【第五話】出会いの奇跡
「よし」
チュンチュンと鳥の囀る声が聞こえる朝の中庭。沙織は我先にと餌に群がるうさぎ達の微笑ましい光景に頬を緩めながら掃除用具の片付けを終える。
遠くには、学生服を着た集団がぞくぞくと門を潜り校舎に入ってくるのが目に映り、もうそんな時間かと、放置していた制定鞄を肩にかけると、
「それじゃあ、またお昼に来ますね」
と、食事に夢中になっているうさぎに挨拶をしてその場を離れる。
日差しが徐々にその勢いを増していき、空に透き通る青の空間を作り出していく中、沙織はその光を避ける様に靴から上履きに履き替え、校舎の中へと入っていく。
沙織の通う『私立秋ノ宮高等学校』は比較的新設の学校で、全体的に綺麗な外観と広く多様な施設を有している。廊下を歩いていると尚更それを強く感じることになる。入学してから一週間の時が既に経っているにも関わらず、やはり中学校との差を比べて感動してしまう。
「そろそろ慣れないとなんですけどね」
色落ちや上履きの擦れた後の目立たない廊下をご機嫌に進んでいき、ここは慣れた様子で無事に教室へと到着。
「おはようございます」
閑散とした空気の教室はその文字通りの状態で、クラスメイトはあまり集まっていない。それでも教室には何人かはもう座っており、それぞれ本を読んだり携帯を触ったりと、友達が集まるまでの時間を潰していた。
沙織はクラスの景色を一通り見回した後、陽気な気分を持ったまま自分の席に向かう。鞄を机の横に置いて左をチラリを見ると、そこには本の世界に没頭する女性の姿がおり、没頭しているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、その存在は沙織に一切気づいていない様子だった。
しかしそのことに沙織が腹を立てるなんてことはまずなく、むしろ感心する心の方が大きい。他のことにこれっぽっちも意識を割かず、ただ一つのものに集中できるのは、それだけで才能であり誇れることだろう。
故に声をかけずに沙織も持ってきていた本に意識を向けることにする。
しばらくして予鈴がなり、「そろそろですね」と本を閉じたと同タイミングで意識を現実世界に戻した読書家は隣に座る人の存在に気がつき、
「沙織、おはよ」
と、涼やかな表情を沙織に向けてその黒い髪を靡かせる。やはり何度見てもこの女性の持つ魔貌に惹かれてしまうが、そのことは毎度の如く他所に置き、
「おはようございます、美智留さん」
女性ーー美智留と朝の挨拶を交わす。
これがここ一週間で築かれた絆でありルーティーンでもあった。
性格上、沙織と同じく美智留の朝は早く、基本的に沙織とほぼ同じ時間に登校している。そのせいで授業が始まるまで結構な時間を持て余すことになってしまっていた。だが、たまたま美智留の持つ趣味、読書はぴったりの暇つぶしとなり無事にその問題は解消された。元々本を読むのは好きで、小学生の頃にある小説と出会ってからずっと本の魅力にぞっこんなのだ。長年培われた読書に対する意識の溶かし方は相当なレベルになっており、多少の物音や声は一切気にならなくなっていた。
入学式の翌日は沙織もそこまで本に集中してるとは思わず、友人との会話したさに遠慮なく話しかけてしまったが、何度か呼ばないと気づかない美智留の集中力を察してその翌日からは、本人の意識が本から逸れるまで待つことにしたのだ。
美智留は気づかなかったことに謝罪をしていたが前記の通り、沙織はそのことを悪いと思っておらず、
『邪魔してごめんなさい。次から気をつけます』
『いや、私こそごめん。そんな気にしないで』
『いえ、そこまで物事に熱中できることはそう簡単なことじゃないですよ。美智留さん凄いです!』
『そ、そんなことは‥』
