第5話 メイド長の、パンツ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は思わず叫ぶ。

 振り向くと、めっちゃくちゃ可愛い獣人が俺を無表情で見ていた。


「そんな驚かないでよ。耳に響く」


 ミディアムショートの白髪にバツのピンが俺から見て右についている。

 なんと言ってもこの猫耳に可愛らしい尻尾が最高だ。

 瞳は赤と青のオッドアイで、身長はミアよりほんの少し高い。

 胸は……おっと、まぁまぁあるじゃないか。


 あれ、他のメイドより服が可愛いような……。

 もしかしてメイド長だからか?


「僕のパンツ……」


 この子は俺とパンツを見てそう呟いた。

 え、待って、気まず。


「か、返して」


 弱い弱いしく可愛い声。

 そしてちょっと恥ずかしそうな顔をしている。

 これはSの血が騒ぐな。


 だが相手はメイド長。ここは素直に返しておこう。


「はいどうぞ!」


 笑顔で返した後、しばらく沈黙が続く――



「……盗むならバレないように盗みなよ」

「ってことはまた盗みに来ていいってことか?」

「え?違う、そういうことを言ってるんじゃない」


 ムッとしている。

 ミアとは違う可愛さがあるな。


「えっと、シノンさん……であってる?」

「な、なんで僕の名前を知っているの?!」


 目を見開いて尋ねてくる。


「ほら、扉の隣に書いてあるじゃないか。メイド長シノンって」

「あ、なんだ。そういうことか」


 シノンさんはため息をつく。

 そりゃあパンツを盗まれそうになった奴に名前を知られてたら怖いよな。


「君はアディスだよね? ミア様から話を聞いてるよ」


 ミアリハーツと呼ばないあたり、きっとミアと仲がいいのだろう。


「そうだ。ここでしばらく暮らすことになったから、これからよろしく」

「パンツを盗もうちした君とよろしくするのはちょっと……」

「……」


 拒絶されてしまった。

 まぁ当たり前だろう。

 シノンの立場になってみれば俺はかなりの変人だ。


「嘘だよ、そんなに落ち込まないで」


 苦笑いをした。


「じゃ、俺はそろそろ行くわ」

「……むぅ」


 え、急に何?


「どうした……」

「また他のメイドのパンツを盗むの?」


 ちょっとだけほっぺたを膨らませている。

 何考えているか全くわからん。まぁ可愛いから許そう。


「しないしない」


 そう言って部屋を出た。




 その後も城を徘徊していると、大きな扉を見つけた。


「うっわぁでけぇ!」


 声が出るほどは大きかった。


「おいしょ」


 とりあえず中に入ってみようと思い、扉を思いっきり開けた。

 いや、開けてしまった。


 部屋の中はフィールドとなっており、壮絶なバトルが繰り広げられていたのだ。


「あれは……ミア? それと魔族?」


 ミア対、魔族三体。不平等すぎだろ。

 見たこともない魔術をぶつけあっている。


 ブォン、キャーン、シュパッ、ビュー。

 といった大きな音が聞こえる。

 鼓膜が破れそうだ。


「やばい……世界が終わる……」


 思わず声が出た。

 だが本気でそう思わせるほど迫力だった。



 途中でミアは俺がいることに気づき、戦いを中断した。


「アディス様ぁ!」


 走って俺の方に飛びつこうとしてきた。

 だが俺は今の戦いを見たせいか、怖くなって後ろに一歩下がってしまった。


「……やっぱミア、怖いですよね」

「ご、ごめん」


 嘘をつくのは悪いと思い、俺は謝った。

 だが怖いというよりも……。


「それよりも、かっこよかったぜ、ミア」

「……ありがとうございます!!」


 ミアは可愛らしく微笑む。


 やばい、ギャップ萌え半端ない。



 俺はこの瞬間、初めて魔術というものに興味を持った。

 あんな自由自在に魔術を操れたらどれほど楽しいことか。



「初めましてアディス様」


 ミアが戦っていた三人の魔族が融合して一つになり、こちらにやってきた。


「え、え、融合した?!」


 流石に驚きを隠せない。


「この子はピティ、美人さんですよね」


 ミアがピティと言う魔族を紹介する。

 髪はピンク色のロング、目もピンク色。

 身長は俺と同じぐらいか。

 カッコ可愛い服を着ている。


「こんばんは。ミアリハーツ様の配下にして、ハーツ城第七十層守護者のピティです。どうぞよろしくね~」


 そういってにっこり笑う。

 やっぱりみんな俺に優しい。

 予測だがミアの配下である魔族は、無差別に人間を嫌っているわけでは無いようだ。


「ミア。この城って何層まであるんだ?」

「百一層までありますよ」


 うわ、なんか中途半端だな。

 ミアが話を続ける。


「百層までは守護神がボスキャラ、そして百一層で魔王であるミアが相手……といった感じですかね」

「い、意外とそういうの考えてるんだな」

「他の魔王に馬鹿にされてしまいますから」

「……魔王も色々大変なんだな」


 弱い魔王は強い魔王にいじめられるってとこか。


 てか守護神合計で100人いるの?

 多すぎじゃん……。


 そこで一つの疑問が浮かんだ。


「でもほら、この魔王城って住みやすさとオシャレさが重視されていて階段がいくつもあるだろ? 守護神関係なしに百一層に到達できちまうぞ?」


 するとピティが口を開いた。


「実はこのハーツ城、敵が来ると城の作りが変わるように作られてるんです!」


 え、まじ?

 それはすげぇわ。


 人間が魔王国に攻めてくると、守護神が守る階段以外がすべて消え、さらに迷路のような城に変形する。

 つまるところはそういうことだ。


「やばい、ロマンを感じる」

「ですよですよね!!」


 その後、俺とミアとピティで、雑談をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る