第9話 魔王の、弟子になりたい!
「ミア様、弟子にしてください」
ㅤ夜。俺はミアに土下座をしていた。
「あ、頭あげてください!」
ㅤ俺はゆっくり顔をあげ、ミアの表情を確認する。
ㅤ困り顔をしていた。
「ミアの弟子なんてならなくても、アディス様は十分強くなれますよ」
ㅤ遠回しに断られてしまった。
ㅤしかし、ここで引き下がる訳にはいかない。
「お願いします。もっと魔術を使いこなしたいんです」
「う、うぅん」
ㅤミアは真剣に悩んでくれている。
「ミアの属性は水と闇です。ミアは他の属性の魔術は教えられません」
ㅤなんだ、そんなことか。
ㅤそもそも俺はそれを前提にこの話をミアに持ちかけたから、それで問題は無い。
ㅤそれに、俺は気づいてしまった。
ㅤ二つの属性の魔術をある程度使えるようになると、ほかの属性の魔術もコントロールが上手くいくようになる。
ㅤ何故二つなのかは正直分からない。
ㅤ様々な仮説が立てられるが、考える必要は無いと感じた。
「それで大丈夫。水と闇だけでも教えて欲しい」
「分かりました。明日からよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします!!」
ㅤ次の日――
ㅤ俺達は魔王国を出て、草原に来ていた。
ㅤ鮮やかな花と麦が美しい。
「綺麗な場所だな」
「この場所には、ミアが認めた人しか近づくことはできません。ミアのスキルで結界をはっていますから」
ㅤ魔術の特殊属性に結界という魔術がある。
ㅤミアは結界の魔術は持っていないが、強力な結界のスキルを一つだけ獲得しているということか。
「二人っきり。ですね」
「へ?」
ㅤ
ㅤミアが変なことを言うので、素っ頓狂な声をあげてしまった。
「えっと、ミアさん?」
「あ、いや。その……深い意味はないです!」
ㅤ顔を赤らめ、焦る。
ㅤこの表情たまらねぇな。
ㅤ人間のみんなは数々の魔王の中にミアのような可愛い魔王がいるなんて知らないんだろうな。
「それじゃあ師匠。ご指導よろしくお願いします!」
「師匠なんて呼ばなくていいですよ」
ㅤ俺が呼びたいんだが。
ㅤ一体どんな修行が始まるのだろうか。
ㅤ俺はワクワクしていた。
ㅤだが――
「それじゃあ遊びましょうか!」
「ん?」
ㅤえ、今遊ぶって言った?
ㅤいやいや、俺達は修行をしに来たんだ。
ㅤ遊ぶわけないよな。
ㅤ一応確認しよう。
「今なんて言った?」
「遊びましょうか!ㅤって言いました」
ㅤ全く同じトーン、表情、手振りで言われた。
「えっとぉ、ミアさん。俺は魔術の修行をして欲しいのですが」
「わかっていますよ。遊びが修行です」
ㅤミアは手を後ろにまわした。
「どんな事でも、楽しくやることが大切だとミアは思います。いきなり努力をし始めても、挫折をするかもしれませんからね」
「な、なるほど!」
ㅤどうやらミアは、俺の事をしっかり考えてくれていたようだ。
ㅤ優しい。マジ天使だよこの子。
「で、なんの遊びをするんだ?」
「その前に、目標を立てましょうか!」
「おお、いい案だな」
「どんな目標がいいですか?」
「うーん、どうしようか」
ㅤやっぱ大きくドカーンと目標を立てたい。
ㅤしかしミアがさっき言ったのと同じことで、いきなり大きなことをやろうとすると挫折をしてしまうだろう。
ㅤならば、まずは簡単なことからコツコツと、だ。
「そうだなぁ。やっぱりまずはセカンドマギアの魔術を使えるようになりたい。あともう一つ、マナを増やしたい」
「とてもいい目標だと思います!」
ㅤミアは目標を肯定してくれる。
ㅤ人生の中で、肯定されることは中々無かったな。