『なので私も明日から美智留さんのような集中力を獲得するべく、本を読むことにします!なので、美智留さんも私のことなんて気にせず本を読んでて大丈夫ですよ』
『いや、それは流石に悪いよ。それじゃあ沙織を無視する様なもんだし』
『いえいえ、なにも無視していいなんて言ってません。もし集中が途切れたときに私が隣にいたら、その時は話しかけてください』
と、逆に読書の邪魔をしたことを詫びてきたのだ。悪いと思いながらも、沙織の優しい瞳と、その心意気に甘えたことで『気づいたら挨拶する』の亜種版が誕生したのだ。
「今日も推理小説ですか?」
数日間の記憶を頭に蘇らせ、いつも通りの挨拶を交わせたことに満足した沙織は、閉じられた小説へと意識を傾け、気になったことをそのまま口に出した。
「ううん、今は恋愛もの読んでる」
「恋愛ものですか!どうです?面白いですか?」
「うん。あんまりこういうの読んでこなかったけど、意外と面白いよ」
「へー、私も恋愛作品を読んだことはないので気になります。どなたが書いている作品なんですか?」
「百川千柳って人の『黒曜石の瞳』。もうすぐ読み終わるから貸そうか?」
「いいんですか!?それじゃあお言葉に甘えて」
「帰りまでに渡すね」
「はい!‥‥それにしても美智留さんは読むのが早いですね、昨日まで別の作品を読んでたのに」
美智留は「そうかな」と閉じた本を机の中にしまうと左肘を机の上に立て頬杖をつくと、顔だけ沙織の方を向かせた。
「家でも読んでるからそう見えるだけだよ。暇な時とかずっと読んでるし」
「おお、凄いです。美智留さんには見習う点が多すぎますね」
「そ、そんなことない。沙織のが私なんかよりよっぽど凄いよ」
「いいえ、そんなことあるんです!」
「あ、ありがと」
これも毎日の日課みたいなもの。褒められ耐性が皆無に等しい美智留を褒めて照れた顔を拝むことが沙織のルーティンになっていた。照れさせたいからといって、嘘の褒め言葉を伝えてるわけではなく、本当に感じたこと、思ったことを口に出すようにしてるだけなのでこれは間違いなく沙織の本心だ。
毎日の日課になるほど、美智留には尊敬するべき点が窺えるのだ。
照れ顔になり目を背ける愛らしい姿に和む時間を終え、後数分に迫った授業の準備を始める。
→→→→→☆←←←←←
四時間に休憩を三度挟んだ午前の授業が終わる。
「沙織、お昼食べに行こ」
机に突っ伏せ、「もう限界」と沙織をお昼に誘う美智留は眼鏡を外しており、普段との印象の違いを明確に表してくる。
眼鏡をかけている状態の美智留は知的な印象が強く、眼鏡が無くなったことによって露わになった黒翡翠の様に美しい瞳と元より整ってる小顔が相まり、知的よりも美人という印象が際立つ。正直、眼鏡を外した姿は学年で見ても五本の指に入るであろう美しさを誇っているだろう。
「はい、行きましょうか」
「うん」
沙織の賛同を確認すると机に置かれた眼鏡を手に取り付け直す。それから二人は鞄から財布を取り出して購買へと向けて足を進め始める。廊下には沙織達と同じく購買に行く者と、食堂に向かう者でごった返していて、辿り着くのも一苦労というものだ。なんやかんやたわいのない話をしつつ無事に購買付近に到着する。案の定といえばその通りで、そこには既に多くの生徒がごった返していた。
「混んでるね」
「ですね。美智留さん、何が欲しいですか?先買ってきます」
「あ、ほんとに?えっと、じゃあイチゴ牛乳とチョコクリームパンがいいな」
「わかりました。少し待っててください」
「いつものベンチにいるね〜」
「はーい」
人にぶつからないように上手いこと避けながら人並みの先にある購買へと到着。主にパンやおにぎりといった軽食と数種類のドリンクが売られている購買部には食べ盛りの男児が多く集まっていて、肉肉しい種類の物は既に売り切れていた。しかし美智留に頼まれたのは菓子パンとジュースだけなので問題はなかった。
