なんかめんどくさそうだし」
「なんで!?そこは、了承するとこじゃないの!?」
なんでそんなことしなきゃなんないんだよ。
確かに、最高神たちは敵として判断したけど、そんな急ぎじゃない。
仲間のみんなが超越化すれば寿命もなくなり、老化も最適な年齢で止まる。
「いや、そんな急ぎじゃないし・・・・・」
「うっ・・・・くっ」
え、うそ。
創造神が泣き出した。
「お、おい・・・・・」
「「ねぇねぇ、受けてやってー」」
アダムたちにお願いされた。
うー、しょうがないか・・・・・。
「わかったよ。強くしてくれよ」
「ほ、ほんと?」
「あ、ああ」
なんかこうしてみると普通の子供だな。
「ありがとう!!」
ガバッと抱きついてきた。
ミシミシミシッ!!
え、ちょ、痛い痛い痛い!!
「は、離して・・・・・」
骨が軋んでるからー!!
◆◆
「アル君大丈夫かな?」
あの子供とんでもなく強かったし、ラキナちゃんでも相手にならないほどに。
「まあ、アル君なら大丈夫か」
大丈夫ではなかった。
たった今、抱きしめられた状態で骨が軋んでいた。
そんな事は知るよしもないアリスは、前を走る一人の男を追っていた。
「あれ、何してるのかな?」
男は、森を抜けたところで止まり、魔法の詠唱をしていた。
あの人の強さなら詠唱はいらないと思うんだけど・・・・・。
「ん?あの人って・・・・・」
追いかけていた男は、エルフの森で戦ったユウタという男だった。
「あ」
男の足元に魔法陣が現れ、その中から大量の魔物が出現した。
「すごい数・・・・・」
数もすごいが、ワイバーンや大きなウルフーー鑑定してみたらフェンリルだったーーやオークが大量にいた。
フェンリルって、こんなにいるものなの?
フェンリルといえば、混沌の時代に最も強い魔物の候補に上がるほどの存在だ。
「あんなのが一斉に王都に行ったら・・・・・」
間違いなく、王都は滅ぶ。
セナやアイナがいると言っても、あの数には勝てない。
急いで、王都に行かないと!
森を抜け、王都に向かおうとした時
「おっと〜、お前はダメだ」
「!!」
キィィィン!!
ナイフが死角から飛んできた。
「だれ?」
「俺か?俺は、ゾイドだ」
エルフの森で、ガルムとアイナと対峙したダイスの顔を持った男だった。
「なに?その顔」
ゾイドの顔を、初めて見たアリスは、忘れかけていたダイスを思い出した。
「これは、
「死体?」
あの後死んでしまってたのか・・・・。
「で、なにしにきたの?」
さほど興味のないアリスは、話を進めた。
「ははっ、お前もそっち側か」
「?」
「いやぁ、なんでもねえよ」
「・・・・・なにしにきたの?」
「王都に滅んでもらうためには、お前らは邪魔なんだと。だから、止めに来たんだよ」
「そう」
ヒュッーーーー。
「なにしてんだ・・・・・?」
そこまで言って、ゾイドは、自分の視界がズレているのを理解した。
「は、え、は?」
ゴトッ。
ゾイドの首が落ちた。
「早く行かないと・・・・・」
アリスは、再び走り出した。
なんともあっけない幕切れなのか。
ソロモンの仲間が一人死んだ瞬間だった。
◆◆
「なんだ?」
聖教国から宣戦布告を受け、戦闘準備を行っていたエリスは、突然出現した魔法陣に目を向けた。
これは、アルベルトか?
