第12話 人間嫌いな、魔族!

 【ミア視点】


「ぴ、ピティ。何を言っているんですか?!」


 ピティはニヤニヤしながら肘を机につきました。


「アディス様のことを相談しに来たんですよね?」

「な、なんでそれを……」

「顔に出ていてバレバレでしたよ!」


 ミアが……アディス様のことが好き?


「ミアは、アディス様のことが好きなのでしょうか?」

「わからないのですか?」

「人に恋したことがないのでよくわからないのです」


 顔を下に落としました。

 そんなことすらわからなかった自分自身が、情けなかったのです。


「そんな顔をすることはありませんよ~。ほら、ピティに話してみてください」


 しばらく黙り込みました。

 ピティはミアが話始めるまで、何も言わず待っていてくれて嬉しかったです。

 心の準備が出来て、ミアはやがて話始めました。


「実はミア。アディス様を触れられると、熱くなって切なくなって……どうしようもない気持ちになるのです……」

「ほうほうなるほど」

「それで一番おかしいのは、アディス様に触れられたいんですけど、触れられたくないんです」

「……」

「それで最近は辛くなって、なんというか、疲れちゃって……」

「――ミア様、お可愛いですね」

「ひゃ?」


(か、可愛い? ミアが? どこが?!)


「ミア様はアディス様のことが大好きなのですね」


 それを聞いて、ミアは恥ずかしくなりました。



「そっか」


(ミア……アディス様のことが、好きなんだ)


 胸に手を置くと、心臓の鼓動がいつもより早くなっていました。




 【アディス視点】


 俺は新しい本を探しに、図書室に向った。

 標準属性の魔術教本は一通り読んだから、これなんかどうだろうか。


 偏差属性の魔術教本。


 俺は本を開く。


「おお!!」


 これは興味深いな。


 偏差属性の代表は《氷、雷、岩、草》などがあるようだ。

 標準属性を工夫することによって、氷などの魔術も使用可能だが。

 偏差属性を扱える人は、そのものの詠唱と能力を手に入れられるらしい。


 もっとも、扱える人に限定されているらしいが。

 恐らく俺は扱うことが出来るだろう。


 そう思った瞬間だった。

 バァァン。という音と共に、魔術教本が燃え尽きてしまった。


「え? ま、魔術教本がぁ……」


 これをやったのはもちろん俺ではない。

 どこからか、視線を感じる。おそらくそいつが犯人だろう。

 俺は身を構えて周りを見渡す。


 すると上の階からゴミを見るような目で俺を見てくる女がいた。


「あいつか……なんのつもりだ?」

「なにアタシに向かってなめた口聞いてんの?」


(は? 急に本燃やしてその発言をするお前の方が上から目線だろ)


 その女は、髪、目、ともに赤色。

 鋭く、殺気に満ち溢れているその目は誰もが恐怖するであろう。

 耳には赤く美しい宝石のピアスをつけており、服は何故かオシャレな制服だ。

 メイドではないのだろう。

 背は……ミアとシノンに比べたら高い。まあ、おれに比べれば小さいがな。

 堂々としているがヤンチャそうな雰囲気が出ていて、見た目もオーラも俺が思う業火という言葉が似合っていると感じた。


(と、とりあえず、ここは冷静に……)


 あいつは怒らせてはいけないと俺の勘が言っている。


「すまんな。なめた口を聞いたつもりは無かったのだが」

「人間のアンタがアタシに話かけること自体が罪なのよ」


 えぇ、理不尽過ぎだろ。

 もしやコイツ人間嫌い??


 この魔王国に来てから、初めて人間嫌いの人を見た気がする。


「人間の癖してミアリハーツ様に慣れ慣れしくして……」

「えっとぉ。ミアも人間だぞ?」


 人間嫌いなら、何故人間のミアの配下になったのだろう。

 もっと、ザ・魔王って感じの魔王についていけばいいのに。


 右斜め下から視線を赤髪女の方向に直すと、まるで好きな人を取られたときの男の表情をしていた。


(こっわ……)


 とにかく怒りが伝わってくる。

 まあ、何に怒っているかはさっぱりなのだが。


(もしかして俺が指摘したから火が付いたのか?)


 火属性だけに。なんちて。


 赤髪女は拳を握りしめた。


「ミアリハーツ様の名前を気軽に呼ぶないで! 《ヴァリエス》」


 女が何もない空間から枝を手に取った瞬間、詠唱をしやがった。

 杖の中には大きな赤い石がはめられている。


 杖を三回振り、真赤に燃える火を放ってきた。


(や、やべぇ!)


 逃げようとして転びながらも階段を駆け降りる。

 本棚に当たったその火が爆発をするのを、背後から感じた。


 魔力込めすぎだろ、殺す気か?!



「「キャー!!」」

「「なんだ?!」」


 図書室に来ていたメイドや魔族達は、その大きな爆発をした方向を確認する。

 逃げ出す人もいれば、中には傍観する人もいた。


 女は更に炎属性の魔術を放ってくる。


 凄まじい威力だなこりゃ。

 おいお前ら! み、見ていないで止めろよ?!


 俺はそう心で図書室の魔族に訴えるが、みんな面白そうな表情をしていた。

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