注文の品と沙織用の梅干しのおにぎりと緑茶を買えたところでその場から離脱し、美智留の待つ渡り廊下の入り口付近に設置されているベンチへと早足に移動する。
「いやー助かったよ。サンキュな」
「うん、こんなことでよかったらいつでも頼って」
「おーう」
途中、姿は見えなかったが聞き慣れた声とそれと話す馴染みない声が聞こえた。しかしその声はすぐに聞こえなくなり、声の主達が離れていったことによりそれ以上聞くことは叶わなかった。
話しかけたい欲が湧き上がるが、やはり無理だ。心臓が弾けてしまう。それに今は待たせている人がいる、時間も限られているし急がなければ、と、言い訳のようなことを一人繰り広げその場を後にしベンチへと再び向かう。
「お待たせしました」
「沙織ありがとう」
辿り着いた人気のない日陰に作られベンチに腰をかける美智留に買ってきたご飯を渡し、その隣に沙織も腰をかける。昼食の入った袋を横に置き、ポケットにしまった財布から小銭を取り出し沙織に昼食代を返すと早速イチゴ牛乳にストローを差し込み飲み始める。
「んーーーーー!美味しいーーー!」
四時間の授業を真面目に終えた美智留の脳みそは空腹と疲れが重なり糖分を欲していたらしく、甘々な飲み物ほ摂取したことにより一気に回復する。
「沙織も飲む?」
「悪いですよ‥、せっかくの好物を頂いてしまうのは‥」
「いいからいいから、ご飯のお礼とでも思ってさ、ほら」
「‥では一口だけ」
「どーぞ」
差し出されたストローに口をつけ軽く吸ってやると中から甘い匂いと共にイチゴのまろやかな口溶けを味わうことになる。想像以上の甘さに目を丸くさせ「ん!?」と驚く沙織に、
「美味しいでしょ、健康食もいいけどたまにはこういうのも悪くないんじゃない?」
「そうですね、こんなに美味しいなんて思いませんでした」
口元に手を当てその甘美な舌触りに感動してしまう。購買で買ったものからわかるように沙織は普段体に優しい食事を好む傾向にあり、中々間食や菓子類、健康にそぐわない食べ物は食べないのだ。
新たな味覚の誘惑に負け、明日は自分も買ってみよう心に決めた沙織のわかりやすい反応を見て満足した美智留はチョコパンを袋から少し出し、小さな口で頬張るのだった。
→→→→→☆←←←←←
ご飯を食べ終え空腹感を満たされた二人は日陰である故の物静かさに今度は睡魔と戦っていた。
「この時間ってどうしても眠くなるよね」
「そうですね。気温もちょうどよくて‥ふぁぁぁ」
口を隠す様に手を当て上品に欠伸をかく沙織は隣に座る美智留を見やる。うとうとしながらもなんとか意識を保とうとたまに頑張って目を見開いている辺り、ミチルも相当眠たいのだろう。
「あー次の授業きついかも」
「でも次は伊井野先生の授業ですし、きっと大丈夫ですよ!」
「伊井野先生か‥なら大丈夫か‥‥」
「美智留さん!?」
会話もできていたしまだ大丈夫かと思われたが、途中で声が途切れ前屈みに崩れ落ちる。
そのまま地面に転がりそうな勢いだった美智留をギリギリのところで沙織が支えると目を覚まし、
「あ、ごめん、ありがと‥う」
と、目を擦りながら姿勢を持ち上げる。だが、まだまだ眠気と戦っている最中なのか、コクコクと体を揺らしてーー、
「わっ!ちょっと美智留さん!?」
沙織の膝の上に倒れ込むと無防備にもそのままスヤスヤと寝始めたのだ。
膝の上に感じる重さは大したことはないが、スカートの上かあらでも感じる温もりになんだか穏やかな気持ちになった。優しく頭に触れると肌触りの良い感触が掌を支配して、撫でるのを止められなくなる。
それにしても綺麗な髪の毛をしていると感じた沙織は結ばれた先にある髪の毛を梳く様に何度か指を通す。触れられても起きる気配のない美智留、髪側からそっと手を伸ばし、ほっぺたを何度か突いてみるがこれも無反応。
