第19話 開戦

”捌くもの”の相変わらずな可能性を認識し、現状に意識を向けた。

「それで、どう動こうか」

「私は、一度王都に行っておきたいわ」

アイナは、両親のところに戻りたいそうだ。

そりゃそうだろうな。


「なら、子供たちを一度王都に連れて行くか」

「それなら、子供たちの施設も王都に立てればいいんじゃないか?」

セナから提案を受けた。

「それいいな」

この国よりは、落ち着いた雰囲気でいいし、知り合いも多いし。

「ラキナもそれでいい?」

「ああ、かまわん」


「よし、ならアイナと子供達は王都に・・・・」

「私も、アイナについていこう」

「セナも?」

「ああ、エルギス家に一言言いに行きたいからな」

「わかった。なら送るよ」

王都組を王城の騎士団の練習場に転移させ、残った者たちはどうするのか聞いた。


「私は、アル君について行くかな」

「妾は、セリカと少しやることがあるからの」

「はい。私たちは二人で動きます」

「よし、ならそういうことで・・・・・」


「アル君はどうするの?」

「聖教国の軍は森を通るだろうから途中で強そうなやつだけを排除していくよ」

きっと、ユウタと呼ばれていたやつもそこにいるだろう。

「わかった。なら私もそうする」

まあ、王都が負ける事はないだろう。

不足の事態が起きない限りは・・・・・。



◆◆



〜開戦当日〜

「やるか、セリカよ」

「はい」

二人は、進軍準備で警備が手薄となっている教会本部へ乗り込んでいた。


「嫌な魔力ですね」

「じゃな」

魔力に敏感な二人は、神を崇める教会とは不釣り合いな魔力を感じ、顔を顰めた。

「これは、あの時の魔力と一緒ですね」

「ああ・・・・・」


「あれ?聖女様なんでこんな・・・・・・・・」

こんなところに?と言おうとした聖騎士の言葉は続けることが出来なかった。

「邪魔じゃ」

ラキナによって跡形もなく消え去っていた。

「あらら、昔のラキナさんみたいですね」

懐かしいな〜と呑気に笑っていた。

目の前で人が木っ端微塵になったというのに。


「そういえば、お主はなんで姿が変わってないのじゃ?」

「え、今更ですね」


「私たちは、あの日に”輪廻の秘術”を行なったんです」

「まったく・・・・お主らは揃いも揃って・・・・」

「もしかして、呆れてます?」

「当たり前じゃ」

”輪廻の秘術”は一度使えばその効果が消える事はないが、歳も取らず死んでもまた生まれ変わり、記憶も引き継ぐ、死んでも死にきれない苦痛は計り知れないものがある。

しかし、聖女たち、マルスに惹かれた者たちは最後の日、マルスが死んだと知ってから一斉に秘術を行なった。


「彼の理想の世界を作り上げるまでは私たちは死ねませんよ」

「・・・・・・・そうか」

愛されすぎだ、まったく。




しばらく歩くと目的の部屋についた。

「ここか」

「はい」

ラキナは、拳を握りしめ、扉に向かって放った。


”ドゴオオオオオオン!!”


「あらあら、ずいぶんと荒いノックですね。ラキナさん」

そう言う彼女を見てラキナは、動揺した。

「お主、本物のセリカか?」

目の前の偽物と思っていた聖女は、どう見ても本物だった。

彼女の体には、国民と同じように薬物が投与されており、その濃度は国民と比較にならず、長い間抵抗したことが伺える。

おそらく、死のうとしたこともあったのだろう。

部屋の至る所に乾いた血が付いていた。


「あら、やっと気付かれましたか」

背後に控えていたセリカが笑うのが聞こえた。

「主はっ!!」

振り返った瞬間にラキナが殴られ部屋の奥まで吹っ飛んだ。


「いや〜、あそこから出してくれたおかげで助かりましたよ」

「・・・・っ!!」

「どうでした?私の演技は」


「おい、セリカを連れて離れていろ」

「はっ」

いつの間にかセリカの背後に控えていた侍女に逃げるように言った。

「ラキナさん」

「・・・・・!!」

本物のセリカの目から、涙が伝っていた。


「お前ら、あの子に何をした!!」

「ちょっと言うことを聞いてもらったんですよ」

そう簡単に明言はしなかった。


「そうか。まあ、とりあえず殺す」

ラキナが怒気を沈め、静かに敵を見据えた。

「あなたに私が倒せるでしょうか?」

「何を言って・・・・ぐっ!!」

これは、魔弾か?

