第2話 辺境の地にて 1
「――と、此処で終わりだ」
本をパタンと閉じる。ククルガの孤児院の特別教室。そこは、週に一度開放され孤児達にとって学舎となる部屋。
特別教室の黒板に赤い、赤い、葡萄酒や血を連想する甲冑を身が教授し終えた。赤い甲冑を被る者に名はない。自ら名を捨て、一族の言葉を偽名とし、今はグリムレッドと名乗っていた。
「さて、何か質問がある者は左の手を……結構いるな。では左側から答えてくれ」
「赤先生それ八回目だよ。オレ異勇譚飽きたよ」
一人、愚痴る。グリムレッドは「そうだったか」「もうそんなにしたか」と首を傾げる。それから連鎖するように「オレもオレも」「ワタシも飽きた」「もう詰まんない」と孤児達の不満が爆発、グリムレッドは困り果てる。自分自身は子供達の為に教えていたのだが、彼等には不満があったようだった。
「あー、では明日芋植えしないか?ちょうどギルドに納品していたのがあったはずだ。それで機嫌という虫を治して頂けないだろうか?諸君」
「芋?赤先生が
「あの美味しいお芋?!」
「おぉ、おぉ。そう。その芋だ。明日皆で畑を作ろ。それで手を打たないか?」
うーんと孤児達が唸る。此処である一声がかかる。
「赤先生。オレ、赤先生の女の人に会いたい」
「……女の人だと孤児院のシスターやギルドの受付嬢しか――」
「エルフの女の人に「会わせんぞ、もう一度言う会わせんぞエロガキ」
「ケチー」「そういうとこは頑固って言うんだ」「ケチ騎士」「くそジジイ」
「はいはい、静粛静粛。光の君の御加護を」
そう言い、そそくさと特別教室から退散する。
孤児院の前で二人のシスターにありがとうと礼を受ける。去る間際に孤児院に向け金貨一五枚と銀貨八枚と銅貨三〇枚を寄付し後にした。
その足でククルガのギルドへ寄る。ギルドへ一歩足を踏み入れると
「よー赤騎士さん、お久だね」「来てたのグリムさん」「あっレッドさんだ」「グリレさーん」「今度一緒にクエスト手伝ってくれません」
グリムレッドは受付カウンターの前に止まる。
「あっグリム様、今日は何の御用で?」
眼鏡の受付嬢が愛読書を閉じた。
「二か三日前に納品した芋をくれないか。五個でも三個でも構わない」
「それでしたら、Eの棚の下から二番目にありますよ」
「わかった」
「あぁそれとギルマスが来たら渡しとけと」
受付カウンターの下からリボンで丸まった紙を渡す。リボンにはギルマス、ギルドマスターの証が押印されていた。
「……後で読もう、ありがとう」
「いえいえ」
ギルマスの押印がされた紙を片手にギルドの倉庫へ向かう。ギルドの倉庫はAからGと書かれた番号にアイテムが保管されている。ギルドの倉庫管理人に名前と棚の番号を署名、更にギルド登録者には等級表示としてタグ状のプレートを見せなければならない。今回グリムレッドはEの棚から納品した芋を五個を持っていった。
「管理ご苦労」
グリムレッドが謝礼の言葉を伝える。ギルドの倉庫管理人は一礼を送り、棚の在庫確認作業に勤しむ。
倉庫を出た。そのあとギルドの酒場に寄った。一人席に着く、そして空間魔法の
――親愛なるグリムレッド殿へ
このククルガのギルドマスターを勤めるミレニアルは貴殿にこういった形で依頼を申し込む事にまず最初に謝罪の意を手向ける。
今回、わたしミレニアルは辺境ククルガの近くのダンジョンで四人一組のパーティーが四日前に出立して以降、帰還していない。件のパーティーはギルドに登録されまだ芽吹いたばかりの新参者達である。
当ギルド内でEランクの者達、まだ経験未熟な彼等はダンジョンの第2階層がやっとだろう。だが最近巷にある言伝がわたし、ミレニアルの耳に飛び込んだ。
ククルガのギルドマスター ミレニアルより――
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