「もう美智留さんったら‥‥。もう少しだけですよ」
お昼休みは約一時間も設けられており、残りは三十分ほど。
膝上で眠る同級生を眺め、ふと空を見てみると濁った雲が多くかかり始めていた。日が隠れたことによって、日陰がその存在を増していく。
「ん‥寒い‥」
美智留が寝言混じりに身を震わせて沙織のスカートを強く握る。それもそのはず、涼しかった環境が雲で日が隠れてしまった影響により寒くなってきてしまい、まだ制服は冬服にも関わらず肌寒く感じてしまう。
沙織は自分の着ていたカーディガンを起こさない様に脱ぎ、美智留にかける。幸いにも沙織は寒暖差にすぐ適応できる体質なため、今もそこまで寒いとは感じていなかった。
「ふぁぁ、私も限界かも‥しれないです」
睡魔によってあやふやになった視界を真っ暗にさせ、意識を彼方に遠ざける。
その間にも雲は濃さを増していき、果てまで広がっていた青空は灰色の曇天へ。
→→→→→☆←←←←←
キンコンカンコンと大きな音が学校全体に響き渡る。お昼休みの終了と授業の開始が近いことを知らせる予鈴は自然と二人の耳にも届く。
意識を手放していた二人の眠り姫は大音量によって強制的に覚醒させられ、ゆっくりと形を成していくと徐々に現実に戻り始めた。その速さには当然差異があり、まず最初に意識を手中に戻したのは、
「んん。あ、いけない!美智留さん起きてください」
鐘が鳴ると瞬時に覚醒した沙織は未だ膝の上に頭を委ねて寝ている愛らしい友人を起こし始めた。
「なーに、どうしたのぉ」
「お休みのところすみません。ですが予鈴が鳴ったもので」
「あ、そういうことか。ふぁぁぁ」
ゆっくりと体制を戻し、沙織の膝にかかる重さを消失させていく。何度か目を擦って体を伸ばすとなんとなく自分の行動から今までの状況を理解した美智留はぎゅっと手を握り締め恥ずかしそうに小首をかしげてくる。
「ご、ごめんね。重くなかった?」
「いえ、全然そんなことなかったですよ。むしろ軽かったですし、寝顔も綺麗でしたよ」
「!?」
まあまあ長い時間膝枕をしていたが不思議と痺れや疲れは感じておらず、いつも通りの感覚がそこにはあった。膝枕をさせ寝ていたことを恥ずかしそうにしていた美智留にさらに追い討ちをかけた沙織は、その場から立ち上がると、
「さあ、そろそろ行きましょうか。後八分くらいしかありませんしね」
「うん、行こ‥くしゅん!」
「美智留さん、大丈夫ですか」
「なんか寒くなってるね」
意識と気を取り戻した途端周りの環境の変化に身震いし、顕著にその反応を見せる。沙織も薄々感じていたが、寝てしまう前より風が出てきていて気温が下がった様に感じる。
凍えるほどではないにしろ寒いことには変わりなく、現に美智留はとても寒そうに両手を擦り合わせている。
「美智留さん、よかったらそのカーディガン使っててください」
未だに肩に掛かったままの状態を保っているカーディガンに気づいていなかった様子。右肩をみてようやくその存在を認識し、「いいの?」と確かめるように聞いてくる。
「沙織は寒くないの?教室行ったら多分暖かいし」
「いいんですよ。私寒いのはへっちゃらなので」
「本当に?‥‥ありがとう」
初めは遠慮気味だったが沙織の優しさに甘えることにし、肩に掛かった青色のカーディガンに袖を通す。少し小さいのか袖の長さが足りなかったが、それでも十分に暖かそうな顔に変わ、
「じゃあ行きましょう」
沙織が歩き始めると遅れて美智留も隣に合流する。
「ありがとね、沙織」
「?」
なんの前触れもなく感謝を告げられたことに困惑してしまう沙織の反応を見て、ちらっと横目で伺いながら言葉足らずを補うように桃色の唇を開き、
「さっきのカーディガンもだし、お昼買いに行ってくれたのもだし。私、沙織に甘えてばっかだなって」
と、反省も踏まえた継ぎ足しをする。
