第17話 料理人冥利
アルベルトが”円環流”の剣を使おうと構えを取った時、もう一つの戦いに決着が着こうとしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・」
サクラは片膝をつき、剣を突き刺すことでなんとか倒れずに済んでいた。
「これが、”円環”の理由・・・・・」
十一までの型を順番に繰り出すことで十一撃を繰り出す。
それが、今日まで全ての始まりだと信じてきた。
「十二撃目とは、円環とは、こういうことか・・・・・」
十一撃目まで繰り出し、初撃に戻り、また繰り返す。
初撃目が一撃目であり、十二撃目だということか・・・・。
「降参だ」
サクラは、立ち上がることができず降参した。
「ここで、Bブロック決勝戦試合終了!!王者決定戦に駒を進めたのは、11歳の少女、アリスだー!!」
「アル君はどうなってるかな〜」
観客には目もくれず、Aブロックの試合に目を向けた。
◆◆
「やりおるの・・・・・・」
コジロウは、開始直後の余裕がなくなっていた。
「爺さんも、やっぱりすげえじゃん」
”円環流”を二巡分受け切ったが、あの小僧にはまだまだ余裕がありそうだ。
これは、敵わんわ。
「最後に胸を借りるぞ」
わしの全てをこの小僧にぶつけることにした。
「なにをするつもりだ、この爺さん」
あのまま”円環”を続ければ勝てていたが、結構疲れるからやめた。
お、なんか目を瞑り始めたぞ?
「行くぞ、これがわしの全てじゃ」
爺さんが、年齢にそぐわない素早さで懐に迫ってきた。
剣を抜かない?
なにを・・・・・・。
「お!?」
爺さんが柄の部分で突いてきた。
予想外の攻撃をなんとか捌いたが、その瞬間に持ち替え今度こそ剣を抜いて斬ってきた。
「がっ!!」
横腹にくらってしまった。
くそっ!
爺さんから離れ体勢を整える。
「まだまだじゃぞ?」
次々と、ありえない速度と角度から攻撃が飛んでくる。
ちょっと待ってー。
この爺さん、ほんとにやばいって!!
なんだよ、この手首の動きと足捌きは!!
「ふん!!」
爺さんは、最後に突きを放って来た。
ガンッ!!
なんとか剣の腹で受け、同時に後退することで威力を和らげた。
「とんでもねえな・・・・・」
「ここまでか・・・・・」
爺さんは片膝をついて降参した。
「なんと!!こちらも11歳アルベルトが勝ちました!!今大会の王者決定戦は、まさかの少年少女の戦いとなります!!」
観客は、大盛り上がりだった。
記念できていたと思っていた子供が、まさかの王者決定戦に挑むのだ。
それも、二人ともだ。
こんなにも盛り上がるものはないと言わんばかりに歓声をあげていた。
「王者決定戦は、休憩を挟んだ後行います。しばらくお待ちください」
◆◆
「やったねアル君!」
「だな!」
二人は、休憩をするためアイナがいる出店に向かった。
「お、なんだ?この人の多さは・・・・・」
「すごい人だねー」
まさかこんなにも繁盛しているとは思わなかった。
なんとか店の前にたどり着きアイナに会えた。
「お疲れアイナ」
「あら、もう終わったの?」
「いや、これからアリスと王者決定戦」
「二人で?」
「うん」
「食べていく?」
「うん、二人分お願い」
「ちょっと待っててね」
アイナは、すぐに準備をしてくれた。
「「いただきます」」
二人は同時に口に運んだ。
「うめぇ」
「美味しい・・・・」
やはり何度食べても美味しい。
しかも、タレの味が少し変わっている。
身体の疲れが引いていく気がする。
「あなたたち、あの店の子の知り合いかい?」
噛み締めていると、一人の女性が話しかけてきた。
誰だ?この人。
いかにも旅人のような格好をしているが、どこか貴婦人のような雰囲気を醸し出してるな。
でも・・・・・・・。
「あの、口についてますけど・・・・・」
焼き肉のタレを口につけていた。
「は、え!?」
女性は、顔を赤らめながら背け拭っていた。
「こほん・・・・・・」
一つ咳払いをし、こちらを向いた。
まだ、耳が赤い。
「そ、それで、あの子の知り合い?」
「はい、そうですけど」
アイナのことで間違い無いのなら。
「あの子は普段なにしてるの?」
普段?なんでそんなことを?
「俺たちと旅をしてますけど・・・・・」
「そうなのね。そう・・・・・旅を・・・・」
「アイナがどうしたんですか?」
「いや、その、あまりにもあの料理が美味しかったから・・・・・」
やはり、アイナの料理は素晴らしいな。
「まあいいわ。これ、あなたたちにあげる」
そう言って、彼女はバッチを渡してきた。
ナイフとフォーク?