「それでは、お水の掛け合いっこをしましょう!ㅤ水属性なら、どんな魔術を使ってもいいです」
「よし、分かった。いくぜぇ」
ㅤそうして俺達の水の掛け合いが始まった。
「ウォーターボール」
「きゃっ!」
ㅤ《プロビデンスの目》を使用するが、ミアにはダメージは入っていないようだ。
「ミアも行きますよー!ㅤウォーター」
ㅤウォーターは威力が全くない魔術だ。
ㅤイメージとしては、ただただ水をぶっかけるような魔術だ。
「くっそー、やりやがったな」
「えへへ」
ㅤこの遊びが毎日続いた。
ㅤ半年ぐらいたった頃だろうか。
ㅤ水の掛け合いのレベルはどんどん増していっていた。
「ウォータープレス」
「ウォーターシールド」
ㅤ走りながら、ミアが尖った水を素早く飛ばしてくる。
ㅤすかさず水壁でガードする。
ㅤ俺は大ジャンプをした。
「ウォーターボール!」
ㅤ何度も水玉を放ってきた。
ㅤ少し水がかかったが、水壁が水玉をほとんど吸収した。
「お返しだ」
ㅤ吸収した水でウォータープレスをいくつも作り、放つ。
「ふふん!」
ㅤだがそれを、ミアは簡単に避けてしまった。
ㅤ今だ。フィフス・マギアの水をお見舞いしてやるぜ。
「ミュフィア」
「わわわ、やばやばです!」
ㅤ油断したミアの全方向から水を召喚。
ㅤこれには流石に避けられないだろう。
ㅤそう思った俺が馬鹿だった。
「キュースフィールド」
ㅤミアがそう唱えた瞬間、周りの水が氷となり固まってしなった。
「おい、ミアずるいぞ。それはセブンス・マギアの魔術じゃないか!」
「この魔術をいつも愛用しているので、思わず使っちゃいました。てへ」
ㅤと言った会話をしながら水を掛け合う。
ㅤ俺はこの半年で、全属性フォース・マギアまで使えるようになった。
ㅤ半年も毎日欠かさず楽しく魔術を学べたのは他でもないミアのおかげだ。
ㅤちなみに闇属性の修行もしてもらっているが、水属性を中心に修行をしているため水属性だけフィフス・マギアが扱える。
ㅤ俺の魔術の習得スピードって、早い方なのか?
ㅤそれとも遅い方なのか……?
ㅤいや、考えても仕方が無いか。
「ウォータープレス」
ㅤそうしてついに、ミアに水が当たった。
「きゃっ、冷たい!」
「ハッハッハ。俺の勝ちだな」
ㅤまぁ、ミアは手加減してくれているのだが。
「魔王に水をかけましたね?!ㅤおりゃーー!」
ㅤミアはこちらへ向かって走ってきて飛びついてきた。
ㅤびちょ濡れの服と顔を擦り付けて来る。
ㅤミアの柔らかい胸が俺に当たっているのを喜びたいところだが、あまりにも水が冷く、それどころではなかった。
「アディス様」
「ん、どうした」
ㅤミアは顔をあげ、俺にまたがった状態で恐る恐る問いかけてきた。
「アディス様はミアと、その仲間たちと一緒にいて、楽しいですか??」
ㅤ期待、恐怖、切なさ。
ㅤそんな複雑な表情だ。
「うーん。正直に言うと、今が人生の中で一番楽しいかもしれない」
「ほ、本当ですか??」
「本当だぞ」
ㅤミアは嬉しそうに笑った。
「なんでいきなりそんなこと聞いてきたんだ?」
ㅤミアがあんな表情で俺に問いかけてくるのは初めてで、気持ちを読むことが出来なかった。
「もしかしたら帰りたいと思っているのかな。と思ったんです。ミアはアディス様の意見を一番に尊重したいんです」
「ハハッ、帰りたいわけないじゃないか」
ㅤ俺は笑うと、ミアも嬉しそうに笑った。
「えっとー、ミアさん、そろそろどいてくれませんか?」
「あ、すいません」
ㅤミアは顔を赤らめた。
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