第18話 無限の可能性

『英雄の宴』

それは、英雄マルスが始めた”スキルなし”での最強を決めようとした最強決定戦。

その会場では、この時代を担う強者たちが己の純粋な強さをぶつけ合い最強になろうと戦った。

その、王者決定戦には、年端も行かぬ成人前の少年少女がとんでもないレベルの戦いを繰り広げていた。


”バアアアアアアアアン!!”


模擬剣が出すような音ではなかった。

「すごい!!すごいです!!今までの大会とはレベルの違う戦いが繰り広げられています!!」

観客のボルテージも半端なものではなく、会場の外にまで熱気が広がっていた。


「なんか、急に強くなってない?」

アリスが前回の模擬戦から比べ物にならないぐらい強くなってる。

これは、ラキナ効果か?

「まあね。ラキナちゃんに扱かれまくったから!!」

アリスの猛攻をなんとか凌いでいた。

何もかもが変わってる・・・・・。


「くっ・・・・・」

一旦離れ、反撃をしようとした。

「んな!?」

目の前にアリスがいた!

え、うそ、ちょっと待ってー。

「えい!!」

気の抜ける掛け声と共に強烈な一撃が迫ってきた。


剣で防ぐがその威力に耐えられず吹っ飛ばされた。

あの、細腕からなんて力のある攻撃を・・・・・!!

「っぶね〜」

場外ギリギリまで吹き飛ばされたがなんとか踏みとどまった。


「とんでもないな、まったく・・・・・」

アリスはすでにこちらに走って来ていた。

剣先を地面に向け、半身で構える。

腰を落とし、アリスの攻撃に備えた。


アリスの剣が上段から振り下ろしてくる。

・・・・・・今だ!!

アリスの振り下ろしてくる剣の運動エネルギーを、剣を当てることで横に逸らし、アリスの体制を崩す。

「え!?」

ふふ、戸惑ってるな。


「ふんっ」

崩れた体制のアリスのからに一撃を入れ、リング中央まで吹き飛ばした。

「いった〜い」

腹をさすりながらも笑っていた。

楽しいよな、こんなにも全力をぶつけられる相手はお互いにまだ少ない。

だから、こんなにも楽しい戦いはなかなかできない。


「いくよっ」

同時に駆け出した。


上か・・・・・・!?

アリスの剣は確かに上から迫っていたが、今は下から来ている。

ゴンッ!!

「な・・・・・・んで・・・・・」

顎に直撃したことで、意識が朦朧としてきた。

やばい、このままじゃ・・・・・。


「今回は私の勝ちだね」

最後に見たのは、アリスの笑顔だった・・・・・。







「いや、死んでねーよ?」

「あ、起きた?」

どうやら、気絶したのは、ほんの短い時間だけだったようだ。

「負けたよ」

今回は、見事に負けた。

言い訳のしようがない。


「強くなったでしょ?」

「ああ、強くなりすぎだ」

ほんとに強くなりすぎだよ・・・・。

”円環流”はお互いに取得し、剣技についてはそこまで差はなかったはずだが、あの足捌きは、別格だった。


「あの動きは、ラキナに習ったの?」

「ん?いや、あれはこの大会の人たちを見てやってみたの」

ニコニコしながら言っているが、内容はとんでもない。

なんだよ見て学んだって、しかも直後に実践で使用できるまでになるって・・・・。

「はあ、敵わんな」

ため息しか出てこなかった。



「決着ーーーーー!!第390回・英雄の宴、王者決定戦の勝者は、若干11歳アリスだーーーー!!」


うおああああああああああ!!!


会場は、新たな王者の誕生に歓喜していた。

中には、アリスを囲もうとする貴族や騎士団もいた。

数多くの思惑が渦巻く会場では、優勝商品である”遺物の在処”がアリスに伝えられていた。

とうとう、次の遺物か・・・・・。

戦争が終わってからだな。



「これにて、第390回・英雄の宴を終わります!!」



◆◆




「「ただいまー」」

二人は、嫌な予感がしたので、気配を消して会場を後にした。

案の定、会場の中も外も貴族や騎士で賑わっていた。

あんなのに絡まれたら絶対めんどくさいことになるのが目に見えてるからな。


「お、ようやく帰ったか」

珍しくラキナが出迎えてくれた。

「なあ、あれ何?」

ラキナの背後には、疲れ切ったアイナとセナ、そして見知らぬ子供たちがいた。

「拾った」

ん?なんて?

拾った?


「どうするの?その子達」

「面倒見ようと思っての」

「どこで?」

二十人ぐらいいるけど・・・・・。


「戦争が終わったら、この国に施設を立てないか?」

「施設を?」

そこまでして、なんでこの子達を・・・・・。


「あの子らは、スキルに恵まれてなくてな」

あー、そういうことね。

スキルは、人間にとって優劣の判断基準となっているため、あの子たちはおそらくスキルに恵まれなかったのだろう。

「そういうことなら、別にいいけど・・・・・」

年齢的に、少ししか違わない子供たちを見捨てるのは気が引ける。

「そうか、すまんな」

子育ての経験があるラキナにしかわからない親心というやつか。



「それで、大会の方はどうじゃった?」

「私が勝ったよ!!」

「真か?」

ラキナがマジな顔で確認してきた。

「マジだよ。普通に負けた」

ラキナは、アリスの方を向き、一言。

「よくやったな」

「うん!!」

だれも、俺を労ってはくれなかった。


「お兄ちゃん大丈夫?」

いつの間にか傍に来ていた子供に声をかけられた。

「お前だけだよ・・・・・・」

その子を抱きしめ、必ず守ると決心した。




そしてついに、宣戦布告の日。

教会の前には、騎士たちが立ち、物々しい雰囲気が漂っていた。

「我が国の、民たちよ。今日をもって、我々は神を崇拝しない異教徒の国である王都に宣戦布告をする!!」

聖女の代理者を名乗る男の宣言に国の人間たちは、大喝采をあげた。


「どうなってんの?」

つい先日まで、この国は戦争の雰囲気などまったくもってなかった。

それが、たった数日で戦争を後押しするような雰囲気になっている。

一部ならまだしも、国全体がそうなっているのだ。


「これは・・・・まさか!!」

ラキナが慌てたように国の店に売っている食料を手に取った。

そして・・・・・握り潰した。

「え、ちょ、何してんの?」

「薬を盛られているのじゃ」

「薬!?」


ラキナ曰く、口にする食料に一定の量の薬を盛ることで思考能力を奪い、誘導をするものらしい。

「あの時代に多用されたものじゃな」

「それをこの国の人たちに・・・・・」

じゃあ、なんで俺達はかかってないんだ?

子供たちもキョトンとしているところからすると薬は効いてないみたいだ。


「あ、それは、多分私のせいね」

アイナが手をあげそう言った。

「どういうこと?」

「私の”捌くもの”なんだけど、害になりそうな物も捌くみたいで・・・・」

え、じゃあ、アイナが調理したものは完全無欠な料理になるってことじゃ・・・・。





どうやら、アイナの”捌くもの”は、無限の可能性が詰まっているらしい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る