第11話 魔王様は、恋をした!


ㅤ真っ暗で寂しい。

ㅤ何も無い空間が広がっていた。


「こ、ここはどこだ?」


ㅤ俺の頭は真っ白になる。


ㅤキョドっていると、向こうの方が光に照らされた。

ㅤ俺は光に向かって歩き出す。


「ここは――」


ㅤ気づけばよく知っている部屋にいた。

ㅤ俺の実家だ。

ㅤ部屋は、うっすらぼやけている。


「懐かしいな」


ㅤよく周りを見てみると、所々にうっすらと何かが浮かんでいる。

ㅤ俺が記憶が、そこには映し出されていた。


ㅤ怖いな、不気味だな。


ㅤそう思った瞬間、突然窓の外が暗くなった。


「なんだ?」


ㅤ扉がガチャりと開き、外から誰かが帰ってきた。


ㅤ黒髪、黒い瞳のヤンチャそうな少年と。

ㅤ白髪、青い瞳の弱々しそうで、フードを被った美少年だ。

ㅤ二人とも、七歳ぐらいだろう。


「よっしゃシロ。明日は虫を捕まえるぞ!」

「え、虫?」


ㅤどうやら俺のことは見えていないらしい。


ㅤフードを被った男の子は、縮こまる。


「なんだよ、虫取りたくないのか?」

「僕、虫苦手……」


ㅤ俺はこのやり取りを、どこがで見たことがある。

ㅤいや、見たのではない。したのだ――


ㅤ黒髪の子は俺で、白髪の子は俺の親友。


「大丈夫だ、俺が着いているから」

「……うん!」


ㅤ過去の俺がそういうと、シロは笑顔で頷いた。


ㅤこれは、俺の記憶か?

ㅤ今俺は、自身の記憶を第三者の目線で見ているってわけか。

ㅤもしくは過去に遡ったか……いや、そんなはずはない。


「アディス、そろそろ寝よう?」

「おう、明日に備えていっぱい寝るぞ!」


ㅤしばらく経つと、二人は抱きつき会いながらスヤスヤと眠り始めた。



ㅤこの姿を見ていると、自然と俺の脳裏にあの記憶が蘇る。


ㅤ赤い炎の前で悲しそうに笑いながら、俺に言葉をかけて、どこかへ行ってしまうシロの姿。



ㅤもう、こんな記憶、見たくない。


「やめろ、やめてくれ!」


ㅤ俺がそう叫ぶと、気づけばベッドの上にいた。


「あ、アディス様……」


ㅤミアが心配そうに俺を覗き込んでいる。

ㅤどうやら、先程のは夢だったみたいだ。


「み、ミア――」


ㅤあれ。


ㅤ俺の目から涙が流れ始めた。


「あ!」


ㅤミアがそう声をあげ、ドタバタどこかへ行くと、ティッシュ持って帰ってきた。


ㅤ俺の涙を拭こうとしてくれる。


「いいよ、自分で拭く」

「ミアが拭きます」


ㅤミアは微笑を浮かべた。


「怖い夢を見たんですね、でももう大丈夫ですよ。ミアがいます」


ㅤ頼もしかった。そして嬉しかった。


ㅤでも怖かったんだ。

ㅤ――今度はミアが俺の前から消えてしまうのではないかと感じて。



【ミア視点】


ㅤアディス様が苦しそうの寝ているところを見て、ミアはとても心配でした。

 きっと、辛い夢を見ていたのでしょう。

 だから、傍にいてあげなくちゃと思いました。


 アディス様がミアの魔王城に来てから半年。


ㅤ最近、ミアはおかしいです。

 アディス様に触れると、触れられると、胸が熱くなって切なくなるのです。

 もうどうしようもなく心のどこ埋めたい。そう思うような。


 今はもう顔を合わせるだけでも精一杯です。


(やっぱミアおかしくなっちゃったのかな?)


ㅤそう思いアディス様をよしよしした後、ピティに相談しに行きました。


「ミアリハーツ様。おはようございます」


 ピティが元気よく挨拶をしてくれる。


「ピティ。おはようございますです」

「相談、ですか?」


 ピティは微笑みながらミアの近くに近づいてきました。


 いつもピティには様々な相談を乗ってもらっています。

 なので、今回もピティにお願いしようとしたのです。


「そうです!」

「いいですよー。座って話しましょう」

「ありがとうございます」


 ミアがそう言うと、どこからか黄色の光が現れ、椅子と机を形作っていきます。

 光の椅子が完成すると、ピティは指をパチンと鳴らす。

 するとパァーン。という優しい音と共に、その光は白くて美しい椅子と机に変化しました。


「そのスキル、結構使いどころありますね」

「そうでしょ!」


(ピティの笑顔。可愛らしい……)


 リラックスが出来るように、ミアもこの部屋をアディス様といつも遊びをしている草原にテレポートさせ。

 椅子に座り、ピティは紅茶を飲みながら話始めました。


 ちなみにミアは美味しいリンゴジュースです!


「それで、相談というのは?」

「え、えっと……ですね」


(あれ、なんでだろう――)



 アディス様のお話をしようと思ったらミアは急に恥ずかしくなって、口が開かなくなりました。

 しばらくお口を閉じて、ちらちらピティを見ていると、ピティから話てくれました。


「この場所で、いつもはアディス様と修行をなされているんですよね?」

「は、はいそうです」

「アディス様、強くなってきましたか?」

「はい! 最近水属性の魔術はフィフス・マギアまで使えるようになったんですよ」

「え、まじで……?」

「まじでなのです」


 ピティは驚きすぎて、敬語が外れました。


「成長スピード早すぎません?!」

「ふふ、異常……ですよね」


 アディス様本人には言っていないですが、通常の人間が半年でここまで早くコツを掴むというのは、あり得ないことなのです。

 通常の人間がフィフス・マギアを獲得するのは、60年近くかかると言われています。

 この結果は、紛れもないアディス自身の努力の結果だと思います。

 しかし、それだけではないのも事実。

 もしかしたら、アディス様は何か特殊なスキルでも持っているかもしれません。


 後で聞いてみることにしましょう。

 もし知らなかったら、一度街にスキルの鑑定をお願いしに行った方がアディス様のためにもよさそうですね。


「それでミアリハーツ様、アディス様のどこが好きなんですか?」

「ふぇっ!?」

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