第2話 遺物と黒龍

アルベルトたちが王都を後にした日、アルカはいつものように学校に行った。




「え、アルベルト君たち学校辞めたんですか!?」


「そうらしいな。もともと学校には、基本的な知識を得るために入ったらしいからな」


「なんでそんなに詳しいんですか、マイナ様」


アルカは演習以来、マイナの専属としてエルギス家に仕えている。


あの日、演習場にも天使が攻めてきて、その時にマイナを救ったのがアルカなのだ。


真実は、アルベルトがあげた魔道具なのだが、それでも助けたのには変わりなかった。




「あの祭りの後、おじいさまがアルベルトに会ったそうでな、世界を旅するそうだ」


「そうなんですね」


アルカは少し寂しそうにしていた。


「・・・・・なんかいきなりですね」


「そうか。アルカはあの二人と仲が良かったのか」


「ええ、学園に来て初めてできた友人ですので」


またいつか会えるだろうと、マイナの後に続いた。




◆◆




「あなた。良かったんですか?」


王妃ハンナは娘のアイナが旅立つことを許可した夫に聞いた。


「いいさ。娘が初めてお願い事をしてきたんだ」


悪魔に取り憑かれてから、アイナは両親にさえお願い事をしなかった。




「それに・・・・・」


「それに?」


「アルベルト君についていくんだ。きっとこれが運命だったんだよ」


シュトベルトとしてのね。


「そうね。あの手紙が読めたものね、彼」


「ああ、やっと彼らが待っていた存在が現れた。王家として一人の親として彼を、娘を信じるさ」


アレクは、すでに日が沈み、夜の帳が下りた空を見ながら言った。




◆◆





王都を出て初めての夜を迎えたアルベルトたちは、早速アイナの作る食事を今か今かと待っていた。


今まで、森で食べるものといえば、魔物の肉を焼いたもの、干し肉などと言った味気のないものだけ。


しかし、今目の前で肉だけでなくいろんな種類の食材が香辛料を使って炒められている。


ごくっ。誰かの喉がなる音がした。




そしてついに・・・・・・・


「これは・・・・・やばい」


「・・・・・・・・・・じゅるり」


「ああ、流石にやばい」


目の前に最強にうまそうな料理が並んでいた。




「どうぞ、召し上がれ」


「「「いただきます!!!」」」


アイナは静かに食べ始めたが、他の三人はかぶりついた。


「「「・・・・・・・うまい」」」


なんだこれ!?


うますぎる!!全身に染み渡る美味しさ、食事の暖かさ、作った人の人柄が乗り移った味、これが食べられるだけで毎日を乗り越えていけると確信する。


前世で食べたかった・・・・・。


アルベルトの目には、涙が流れていた。




「え、なんで泣いてるの?」


「・・・・・うますぎるんだよ」


人間は、感情が一定値を超えると様々な現象が起きる。


今回は、美味しさに対する感動が許容度を超え、涙として表に出た。


「そ、そう」


それは良かった。アイナは、微笑んだ。




アリスとセナはそんなやりとりを見ることはなく、ただひたすらに食べ続けていた。




◆◆




〜ある暗殺者〜




俺は、ブライトリヒ家に雇われていた暗殺者の一人だ。


先日の動乱の日、雇い主とその家族は、国を裏切り死罪となった。


最後の依頼として、隠し財産を前払いでもらい、ある旅人の暗殺を命じられた。




その日、ブライトリヒ家に雇われていた50を超える暗殺者全員に分け前を与え、全員で依頼を遂行することにした。


なぜならその対象が、あの八柱を単独で倒したとされる少年だったからだ。


だが、あくまでも少年だ。森に入り、夜になると眠るだろう。旅の同行者も一人エルフがいるが他は同年代の少女。


楽に終わる依頼だと思っていた。




「見つけたぞ」


「ああ、確認した」


対象は、飯を食べていた。美味そうだな・・・・・。


はっ!いかん。あんなもので乱されては!




しばらくすると対象の四人は眠りにつき、隙ができていた。


「いくぞ」


「「「了解」」」


待機していた、50人以上の暗殺者がありとあらゆる手段を用いて仕掛けた。


対象は誰も起きない。


獲った!




キィィィィィン


ならないはずの音が響いた。


近づいた暗殺者の刃は、空中で止まっており、それ以上進めないでいた。


なんだ、これは!?


まるで空間が・・・・・!




次の瞬間、感じたことのないとてつもなく早い魔力弾が体を襲った。


「・・・・・カヒュッ」


声にならない声をあげ、俺は意識を失った。


最後に見たのは、気持ちよさそうに寝る対象の四人だった。






◆◆




〜翌朝〜




目が覚めたアルベルトは空間断絶の範囲外で絶命している暗殺者たちを見て首を傾げた。


「何してんの?」


軽く50人は居るなこれ。


しかも全員が息をしていなかった。


ええ、どうしよう。とりあえず燃やすか?