まさか!!


「ふふ、すごいですね。アルベルト君の魔道具は」

「・・・・・・・」

これは、やばいな。

その場で発動される魔法であれば”空間断絶”であろうが簡単に対処できるだろうが、発動兆候がわからない設置魔法は、対処が難しい。


「まったく、とんでもないものを作りやがって・・・・」

この場にいない少年に文句を言う。

「ええ、本当にとんでもないですね。あの子は」

ペンダントを触りながら笑う。


だが、アル坊の魔法は、破れないわけではない。

だがここで、本気を出せばこの教会は・・・・・。

「まあ、いいよな。どうせ破壊するんじゃし」

拳に魔力を纏わせ濃縮させた。


「とんでもないですね。あなたも」

「覚悟しろよ?」

拳に漆黒のオーラを纏わせ、構えを取った。


「「・・・・・・・・」」


”ドオオオオオオオオオン!!”


教会から黒い稲妻が衝撃波とともに広がった。





◆◆



軍隊が王都に進撃を開始し、しばらく様子を見ていたアルベルトたちは、背中に凄まじい衝撃を感じ振り向いた。

「すげぇ、あれラキナだよな」

「だねー。あっちの方が楽しかったのかなー」

えー。

マジもんの戦闘狂じゃん。


「まあ、ラキナだから大丈夫か・・・・」

ラキナが負けるなら、俺たちじゃまだ勝てない。

そうなったら、もう終わりだ。


「あ、なんか慌ててるよ」

「ん?」

アリスに言われて見てみると、聖騎士や傭兵が森の中で防御陣形を取り、慌てていた。

「何してんの?」

ん?ちょっと待てよ。

あそこって・・・・。

「なあ、アリス」

「なに?」

「あれ、もしかしたら魔道具のせいかも」

あの魔道具は、悪意もしくは敵意に反応する。

今回は、王都に対する敵意に反応したのだろう。


「なんか、あれだけで戦争終わりそうじゃね?」

「あ、でも一人だけ切り抜けそうな人がいるよ?」

まじで!?

結構な威力の魔弾のはずだが・・・・・。


「お、切り抜けた!!」

「すごいね、あの人!!」

とうとう切り抜けた一人の男は、王都に向け駆け出した。


「行くか」

「うん」

いまだに苦戦している聖騎士たちを気絶させながら追いかけた。





「おろ?君は・・・・・」

隣から子供の声が聞こえた。

なんだ、この子供・・・・・。

「アリス、先行っといて」

「う、うん。気をつけて」

アリスも気付いたのか、そう言って先に王都に向かった。


「君一人でいいの?」

「二人でも勝てねえだろ?」

この子供は、今の二人では勝てない。

そう確信できるほどに強い。

「そうだね。君たちじゃ5分が限界かなー」

そうか・・・・・。そこまでか。


「で、君は?」

「アルベルトだけど」

「アルベルト・・・・・」

ふむふむ、と名前を覚えるような仕草をしている。

「お前は?」

「僕は・・・・・」


「「あー!!何してるのこんなところでー!!」」

「「!?」」

子供も驚いたのか、アダムとハナの登場に目を見開いた。

「え、知り合い?」


「二人がついていってる子だったのか・・・・」

「「そうだよー」」

「で、結局誰なんだよ」

「僕は、この子達の親みたいなものさ」

「親?」

「そうだよ。まあ、『創造神』ってところかな」


創造神って、ソロモンのことか?

「じゃあ、あんたがソロモンか?」

「え、いやいや、違うよー。あんなサイコ野郎と一緒にしないでよ」

「サイコ野郎・・・・・」

ラスボスの一歩手前のやつをサイコ野郎か・・・・。


「創造神って何人もいるのか?」

「ん〜、そうだねー。僕は、生命の起源だけどー。サイコ野郎は魔法とかステータスの起源みたいな?」

なるほど。

いや、なるほどじゃねえけどな。

なんだよ、生命の起源って。


「で、なんのよう?」

「そうそう、君たちあのサイコ軍団を倒したいんでしょ?」

「サイコ軍団?」

「そう、最高神とか呼ばれてるやつと、サイコ野郎の集団のことだよ」

最高神もサイコ野郎ってことか。


「まあ、そうだけど・・・・」

「そのままじゃ勝てないよね?」

「え、まあ・・・・・」

「だよねー」

そんなに笑わなくても・・・・・。


「で、それがどうしたんだよ」

「僕が強くしてあげるよ」



そう提案してきた。



「いや、結構です」




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