第10話ㅤ魔王と、メイド!


ㅤ修行という名の遊びをして、魔王城に帰宅していた。

ㅤ沈んでゆく夕日が綺麗だ。


ㅤ魔王国の魔族が俺達に手を振ってくる。


「今日も楽しかったなー」

「そう言って貰えてミアは嬉しいです」


ㅤお互い視線を合わせて笑った。


ㅤ前を見ると、門の前でシノンが立っていた。

ㅤシノンはスカートの左右を持ち上げ美しくお辞儀をする。


「お帰りなさいませ、ミア様、アディス様」


ㅤコイツが礼儀正しいところは初めて見た。

ㅤ初対面からタメ口で話されたからな。

ㅤあ、俺が人に言えることじゃないか。


ㅤなんて思っていると、ミアがシノンに抱きついた。


「ただいまですシノノン!」

「み、ミア様。苦しいですよ」

「1日ぶり、寂しかったですか?」

「僕は別に寂しくない」


ㅤえ、なに。シノノンって。


ㅤシノンがミアのことをミアリハーツと呼ばないから、仲良いのかな?ㅤとは思ってたけど。

ㅤまさかここまでとは。


「お二人とも初対面ですよね!」


ㅤミアは俺とシノンを交互に見る。


「いえ、お話はしています」

「そうなのですか?ㅤアディス様」

「あ……ああ」


ㅤ頼むから俺がお前のパンツを盗もうとしたことは言わないでくれよ。

ㅤしっかり反省してるから!


「うわぁシノノンいい匂いー」

「そ、そろそろ離れてください」

「いやでーす!」


ㅤさらにギュッと抱きつく。


ㅤ微笑ましい。

ㅤ疲れが一瞬で癒された気がするぞい。


「今日はアディス様とシノノンの三人でご飯食べたいです」

「僕には、まだ仕事が――」

「お、それいいな」

「えっ」


ㅤたまには他の人と一緒に食べるのもいいと思い、そう発言した。

ㅤシノンはか細く可愛らしい声を発する。


「ほら、アディス様もそうおっしゃてくれていますよ」

「はぁ。わかりましたよ」


ㅤシノンのため息は、少し震えていた。




ㅤ俺達は、ご飯を食べる前にお風呂に入ることにした。


「はぁ。最高ぅ!」


ㅤ思わず声をあげてしまう気持ちよさ。

ㅤやっぱ遊びの後はこれだな。


「ここに来て、もう半年を越したのかぁ」


ㅤ俺にとって、この半年はとても大切なものになったな。


ㅤミア、ありがとな。

ㅤ俺を拾ってくれて。


「アディス様」

「うわあぁぁぁぁ!」


ㅤ俺の耳元で誰かが囁く。

ㅤそう、ミアだ。

ㅤ噂をすればってやつだ。

ㅤいや……人と話しているわけじゃないから噂とは言わないか。

ㅤどっちだろう、わからん。


「あ、振り返らないでくださいね。ミアも裸ですから!」

「いや何でお前男湯に入って来てるんだよ?!」

「なんでだと……思いますか?」


ㅤ小悪魔のような可愛らしい声でそう言いながら、俺の肩を触ってくる。



ㅤちょっと待てよ?

ㅤまさかミア……俺を誘惑したいのでは?!


ㅤいやそうに違いない。

ㅤ男湯にわざわざ入ってまですることなんて他にあるだろうか?

ㅤそれにこの小悪魔なような声……。

ㅤそして手馴れていないけど優しいボディータッチ。


「ア、ディ、ス、さ、ま?」

ㅤ俺はMじゃないのだが?!


ㅤま、まぁいい。

ㅤ可愛い魔王に誘惑されるっていうのも、たまにはそういうのも悪くはない。


ㅤ心の準備は整った。


「さぁ、ミア。思う存分俺を誘惑しやがれ!」


ㅤするとミアはクスクスと笑う。


「引っかかりましたね〜?」

「へ?」


ㅤそう言いながらミアは俺の頭をクルっと手で回した。


ㅤそこには裸のミア……ではなく、可愛らしいパジャマを着たミアがいた。

ㅤもちろん、彼女は裸足だ。


「ミアから誘惑なんてするはずないじゃないですか!」


ㅤミアはしゃがんで片手を頬っぺたに当てながら俺を、じーっと見てくる。


ㅤ俺は考えすぎてしまった自分自身が恥ずかしくなった。


「はぁ」

「え、あ……アディス様。そんな顔しないでくださいよ」


ㅤミアは俺の頭にぽんぽんと手を乗せてきた。

ㅤ声に、申し訳ないという感情が入り交じっていることが分かる。


「早く出ていってくれ、今ゆっくり入っているんだ」

「だってアディス様、もう40分以上お風呂に入っているんですもん。ミアは心配になって来たんですよ」


ㅤ嘘、俺そんなに風呂に浸かっていたのか?

ㅤ今入ったばっかりな気がしていたんだが。


「すまん、今あがる」

「わかりました、後でミアの部屋に来てくださいね!」


ㅤそう言ってミアは風呂場から出ていった。

ㅤ俺は再度ため息を着くのであった。




ㅤお風呂から出て、言われた通りミアも部屋にやってきた。


「おまたせ」

「アディス様ぁ!」


ㅤミアが俺の方向に走ってきて、手を繋いできた。

ㅤふわりとシャンプーのいい香りがする。


ㅤずっと嗅いでいたい。ぐへへ。


「遅いよ」


ㅤ椅子に座ったシノンがそう言った。

ㅤちなみにパジャマ姿である。


「おっと、可愛いじゃないか、シノン」

「……ありがとう」


ㅤダイニングルームではない場所でディナーをするのは半年ぶりだ。


ㅤやっぱ狭い部屋は安心する。


ㅤ既に、机の上には美味しそうなご飯がずらーと並んでいた。


「この料理、シノノンが作ってくれたんですよ」

「え、シノンって料理できるんだな?!」

「料理ぐらいできるよ」


ㅤ俺が席につこうとすると、ミアが椅子を引いてくれた。


「ありがとな」

「はい!」


ㅤまったく。優しい魔王様だな。

ㅤ嫁に欲しい。


ㅤ俺たちはご飯を食べ、雑談を始めた。


「それで、お二人はどういう関係で?」

「ミアとシノノンがですか?」

「ああ、そうだ」


ㅤミアとシノンの距離が、他の配下よりも近い気がする。


ㅤというのも、ミアが俺以外の人と仲良く話しているところを見たことないのだ。

ㅤもっとも、俺が見ていなかっただけかもしれないが。


「ミア様と僕は魔王とメイ――」

「親友です!!」


ㅤシノンの回答を遮るように、ミアはそう答えた。


ㅤシノンは驚いている様子だ。

ㅤまるでそう思われていたとは思わなかったといった感じだ。




ㅤ食事を終えたあと、俺はベットに飛び込んだ。


ㅤ食事中はいい雰囲気だったが、シノンは俺と目を合うと逸らしていた。

ㅤ嫌われては……いないはずだ。

ㅤ何故なのだろうか。


ㅤそれが気になって、しばらく寝付けなかった……。

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