この世界に来て人を殺す可能性があるとは覚悟していたが、いきなり50人以上とは・・・・・


でも人殺しに1人も50人も変わらないよな。人殺しは人殺しだ。


アルベルトは覚悟を決め、全てを燃やした。




「はぁ、最悪な朝だ。全く・・・・・」




その後3人が目を覚まし、アイナが最高の朝食を作ってくれたことで嫌なことは全て忘れた。




朝食を食べた後、4人はセナの案内の元、森の中を進んでいた。




「なぁ、本当にこんなところにあるのか?」


「エルフの気配は全く感じないよね」


アリスも代わり映えのない景色に不思議に思ったようだ。


「大丈夫だ。エルフの森は、混沌の時代よりもはるか昔から同じ場所に存在し、その場所は我ら同胞しかわからないようになっている」


「つまり、偶然だとしても見つかんないってこと?」


アイナが確認する。


「そうだな。少し前に超越者がその眼で探しに行ったらしいが、全く見つけられなかったらしい」


それはすごいな。超越者の眼ということは世界眼でも無理なのか。


「へぇ、すごいね」


アリスも素直に感心していた。




そんな話をしていた時、突如として身体中の細胞が何かに反応した。


慌てて、4人の周りの空間を切り裂き、その黒・い・炎・から守った。




「なんだ!?」


「これは・・・・」


アリスも感じたようだ。


セナとアイナも何かを感じているようでガタガタ震えていた。


先程の黒い炎であたりは更地になっており、見通しが良くなった。




「誰だ、お前・・・・」


土煙の中にいる存在に尋ねた。


「さすがだな。やはり、確かめに来て良かった」


確かめ?いったい何を・・・・


アルベルトとアリスはそれぞれ武器を手に取り戦闘態勢に入った。


その存在は土煙を払いその姿を見せた。


「こ、黒龍?」


セナが後ろでつぶやいた。


黒龍?炎竜とは違うのか?


「お前があの火遊び小僧を下したやつじゃな?」


炎竜を火遊び小僧と呼ぶその龍は、とてもじゃないが勝てそうな相手ではなかった。




あ〜、これはまずい。今までで一番、やばい。




「そうだけど、だからなんだ?」


「ん?なんじゃお主、あの祠に入らなかったのか?」


何を言ってるんだ?


「祠?」


「お主の目には見えたはずじゃぞ?」


壁にしか見えないようになっているところじゃと説明された。


「壁にしか・・・・?」


もしかして、あれか?


「あの遺跡みたいなやつか?」


「そうじゃ。あそこには、あやつの遺物が眠っておるんじゃが、まだ持っていないようじゃの」


「遺物?」


全く話についていけない。




「あ、あの、遺物とは、もしかしてマルス様のものですか?」


アイナが声を震わせながら聞いた。


「ん、シュトベルトの者か?」


シュトベルトを知ってんのか。


「は、はい。アイナと言います」


「そうか。先程の問いの答えは、その通りじゃ」


アイナはそれを聞き、まさかあなたは・・・・・、と言っていた。




「その遺物がなんなんだ?」


遺物とか言われてもその言葉の意味しかわからなかったので黒龍に聞いた。


「あれは、あやつが使っていたものだ。そして、後継者に受け継がれるべきものだ。だから、あの小僧どもに守らせているのだが・・・・」


「その、小僧って、もしかして」


「そうだな、人間は、炎竜とか水竜とか呼んでるな」


つまりあのレベルの竜がまだいっぱいいるのか。




「そろそろいいかの。今日は、お前を試しに来たのじゃ。ついでにそこの勇者も見てやろう」


「試す?」


「そうじゃ。妾と戦え」


あ〜、逃げたくなってきた。


「もし妾を満足させることができたら褒美として遺物のこと教えてやろう」


それは気になるが満足させるなんて、できるのか?


「アリスいけるか?」


「・・・・・わかんない」


「なんじゃ、逃げるのか?」


あ〜、そんなこと聞かれて逃げられないよな。




「な訳ないだろ。やってやるよ」


「そうだね」


すると黒龍の周りに黒いオーラがまとわりつき、収まったときには一人の幼女がいた。




あ〜、さっきまでは可能性があったけど、力が凝縮されたあの姿になられたら・・・・・


「なぁ、アリス。これ無理じゃね?」


「・・・・・・・・・」


とりあえずセナとアイナに安全なとこまで下がってもらい呼吸を整えた。




「ふふ、いくぞ?小童ども」


黒龍こと幼女がかき消えた。






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