第13話ㅤ初めての、戦い!

 負けていられない。


 俺は滑り込むと同時に、指を女に向けた。


「《ダークラディウム》」


 ビュビュビュビュン。


 という音と共に、数本の紫の光線を放たれる。

ㅤしかし女は火のシールドを展開して、容易く防がれてしまった。


ㅤ俺はさらに魔術を唱える。


「《ブルーホライズン》!」


 腕を横に切って圧力がかかった水の線を放った。

 サード・マギアの魔術だ。


ㅤこの階位の魔術であれば、シールドで防ぐことは難しいはずだ。


ㅤと思ったが、女も詠唱をして腕を縦を切った。


「《レッドホライズン》」


ㅤ魔術は互いに打ち消し合い、爆風が発生する。

ㅤ図書室の本は美しく空中に舞い始めた。


(やばい、こいつ……強い!?)


ㅤ流石ミアの配下なだけある。


ㅤなんて思っていると、女は槍を出しながら上から飛び降り俺の目の前に着地した。


「お、うぉ……おおおい!ㅤ人間嫌いなのは分かるけど、俺はお前の敵じゃねぇ!!」

「あっそ、でもアタシはアンタの敵よ」

ㅤひぃぃぃぃ!?


ㅤその槍をブンブン振り回し始めた。

ㅤ俺はその槍を避けたり、シールドでガードしたりする。

ㅤしかし俺のシールドは何度も攻撃をくらっている間に割られてしまう。


ㅤ女はその時を待っていたと言わんばかりに攻撃スピードをあげ、俺を串刺しにしようとしてくる。


「あ、あぶねぇぇ!」


ㅤそっちがその気なら……


「《ミュラ・アクア》」


ㅤ水玉は女の方向へ勢いよく飛び、服がビチョビチョになる。


「ふん、こんな《ウォーターボール》と変わらない魔術は、このアタシには効かないわ」


ㅤ堂々と高らかに。胸に片手を当て、そう宣言する。


「これでおしまいよ、《サス・ファイア》」


 そう唱えた瞬間だった。

 女の手の平の赤く美しい火は、自分自身を包み込んだ。


 女は涙目になりながら俺に助けを求める。


「え、あ、熱い! 熱いよ……助けて!!」


 まぁ少しは痛い目を見た方がいいだろう。


 危ないところだった。

 相手はすぐ粋がっちゃう、か弱く可愛い女の子だったから、あまり魔術に魔力を籠めないでやっていたが……。

 あのまま手加減してたら俺、殺されてたね。うん。


 俺は彼女のステータスを覗く。


――――――――――――――


 【イレーシア】


 種族:ユート族(魔族)


 レベル :42

 HP   :397/441

 攻撃  :85

 魔力  :108


 魔術:サード・マギア(火属性)


 状態異常:火傷


――――――――――――――


 ほほう、やはりそうか。

 こいつは火属性の魔術しか使用できない。


 水属性の詠唱を聞いてもチンプンカンプンなのだ。

 故に《ミュラ・アクア》という、火属性を引き付け吸収する水属性の魔術を使われても、《ウォーターボール》と変わらないと思ってしまう。


 やはり知識って大事なんだなと感じた。

 ちなみにこのイレーシアという美少女……いや周りと比べると美女か。

 俺よりレベルが高い。


「助けてください……」


 涙目で上目遣いをしてくる彼女が可哀そうになってしまった。

 え、殺されそうになったんだからこれぐらい当然だって?

 うるさいうるさいうるさい!! こんな顔で助けを求められたら助けたくなっちゃうでしょうが!?


 急いで水を彼女の頭からぶっかけた。


「つ、冷たい!」

「すまん、ちょっと我慢してくれよ」


ㅤ俺は風属性と火属性を融合して、暖かい風を出してやろうとする。


ㅤだが彼女は嫌な顔をしていた。


「自分で乾かすからいい、アタシに近づかないで」

「あ、はいすいません」

「……本当に全属性使えるのね」


ㅤボソッと言ったその言葉には、怒りではなく嫉妬のようなものを感じた。


ㅤその瞬間、グィィという扉の音が鳴り響いた。

 誰かが図書館に入ってきたようだ。


「何事なの」


 冷静で細く可愛らしい声。

 部屋の中に入って来たのは、猫耳の美少女。

 シノンだった。


 イレーシアという名前の女と顔を見合わる。

 そして同時に徐々に図書室全体を見まわしていく。

 本は散らばり、本棚は燃え、図書室の仕掛けは停止していた。


(まずい……これはまずいことになったぞ)


 魔王城にある本は、無論全て貴重な本だ。

 いつもシノンは優しいけど、今回ばかりは流石に怒られる……。

 もしかしたら魔王城を追い出されるかもしれない。


 イレーシアと俺の顔は青ざめていた。


「何があったのか一から説明して」


 こちら近づき目を細ませた。


 イレーシアは俺を指してくる。


「コイツが最初にアタシに喧嘩売って来たんです!!」

「は?」


 おい、ちょっと待てよ……。


 だが確かに、今のイレーシアはびしょ濡れだ。

 俺を悪役に仕立てやすいだろう。


「イレーシア、嘘は良くないよ」


 え……。


 シノンは俺が言い返す前に嘘を嘘だと見抜いた。


「メイド長はアタシのことを信じてくれないのですか?!」

「はい」


 質問と答えの間が一切無かった


「性格はどちらも把握しているし、イレーシアが人間嫌いなのもアディスを半年前から嫌いなのも知っているから」


 え、半年前?!

 この魔王城に来たときからこの子に嫌われていたってこと??


「貴方がアディスのことが嫌いなのは半年前から知ってる。だけど手を出さないで」

「何故ですか! 異物が魔王城に侵入しているのであれば排除すべきです」


 異物って……。


 シノンはイレーシアに近づきギロリとした目で見た。


「ミア様のお気に入りなのは知っているでしょう? それにかすり傷でも付けたら僕が許さないから」

「ひっ! は、はい!!」


 するとメイドが数十人図書室に入ってきて、掃除をし始めた。


「君も、挑発に乗らないの」

「はい、すんませんした」


 そう答えると、シノンは笑みを零して俺の頭をポンポンして扉に向かって歩き出す。

 その様子を見ていたイレーシアは顔を赤く染め睨みつけてくる。


 俺はシノンと仲いいよアピールできるからいいのだが……。

 対応の仕方の差が酷すぎて少し可哀そうだった。


「あ……」


 シノンは扉の前で急に止まった。


「イレーシアは自分から喧嘩を始めて負けたんだよね? それでここまでの問題を起こした。だから学校の先生にS組から落として貰っとくね」

「ん、学校?」


 ここに来て学校なんて単語を聞くとは思わなかった。


「え、え?! それだけは、それだけはやめてください!!」


 シノンは一生懸命土下座するイレーシアを無視して、図書室から出て行ってしまった。


 そのS組から落とされるのはなんかまずいことなのだろうか?

 あとでシノンに聞いてみよう。なんていうか……ドンマイ。


「べー!」


 イレーシアは可愛らしく俺に下を出して、部屋から出て行ってしまった。

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