第2話 私は貴方のためのメイドではーーーー

10月14日

フロスさんの家に着いた。家は豪邸で、学校の校舎ほどの屋敷に、少し大きめの公園ほどの庭がついていた。

家の中はとても広く無数の扉が壁にあり、広場の中心には大きなピアノが置いた。

そして突然、フロスさんに『メイドになってほしい』

と言われた。




「付きましたよ優里ゆり、ここが、あなたと私達の家です。」

彼は私の方に振り向き、両腕を広げて言った。


「おかえり」

彼は広げた両腕を私を包むようにーー

左腕で私の背中を包み込み優しく引き寄せて、

右手を添えるように私の頭をポンポンと頭を撫でた。


初めてだった。『おかえり』と自分に向けて言われた事は無かった。

彼の優しさに包まれ、またしても涙を流してしまった。

その涙はあのときのではなく、嬉しい感情が詰まった涙だった。


「女性は泣いている姿よりも、笑っている姿のほうが美しいですよ」

そう彼は私の耳元でささやいた。


「そろそろ中に入りましょう。このまま居ると風邪を引いてしまいますよ」

ロッツさんが心配するように言った。


「ロッツの言う通りです。さあ、早く入りましょう」

そう言ってフロスさんは屋敷の方へ私の背中を左腕で優しく押しながら誘導してくれた。


屋敷の入り口の扉はとても大きく、高さは自分の身長の2倍ほどの高さだった。

フロスさんがその大きな扉を開けると、屋敷の中から温かい空気がゆっくりとこちらへ流れてきた。


そして、扉の奥には20人ほどの、黒色の丈の長いワンピースに豪華な純白のエプロンを付けた服を着た、

下は10代、上は50代ほどの女性たちが赤いじゅうたんを挟むように並び、一同が一斉に頭を下げーーーー


「おかえりなさいませ。時期当主、フロスヴェト様」

と、言った。


フロスさんは手を軽く振りながらじゅうたんの上を歩いて行った。

私は彼に置いて行かれないように速歩きで彼の隣を歩いた。



屋敷の中にある、広場の中心に向かっていると、

さっきまで彼と一緒に付いてきていた側近たちが急に止まり、一礼をしてから一人ひとり違う方向へ歩いていった。


そして彼も止まりだして私の方を向いた。


「あ、そうそう、ここに来る前に伝えるのを忘れていたけど、僕の家に住まわせてあげる代わりに、

僕のになって欲しいのですが」


彼の口からそう言われた。


「メ、メイド……?」


「そうそう、あそこに並んでる彼女らのような制服をきて

ここで働いてほしいのです」


「働く……?で、でも私まだーーーー」


「『働く』とゆう言い方はあれでしたね。お手伝いと思って下さい」


「は、はい……」


「勿論良いですよね?日本からロシアまでの飛行機代も、ここに住む事の借りも、全部メイドになることで、免除出来るのですから」


そう言った彼の目はさっきとは全く違い、瞳孔を大きく開かせていて、欲望に溢れている様に見えた。


「わ、分かりました……」


「なら、早速ですが、あなたの寝泊まりする部屋に行きましょう。リサ。こちらに来てください」


彼は近くにいたリサと言う若いメイドに手招きをしながらこちらに呼んだ。


「何でしょう。フロスヴェト様」


彼女はスカートの裾を指先で摘み、軽く引き上げて頭を下げながら言った。


「彼女は今日から新しくメイドになる子なんですが、

彼女専用の空き部屋とかはないですか」


「確か……おじい様の部屋の隣なら空いていますよ」


の部屋か……」


あやか。この名前は昔行方不明になった姉の名前と同じだ。

姉は私の事を大切な妹と言ってくれていた。

優しかった姉は6年前突然居なくなってしまった。

そんな姉と同じ名前を聞いて動揺してしまった。


「あやか……お姉ちゃん……」


「……?」

フロスさんが勘づいた様に私を見つめる


「……行かないで……なんで……お姉ちゃーーーー」


ゆさゆさ


「落ち着いて……大丈夫だから……ね?」

正気を取り戻し頭を上げると、リサが私の頭を撫でてくれていた。


「落ち着きましたか?優里。……リサ。彼女をその空き部屋まで案内してあげて下さい」


「承知しました。フロスヴェト様。……じゃあ、行こっか、

優里ちゃん」


リサは私の手首を掴み、優しく手を引いてくれた。




「……自己紹介が遅れたね……」

彼女はそう言うと、掴んでいた手を離して私の方へ振り向いた。


「私はリサ・ライリーフ。ここでメイドを始めて2年になんだ。私の事はリサって呼んでね」


「わ、わたしは……高野 優里たかの ゆり……です」


「よろしくね!優里ちゃん」


「よ、よろしく……リサちゃん」


「ちゃんは付けなくていいよ!」


「……リサ」


「そうそう!とりあえず優里ちゃんの部屋に行こっか!」


リサはそう言うと私の手を強引に取り、忙しいかの様に、さっきよりも早く歩いた。




「……付いたよ。ここが優里ちゃんの部屋だよ。ここでゆっくりしてていいよ。じゃあ私は……お手伝いしてくるから…………

バイバイ!!」


リサはさっきよりも早口で、私から逃げるようにこの場を去っていった。

(どうしたんだろう)と疑問を持ちながらも、自分の部屋と言われたそのドアを開けた。

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