第3話 魔王様は、お可愛い!


 俺はミアに手を引かれ、食事をする部屋――ダイニングルームにやって来た。

 大きなテーブルが真ん中にあり、上にキャンドルが立っている。

 部屋の壁の前にはメイドやコック、そしてその他の魔族が並んでいる。


 一応ミアという少女のことを信じることにはしたが、まだ完全に信じ切ったわけでは無い。

 半信半疑というやつだ。


「アディス様、朝ごはんを食べましょう、何がいいですか?」

「選べるんですか?!」

「アディス様は敬語じゃなくていいですよ。むず痒いので」


 お前がそれを言うか?

 と思ったが、魔王に敬語を使われるのはなんだか心地がいいので何も言わないでおこう。へへ。


 すると背の超絶小さいシェフがやって来た。

 歳は結構いってそうだ。


「アディス様。我が主、ミアリハーツ様のお城へようこそ」

「「「「ようこそ」」」」


 周りにいるメイドと魔族がシェフに続き、お辞儀をする。

 俺はミアの耳もとでコソコソと話しをする。


「おいミア。嬉しいがこういうの苦手なんだけど」

「ミアがやれって言ったわけでは無いですよ……」


 いやめちゃくちゃ優秀じゃん。


「私共は、世界各地のあらゆる料理を作らさせて頂いております。何なりとお申し付けください」

「ほ、本当になんでもいいのか?」

「ええ、もちろんでございますアディス様」

「アディス様、遠慮しないでくださいね!」


 魔王城マジパネェな。


 こんな機会はめったにない。

 何にしようか――朝だからパンか?

 だが俺は肉が食いたい。ステーキ、チキン……。

 いやありきたりか。

 せっかくだから中々お目にかかれない料理を食べたい。


「うーん、うーん……」

「可愛い」


 ミアが急に俺を見ながら変なことを言い出した。


「どこが?」

「なんでもないです。これからこの生活をずっと送れるのですから、そんなに悩まなくてもいいじゃないですか」


 微笑を浮かべながらミアは言った。


 ん。これからずっとこの生活を送れる……?


「えっとー……俺ご飯食ったら帰るぞ?」

「え、ダメですよ?」


 え、なになに怖い。

 今日からアディス様は私のペットですよ的な?

 SMプレイ的なやつ始まっちゃうんですか?!


 や、優しくしてね?


「実はダンジョンでアディス様を助けた後、本当は家に送ろうと思っていたのですが燃やされてたんですよね」


 SMプレイではなかった。

 考えすぎなんだな、俺。



 ――ん、今なんて言った?


「ごめん、もう一度言って貰っていい?」

「えっと……アディス様の家が燃やされてました」


 ……あのクズ勇者ぁぁぁぁ!!

 家賃何円したと思ってるんだ?!

 女の子とキャッキャウフフできるように高級なダブルベッドまで買ったんだぞ?

 絶対許さねぇ、呪ってやる。死んでも尚お前を呪ってやる!


「アディス様、怖い顔してますよ」


 ミアが足のつま先を伸ばして頭を優しく撫でてきた。

 そのおかげか、俺の怒りは少しだが収まった。


 勇者パレオ?

 魔王ミア?


 ふざんけるんじゃねぇ。

 悪魔パレオと天使ミアの方があっとるわ。


ㅤとりあえず、今人間の国に帰れないことは分かった。





 数分後、結局ガーリックステーキを頼んだ。

 アツアツで肉汁がいい具合に出ている。

 香りも最高だ。


 ……まさか毒なんか入ってないよな?


「どうしましたか? アディス様」

「あ、ごめん何でもない」


 念のためステーキの情報をスキル《プロビデンスの目》で確認しておこう。



――――――――――――

 【ガーリックステーキ】


 食材ランク:最上級


 付属効果:リラックス、筋肉増強

 

――――――――――――



 毒は……入っていないようだ。

 てか付属効果なんてついているのか。


「ふふ、そんなにじっくり見なくても、毒なんて入ってませんよー」


 うお、勘が鋭いなコイツ。


 テケテケとこちらにやってきて俺の近くに座り、上品にステーキを切った。

 ミアは俺のフォークでそれを食べる。


「ね!!」

「お、おう……」


 ほんと、理想の魔王だな。

 ミアの配下がここまでしっかりしているのは、ミアがこういうやつだからだろう。

 きっとみんな、ミアに喜んでもらいたいのだ。


「ミアが食べさせてあげます!」

「え、い、いや別にいいよ! 自分で食べる」


 俺の口に合いそうなサイズを切って、俺の口元まで持ってきてくれた。


「はい、あーんしてください」


 いや、これ関節キスじゃね??

 だ、だが魔王であるミアがここまでしてくれたんだ。

 素直に受け取ろう。


「あーん」


 やばい……めっちゃうめぇ!!!

 俺は思わず涙する。

 すると、シェフとコック達も俺を見て泣き出した。


 なんでだよ。


「ふふ、美味しいか聞くまでもないようですね」


 肘をついて上目遣いでこちらを見てくる。


 ついドキッとしてしまった。

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