訳あり若メイドとサイコパスな若主人様

@kytkk

第1話 プロローグ

あれからどれだけ走ったのだろうか……

意識が遠く離れてしまう前に、近くで身を隠し、休めれる場所を探そう……




背の高い木が生え揃う針葉樹の森の中に、ぽつんと置かれた

古い木を積み重ねて出来た簡易的なログハウス。

少女は寒く震える手でそのドアを叩く。

…………

………

……

返事は帰って来ず、足音もしない。どうやら空き家のようだ。

ここの近くで聞こえる水流の音、ひぐらしの鳴き声……

人工的な音は全くせず、自然の音だけが鼓膜に伝わる。

誰もいないと分かり、鉄製のドアノブを服の袖の中に隠した手で掴みに、勢いよくドアを手前に引っ張る。


ログハウス中は狭く暗い。ドアを開けてすぐの廊下にはホコリが溜まりに溜まっている。

靴を履いたまま家に上がり、恐る恐る部屋を探す。


1歩2歩と歩く度に床の木の板がギイギィと音を鳴らす。

廊下を歩いてすぐ左側に扉があった。

少女はそのドアを開ける……どうやら寝室のようだ。

その薄暗い部屋には、分かりやすくベッドがドアを開けてすぐ左側にドンッと置いてあった。

そのベッドは赤色を基調としており、なんとも高級感が漂う。まるで貴族が使うようなベッドだ。

ベッドには2枚の毛布と羽毛布団が掛けてあった。


淡い月の光が差し込む寝室はなんとも美しい光景だった。

今にも倒れそうな体でベッドに飛び込み素早く毛布の中に潜る。

この日は秋も終わりを告げようする日。

この日の夜は寒く、薄着では凍え死にそうになるほどだ。


そんな外気に肌を触れさせ無いよう毛布で体を包み、

体を丸めて目を瞑る―――ー




まぶたを通して眼球に光が差し込んでくる。

ゆっくりとまぶたを持ち上げ、目を開けるーーーー


「……!起きられましたか、……赤い目をした少女……様」


白い顎髭を生やしており、彫りが深く、細い目つきで、

シワがいい味を出しているおじいさんが、

ベッドの横の椅子に腰を掛けていた。


「…………!」


寝ていたすぐ横におじいさんがいて心臓が弾けそうなくらいびっくりした。


「大丈夫ですか、かなりうなされているようにも見えましたが……」


「……そうだ……ここに逃げてそのまま寝たんだった……

…………もしかしてこの家のあるじとかですか?」


「焦らなくていいですよ、わたくしはーーーー

ヨハン・ヴェルウスィヴィチ・フライト、

ヨハンとお呼び下さい。それで、私の身分はこの家の主の側近のような者……ですよ」


側近という言葉と、何故ここに留まらせて貰えているのか、の2つの疑問が浮かび上がった。


「側近って事はボディガードとか執事とかそんな類の者ですか?!」


「まあ、そんな感じですよ……ところで1つ、お伺いしたいのですが……」


「?何でしょう」


「さっき『ここに逃げてそのまま寝た』と言っていましたが、逃げてきたと言う事は緊急事態だったんでしょうか?」


昨日の夜までの記憶が走馬灯のように一気に蘇る。

その記憶は自分にとって闇であり苦しみであり悪夢である。

を思い出した衝撃により、急に胸が苦しくなり、視界がぼやけ、不可抗力で涙と嗚咽が込み上がってくる。


「んんッ……ガハッ……ァアア……こない……ッハァハッ」


視界の端でヨハンさんが右を向き何か話してるようにも見える。しかし、今の自分には関係がなく、ただこの苦しみを、

この発作を止めたい。ただそれだ。


「悪いことを聞いてしまいましたね……申し訳ないです。

私は席を外します。……落ち着くまで外に居ますので何かあったら呼んでください」


私に聞こえるように説明し、彼は退席した。

その後も止まりそうにない発作が体感5時間ほど続いた。




発作も落ち着いてきた頃、ヨハンさんがお盆を持って部屋に入って来た。


「落ち着いて来ましたか?……温かいスープを持ってきたのでゆっくりと飲んで冷えた体を温めて下さい。」