それにしてもとんでもない魔力だ。
出てきた人影を見てさらに驚いた。
「何人いるんだ?」
少なくとも二十人はいた。
こんな人数を同時に転移させるなんて・・・・・。
「あ、エリス。ただいま」
「アイナ様?」
「ええ、これから戦争でしょ?」
「ご存知なのですか?」
聖教国に居たということを知らないエリスは聞き返した。
「うん。まずは、この子達を安全なところに入れてくれる?」
「その子たちは、孤児ですか?」
「そうよ。私たちで面倒を見ることにしたの」
「そうですか」
なにをしようとしてるんだろうか・・・・・。
「では、王城の隣の避難所は、国民で手一杯なので王城に入ってもらいます」
「お父様たちも王城に?」
「はい」
「わかったわ。ありがと」
「いえ」
「私は、エルギス家の人たちに会ってくる」
「そう。ならまた後でね」
セナは、そのままエルギス家へと向かっていった。
子供たちを連れて王城の中に向かうアイナに言い忘れていたことを伝えた。
「アイナ様」
「うん?」
「お帰りなさいませ」
「うん!」
アイナも久しぶりの
王城の中は慌ただしかった。
「みんなどうしたの?」
アイナは近くを通ったメイドに話しかけた。
「アイナ様!?」
「ただいま。それでどうしたの?」
「あ、お帰りなさいませ。それが・・・・・」
聞くところによると突然の宣戦布告に、国民の避難や貴族の騎士派遣の手続き、食料手配にと手が足りないようだ。
「食料だったら、ここから使って」
そう言って、アイテムボックスから食材を出した。
「これは?」
「旅の途中で買ったものよ」
「よろしいのですか?」
「ええ、こういうときに使って」
「ありがとうございます!!」
それから、大量の食材を数人の執事やメイドが何往復かかけて給仕室へ運んで行った。
「みんなは、ここにいてくれる?」
子供たちに、一際広い部屋にいてくれるように頼んだ。
「お姉ちゃんは?」
子供たちは、見知らぬ場所にいきなり連れてこられ不安でいっぱいなのだろう、胸の前で手を握りしめていた。
「大丈夫よ。すぐに戻ってくるから」
「ほんと?」
「ええ、だからちょっと待ってて?」
「うん。わかった」
子供たちに納得してもらい、両親のところへ向かった。
「ただいま」
「アイナ?」
「なんでここに?」
書類と睨めっこをしていた両親が驚いた表情で顔を上げた。
「ちょうど聖教国にいたの」
「てことは、あちらはもう進撃してるのか?」
「ええ、でもアルたちが対処してるから大丈夫よ」
「そうか・・・・・」
少し安心したのか、背もたれに寄りかかった。
”ギャアアアアアアア!!!”
突如として、魔物の雄叫びが聞こえた。
「え、なに?」
アイナも魔物の雄叫びは予想外だったのか窓から外を見た。
「あれは、なんだ?」
「ねえ、あなた、あれって・・・・・」
ハンナが震える指を外に向けてアレクに促した。
「な!?あれは・・・・フェンリルか!?」
伝説の魔物が王都に向かって来ている。
先程の安心感が一瞬にして消え、絶望が三人を襲った。
「え?」
フェンリルの周りに衝撃波が走った。
さらに、もう一体のフェンリルにも赤い閃光が走った瞬間に倒れ伏した。
「アリス?」
◆◆
騎士団が準備を終え、王都の正門前で隊列を組んで聖教国の進軍に備えていると目の前に絶望が迫ってきた。
「あれって、まさか!!」
騎士の一人が声を上げた。
「フェンリルか・・・・・」
全くとんでもないものを向けやがって・・・・!!
エリスは、フェンリルの強さを知っていた。
かつて混沌の時代に一度だけ対峙したことがある。
マルスやイリアたち到達者と呼ばれたものたちは軽々と倒していたが、超越者になりたてだったエリスには荷が重く、全く歯が立たなかった。
当時対峙したのは、一体だけだったが今回は
「はあ、ここまでか」
流石に死を覚悟した。
超越者は不老であって、不死ではない。
それは、到達者であっても同じで魂が死ねばその体も死ぬ。
”ドオオオオオン!!”
「なんだ!?」
あのフェンリルが真っ二つになり倒れ伏した。
「大丈夫?師匠」
アリスが、赤い髪を靡かせながら降り立った。
「・・・・・・まったくお前たちは」
「?」
「いや、なんでもない」
首を傾げるアリスを見たエリスは、何も変わっていないことに安心をした。
「あとは、師匠にお願いしてもいい?」
「ああ、任せてくれ」
これ以上、年端も行かない少女に国を背負わせるわけにはいかない。
「またね」
「ああ、またな」
アリスは、王都の中へと向かった。
「”またね”か・・・・・」
「行くぞ皆!!私は、残りのフェンリルをやる!!他は、頼んだぞ!!」
「「了解!!」」
騎士団と魔物の集団が衝突した。
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