第9話 最強

褒美を受け取り、王城での予定は済ませた。

アリスの様子を見にいくため、訓練場に行くと、先日以上にエリスと互角に剣を交わす姿があった。


「どうなってんの?」

この前見た時よりも、特段にアリスの技術が向上している。

たった数時間でここまで変わるものなのか?それとも、ただの天才か?

いつから、こんなことになっているのか近くにいた騎士に聞いてみた。


「アリスはいつからこんな風に?」


「最初からだよ」


「最初から・・・・・・」

やはり天才なのだろうか。


「僕らも最初は、昨日みたいに追いつかなくなると思ってたんだけどね。だんだん団長が追いつかなくなる時が時々あるんだ」


「そうですか」

勇者からなのか、アリスの生まれ持った才能なのか、どちらにしろ末恐ろしい。


しかし、経験の差だろう。まだまだエリスには勝てないみたいだ。

アリスは剣を弾かれ、首にエリスが剣を添え、模擬戦は終わった。


「おつかれ、アリス」


「あっ、アル君!」

こちらに気づいたようで満面の笑みを浮かべて振り向いた。


「すごかったね」


「う〜ん、でもまだまだ勝てないよ」


「当たり前だ。まだ10年ぐらいしか生きてないやつに負けてたまるか」


それを聞いたアリスは悔しそうに

「次は勝つもんっ」

可愛さだけは勝っているぞ、アリス。


「陛下たちとのご予定は終わったか?」

エリスが聞いてきた。


「うん。魔道具を作る約束をして終わったよ」


「魔道具?あ〜、お前のユニークスキルか」


「はい。身を守るためのものが欲しいそうで」


「身を守るか。他にどんなのが作れる?」


「そうですね・・・・・・」


一通り今まで作ってきたものを伝えると

「その自動経験値取得の魔道具とやらをこの国の兵に持たせることはできるか?」


「ええ、出来ますけど」


「最近何かと物騒でな、強化を早急にしておきたいんだ」


なるほど、スキルは自分で磨けばいいし、それで超越者や勇者の出番が減れば不労を目指す俺にとって利点しかない。


「いいですよ。なら早速騎士を集めてください」



◆◆


騎士が一通り集まり何をするのかざわついていた。

中には団長による拷問が始まるのかと震えるものもいたが安心して欲しい。

俺はそんなサディスト精神は持ってない。


「では、皆さん各自、近くにいる人の肩に手をおいてください。誰一人漏れることなく」


戸惑いながらもさすがは騎士団、統制がしっかりとれておりすぐに完了した。

端っこに居る人に触り

「では、全員魔力を私の方に向けて流してください」


魔力が流れてくるのを感じ、これまで設置してきたポータルに接続する。


「ありがとうございます。これで終わりです」


「本当にこれでいいのか?」

エリスが聞いてきた。


「はい。あとは自動的にレベルは上がりますので。技術は各自に任せますが」

上がるのはレベルだけで、技術はどうしようもない。


説明をしていると騎士たちからざわめきが起こった。


「お、おい。レベルが上がってるぞ!」

「ほんとだ!なんもしてないのに!」


そうだ、それが不労の力だ。素晴らしいだろう。


「本当に何もせず上がるとは・・・・・」

流石のエリスも驚いているみたいだ。

不労の尊さを改めて実感した。


「では、今日はこの辺で失礼しますね」

2日の連続で王城に来ていては働いているのと変わらない。

合格発表までは好きなことをしたい。


「アリス、今日は帰るか」


「うん。そうだね」


エリスに断り、二人は宿へと向かった。


◆◆


宿へ戻り、エリスに借りた木刀で居合の練習をしていた。

スキル頼みの戦いしかしてこなかったため、アリス同様技術はまだまだなのだ。


「ふっ」

スパッ!

目の前に置いたわらが斜めに切断される。


しかし、何かが足りない気がする。

これでは普通すぎる。極めたものには敵わない。


「ダメだダメだ。全然なってない」

突然男の声が聞こえた。


(・・・・!?全く気配が・・・・)


「何が足りないんですか?」

この人、強い。今まで見てきた誰よりも・・・・・

世界眼で視てみるか・・・・・!?


「あ〜だめだ」


首筋に剣が添えられていた。

エミリアに怒られた時以来の冷や汗が止まらない。


「目に頼るな。相手の情報を見るとそれに頼ってしまう。その目では本当の強さまでは測れんぞ」


「本当の強さ・・・・・」


「俺が教えてやる」

そういうと、彼は居合の構えを取り、戦闘態勢をとった。




気がつくと、地面に倒れ込んでいた。


「はぁはぁはぁ・・・・・・」

なんだこれは、全く近づけなかった。


転移をしても居合の構えを取られた瞬間には、元の場所に吹き飛ばされ、時空掌握も外されてしまう。


「何を、どうしたらそこまで・・・・・」


「システムから逸脱しろ」


「システム・・・・?」

そういえば、原初はシステムから外れたものだって言ってたような。


「原初はシステムから外れてる。が、スキルやユニークスキルはどこまで行ってもシステムの範囲内だ」


「じゃあどうすれば・・・・」


「スキルを使うな。戦闘では使わずに戦え」


「そうすればそこまでいけますか?」


「ああ。だが、そう簡単なことではないぞ」


「わかってます。でも必ず」

そこまで行ってみせる。今度こそ一撃入れるっ


「・・・・・ではな」


「あのっ、あなたは・・・・」


「視てみろ」


そう言われ世界眼で視た。

「ははっ、なんだよこれ・・・・」

こんなの勝てるわけが・・・・・・



『名前』 ビシス

『種族』 神人 『性別』 男 『年齢』ー

『能力』ー


『原初』

天上天下唯我独尊



『天上天下唯我独尊』 世界に存在する生命体全ての上位個体になる。敵がいなくなる。


こんなの勝てる訳がない・・・・・。

レベルもスキルも加護すらもシステムの範囲内だと思われるものは何一つない。

能力ですら計り知れない。


一体、どれだけすればそこまで・・・・・

ここに辿り着きたい。


アルベルトに不労以外に初めてできたもう一つの目的が生まれた瞬間だった。



◆◆


「どうだった?あの子は」

どこからか現れた女はビシスに問うた。


「まだまだだな。入り口にすら立ってない」

だが・・・・・


「必ずここまでくるさ。なんせ・・・・・」


あいつらの息子だ。



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