第14話 ヒノカグツチ
「すごい・・・・・」
アイナは目の前で起こっている戦いにそう呟いた。
これはまるで・・・・・・・
「『英雄物語』の」
アイナは胸の高鳴りが止まらなかった。
目の前で戦っている二人は何度も聞かされた英雄の戦いのようなものだった。
一人の英雄が、女の子を守るために悪魔と戦う。
そして、今回・・・・・
英雄が自分を救ってくれた少年で、守られる女の子が自分。
時間が経つたびに、気持ちが高揚し、心臓の音がうるさくなる。
目の前の戦いを忘れないように目に焼き付ける。
◆◆
サタナキアは焦っていた。
(なんだ、こいつは・・・・!)
自分は、あのお方に支える八柱と呼ばれる将軍の一人。
それに相対するのはそこらを探せば見つかるような普通のガキ。
少し頭の切れるだけのガキ。
そう思っていた。
しかし、いざ戦いが始まると・・・・・
「くそっ、厄介な」
魔法を得意とするものにとって一番戦いたくない”気”の使い手。
それを、達人レベルで操るガキ。
だが、こっちには長年の経験がある。
”気”の使い手を相手にするのは初めてではない。
その対策もある。
(”気”の使い手は魔素の感知が苦手なはず・・・・・!)
サタナキアは、ある魔法を使うため剣の操作をやめ発動に集中した。
◆◆
サタナキアが剣の操作をやめ、魔法に集中し始めた。
「ん?」
何をするんだ?
あいつの周りに魔素が集まっていく。
あー、これはあれか。
俺が”気”の使い手と思って魔素の感知が下手だと思ってるな。
どうしようか・・・・・
悩んでいると全方位に無限に属性付きの魔力弾ができていた。
魔力を使えば簡単に対処できるが、今は”気”の練習中だ。
”気”と剣技だけで対処しよう。
そしてサタナキアが魔法を放った。
「混合魔法:
アルベルトへ全方位から全属性の魔弾が迫った。
◆◆
サタナキアが魔法を放った瞬間、勝ちを確信した。
”気”の使い手は、魔素の感知が得意ではない。そのため、全方位から魔力の塊を放つことで、これまで”気”の使い手を何人も屠ってきた。
しかし、それも今日までだった。
(なんなんだあいつは・・・・!)
アルベルトは、剣と自身に気を纏わせ身体能力を上げ、魔法を
それも、自分に当たるものだけでなく全部だ。
(ありえない・・・・。こんなこと八柱はおろか、あの方でさえ・・・・)
その思考に陥った時、自らを憎んだ。
「ありえない!こんな小僧があの方よりも・・・・!」
そんなことはあってはならない。
こいつはここで私が殺す!
もう人間の協力者などどうでもいい。こいつを殺せればそれで・・・・!
怒りに思考を飲まれた一瞬の隙を突かれ、アルベルトが放った”気”を纏った斬撃がサタナキアを襲った。
「ぐはっ!」
サタナキアは、後ろの壁まで吹き飛ばされた。
こいつは、やばい。
魔素は操れないようだが、それでも強い・・・・!
我々の最大の障壁だ!
サタナキアは魔法を中断し、自身の最大の魔法を発動させた。
「精霊召喚:プルスラ・アモン・バルバトス!」
あいつを殺せ!
サタナキアの前に三体の精霊が顕現した。
◆◆
なんだこいつら、精霊?
サタナキアが召喚した、精霊は実態を持ち明らかに上位の存在だった。
あ〜、これはやばいな。”気”だけじゃどうしようもできない。
魔素も使うか。
”気”を体に纏いつつ、大気中の魔素を使い、スキルを使わずにイメージのみで神速の魔弾を放った。
しかし、精霊には全く効いておらず、三体の精霊はこちらに向かってきた。
「くそっ!」
アルベルトは、初めて苦言を漏らし、後退した。
精霊は初めて戦うため弱点が全く解らない。
だが、精霊とは何かをエリスから聞いたことがある。
〜アリスの休憩時間〜
「エリス、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「精霊って何?」
「なに・・・・か」
エリスは言葉に迷いこう答えた。
「私も詳しくは知らないんだが、精霊は精霊王以外最上位精霊までは、魔素の塊だ」
「魔素の?」
「ああ、ただ密度が高すぎて魔素の供給を止めたり、構成されている魔素の塊を操ったりすることができないんだ」
「でも、それができれば精霊相手でも勝てる?」
「ああ、おそらく・・・・・だが」
それは、かの英雄でも不可能だったことだ。
◇現在◇
いけるか・・・・!?
あの魔素の塊を、それも三体分・・・・・
いや、やるしかない!
アルベルトは、”気”への集中を一旦やめ、魔素に集中し始めた。
そして、精霊を構成する魔素に全てのリソースを割く。
「捉えた!」
ついに捉えたアルベルトは精霊の魔素を全て
『ユニークスキル』
精霊同化
を入手しました。
久しぶりの声が聞こえた。だが、今はどうでもいい。
サタナキアに目を向け、ニヤリと笑い、イメージしやすい炎属性を創造。
自身と大気の魔素をサタナキアの頭上に集め、ある一本の槍を生み出した。
「
その瞬間、超高火力の魔法がサタナキアに放たれた。
◆◆
「そんな・・・・ばかな!?」
精霊の魔素を掌握し、自身に取り込むなどあの方はおろか、あの人間の英雄にして我々の天敵だったマルスでも不可能だ。
狼狽すぎて、頭上に生まれた魔法に気がつかなかった。
アルベルトが何か叫んだその時、サタナキアは炎の塊に飲まれた。
「お気をつけを・・・・・・ル・・・・ま」
サタナキアは、核を残して消えていった。
◆◆
「終わった〜」
アルベルトは、核の時間を止め、復活できないようにし、アイテムボックスにしまった。
「終わりましたよ、アイナ様」
「・・・・・・・・・・」
あれ、反応がない。
「アイナ様?」
「・・・・え、あ、え?」
あれ〜?
「あの・・・・・」
「お、終わったの!?」
突然ものすごく興奮した様子で詰め寄ってきた。
「は、はい」
「アルってこんなすごかったの!?」
そんなにすごいか?
こっちは色々制限してたんだけど・・・・・
「は、はぁ。ありがとうございます」
「それよりあの悪魔は、完全にいなくなった?」
「ええ、核も復活できないようにしてあります」
魔道具の素材にしようかと。
そう言ったら、アイナ様は口をひくつかせながら引いていた。
なんでだよ!?
いいじゃん、強そうじゃん、炎竜の魔石もあるし、最高の素材、最高の環境の魔素で、最強の武器作りたいじゃん!?
男の子の夢じゃん!?
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