その二本が交わった彫刻が施されたバッチを渡された。
「これは?」
「それを持ってれば、世界のほとんどの店の料理が”タダ”で食べれるわ」
”タダ”
なんと美しい響き。
「ありがとうございます」
胸に手を当て、お礼をした。
「え、ええ」
どうしたんだ?
なんかえらく驚いているような・・・・。
「ごめんなさいね。急にテンションが上がってるから」
そんなに上がってるか?
そう思ってアリスを見ると、うなずいていた。
えー。
「時間を取ってしまってごめんなさいね」
また会いましょうと言いながら人だかりの中に消えていった。
「結局、誰だったんだ?」
バッチをもらっただけで他はなにもわからなかった。
「それで、ご飯いいっぱい食べられるの?」
いつの間にか焼肉丼をおかわりしていたアリスが聞いてきた。
「そうみたいだね」
「そろそろ行こうか」
王者決定戦が始まる時間に迫ってきた。
「だね」
残りのご飯を口の中に流し込みアイナにお礼を言って控室に向かった。
「さあ、お待たせしました!!これより、第390回・王者決定戦を開始します!!」
観客の歓声で会場が揺れ、ボルテージが一気に上がっていく。
「今回は勝つよ。アル君」
「ああ、負けないよ」
アリスとの完全な内輪揉めが始まる。
◆◆
「お疲れ様、アリスさん」
「はい、お疲れ様です」
王者決定戦が始まる前には、客もいなくなっていて材料も底をつきそうだった為、出店をたたんでいた。
「アリスさん、これ」
金貨を一枚出してきた。
今日の売り上げの三分の一だ。
「え、いいんですか?」
三分の一とはいえ、金貨一枚あれば普通の生活をしていれば一年は暮らせる。
「当たり前よ、ほとんどあなたがやってくれたじゃない」
「そう言うことなら・・・・・」
金貨を受け取り、二人分の焼肉丼を作って食べた。
「ただいま〜」
1日働きづめで、体力がそこを尽きていたためフラフラとベットに行こうとした。
「え、だれ?」
いつもの部屋が、いつもの部屋ではなかった。
なんか、いっぱいいるんだけど・・・・・・。
「あ、お帰りなさい」
セナが、普通に迎えてくれた。
「セナ、これどういうこと?」
この子供たちも私を見て、セナを見てと忙しなかった。
「あー、その、ラキナ様が面倒を見ると・・・・・・」
「どういうこと?」
面倒を見るって、どこで見るんだろうか。
子供達を見ると健康とはいえない体つきだった。
孤児だったんだろう。
でも、子供達のことよりも戦争のことがある。
「お、アイナ戻ってきたか」
「ラキナ様、どうするのですか?この子たち」
「あー、とりあえず戦争に乗じてこの国壊すことにしたからそのあと考えようかの〜」
なんか、とんでもない言葉が聞こえてきた。
この国を壊す?
確かに、この方なら可能だが・・・・・。
セリカ様の方を見ると、子供達と戯れていた。
もう知ってそうだなー。
「はあ、とりあえずアルたちが帰って来てからにしましょうか」
「そういえば、あの二人はなにを?」
セナが聞いてきた。
「二人は、英雄の宴に出場してますよ」
「英雄の宴?」
セナは、知らなそうだ。
「ほう、マル坊の考えた遊びか・・・・」
ラキナ様は、知っているのかなつかしそうにしていた。
「それよりもアイナよ、なんかいい香りがするのじゃが」
え、この距離で?
確かに、服に焼肉のたれの香りはついているが香りを嗅ぎ取るには、少し離れすぎている。
「あー、焼肉丼ですね。出前を手伝ったので」
「焼肉丼となっ!!今すぐ食わせてくれ!!」
「今ですか!?」
今、その焼肉丼をひたすら作ってきたばかりなのに・・・・・。
「お主らも来い!!此奴の飯は最高じゃぞ!!」
ラキナ様は、子供たちも誘う。
うっ、目が透き通っている・・・・・。
「まあ、いいですけど・・・・・。ちょっと待っててくださいね」
「アイナ、手伝うよ」
「ありがとう、セナ」
聖教国に来てだいぶ距離の縮まったセナが手伝ってくれたおかげで、準備はスムーズに進んだ。
「はい、お待たせしました〜」
二十人分ぐらいを作り、テーブルの上に乗せた。
「「「「ごくっ・・・・・」」」」
子供達の喉が鳴った。
「どうぞ、召し上がれっ」
ラキナ様と子供達は我先にと焼肉丼に貪りついた。
「「「うんまああああああい!!」」」
「ふふっ」
やはり、この瞬間が料理人冥利に尽きる。
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