彼は微笑みながらスープ私にを飲ませてくれた。


「このスープはと言って、茹でた豚肉の中にと少し厚く切ったキャベツ、ジャガイモと炒めた人参、セロリ、玉ねぎ、食べれるルビーとも言うビートルートをぶつ切りにして鍋に入れて少し煮込んだロシアの郷土料理です。…………お味の方はどうですか?」


彼は、子供に絵本を読み聞かせるような口調でスープの説明をしながら料理をスプーンに乗せ、私の口に運ばせた。


「……うーん、野菜の味です……ちょっと酸味のある感じで、美味しいです」


ボルシチの味は感想通り。不味くは無いがthe 野菜って感じで、トマト缶や味噌とかあの辺りを入れれば美味しくなりそう。


「そうですか、まあ、美味しいなら良かったです」


また彼は微笑んーーーー


「Иоганн!!」


突然部屋の外から若い男の人の叫ぶような声が聞こえた。

これにはヨハンさんも細い目を見開いていた。


「すみません、騒がしくて、少し待っててーーーー」


「Иоганн!!Сколько раз мне нужно повторять!!

Ты не готовишь!!」


再び同じ声の叫び声が聞こえた。ヨハンさんは急ぐように声の鳴る方ヘ向かった。




数分後、ヨハンさんが部屋に戻ってきた。


「ホントすみません、騒がしくて……話したいことがあるのですが……」


「家出のこと……ですか……」


「悪い話ではありません」


「私にとっては悪い話なの!!」


???「あなたを助けたいのです」


流暢な日本語を喋る若々しい男性の声が聞こえた。

その声の方へ振り向くと、金髪の青い目をした好青年が立っていた。


「ヨハンから聞きましたよ、『ここに逃げてきた』と、」


「!……ヨハンさん」


「あなたの安全のためです」


鋭い視線でヨハンさんを睨みつけるが、優しい声で即答された。


「ヨハンの言う通りです。こんなホコリだらけの家に一人で住まうのですか?それに、ここは寒い針葉樹の森……熊の住む森……安全なんて、食料なんてそうそう無い。それにいつここにが来るのかわかりません」


「……」


「それにあなたはきれい、とても美しい」


「!……ありがとうございます……」


突然褒められ、顔が真っ赤に染まった。


「そんなあなたをここに置いて行きたくないのです。

こんな所でサバイバル生活をするか、毎日美味しいご飯を食べる事ができる生活……あなたはどっちが良いですか?」


今まで自分は甘えて来なかった。甘えれなかった。

いい思い出なんか無い。笑ったことなんて覚えてない。

に全部奪われてからイキる意味も無いと感じていた。


けれど、昨日の夜。あの日は希望に満ち溢れていた。


「そうだ…………生きるために……ここに来たんだった」


「……準備が出来たらこの手を」


そう言って好青年は私に手を差し伸べた。


私は小さく頷き、彼の手を掴んだ。

彼は私の手を引っ張った。

しかし彼の引っ張る強さが強かったせいか、立ち上がったあと、引っ張られた勢いで彼の方へ倒れ込んでしまった。


「おぅ笑、君はシンデレラみたいだね」


彼の左腕に包まれながらそう言われた。

恥ずかしくなり、彼の胸に潜るように顔を隠した。


「わたくしはーーーー

フロスヴェト・ホスマルクヴィチ・ガーチョフ

フロス……とでも呼んでください」


高野 優里たかの ゆり……です//」


「では私達の家に帰りましょう。優里」


そう言われ彼らと共に彼の家に行った。




こんな事があった、ここに来る前の1日間。

彼の家に行くまではあんな事になるとは思わなかった。


10月14日

フロスさんの家に着いた。

彼に突然、



  『になってほしい』


と言われた。

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