美智留の謙った言い方に「そんなことないですよ」と言おうとしたが、その前に「でも」と加えられたことでそれが口から出ることはなくなる。
僅かに大股になると沙織の進行を塞ぐように立ち止まると、
「そんな優しい沙織だから私も甘えられるし、大好きだよ。ありがとう」
曇り空も吹き飛ばすほどの神々とした笑顔で沙織を見つめる。
そのとてつもない衝撃は、褒めた後の美智留を想起させるような反応を沙織の顔に表し、顔を直視することすらままならないほどの照れを見せた。
普段見せない沙織の照れた反応に満足したように口角をあげて笑うと、一歩詰め寄り、
「普段の仕返しだよ。でもまぁ、本音だどね」
意地悪く視線を合わせてから再び隣に並び直した。
「どうしたの?顔赤いよ」
「もう!美智留さんがそんな意地悪な人だとは思いませんでした!‥‥私も大好き‥です」
「それはよかった。ありがと!これからもたくさん甘えさせてもらうかもしれないけどよろしくね」
機嫌良く笑いながら改まったことを言う美智留に小さく頷いた沙織の心境はなんだかバツの悪い気分だった。おそらく普段こういうことを言う立場が逆だということが原因の大半を占めるが、こうも急に素直な気持ちを告げられると心臓によろしくない。一週間一緒に過ごしてきたからこれが彼女の素直な気持ちだと言うことが分かってしまう。だから尚更照れてしまうし、友達になれて良かったと感じる。
高校に入学してからの出会いには幸福なものしかないなと一人想いに耽っていると上機嫌をそのままに残した美智留は「そういえば」と切り出す。
「沙織知ってる?最近噂になってるんだけど、三組に凄い人がいるんだって」
「凄い‥人?」
あまりに抽象的な言い回しにピンとくるはずもなく、王蟲返しのように聞き返してしまう沙織に頷きで示すと人差し指を口元に当て何かを思い出すような仕草をとる。
「えっと、なんだったかな‥‥あ!思い出した、確か名前は安達孝裕って人だったかな」
「!?」
「なんでも、頼み事をすれば全部引き受けてくれるお人好しなんだってさ」
思いもよらぬ名前の出現に目を大きくさせ、声が出なくなってしまう。
美智留は沙織の反応の悪さに違和感を感じたのか、頭に疑問符を浮かべ沙織の方を見てくる。
「どうしたの?沙織知ってる人?」
「え!?」
言っちゃ悪いが、普段の美智留はなんというか感があまりよろしくない印象があったため、こういう時の感の冴え方に神の悪戯的な何かを感じる。いや、普通に沙織の反応があまりにも顕著なものだったことが要因だろう。
覗き込むように顔色を伺ってくる美智留の眼は純粋に答えを求めているだけであって、これといった勘繰りや探りを孕んだものではないとわかっていながらも、沙織の持つとある『悩み』が原因となり、答えを出すことを躊躇してしまう。
だが、ついさっきあれだけ小っ恥ずかしいやりとりを繰り広げていたこともあり、彼女への信頼感は増し、沙織の中でその存在感を強めていっている。あるいは彼女なら話しても大丈夫なのではないのだろうか。と、思い始めた沙織は何度かの瞬きを挟んだ後、意を決したように自分と件の人物との関係を、抱えるとある『悩み』を打ち明けようとーーーー、
「「!?!?」」
したところで校舎全体に鳴り響く甲高い鐘の音に邪魔をされる。鐘がなったということはつまり、
「やば、授業始まっちゃった。沙織、急ご!」
「え‥あ、はい!」
鳴り渡る本鈴に、慌てて駆け出した美智留の後を呆気に取られていた沙織も追いかける形で続く。
せっかく言い出せるチャンスが来たと思えばこれだ、やはり神様は悪戯が好きなようだ。なんておかしなことを考えながらしばらく進んだ先でのんびり歩いていた伊井野と遭遇し、無事に怒られることもなく五限目の授業を迎えるのであった。
最後の方、「また後で聞かせてね」と言ってくれたことがとても嬉しかったのは本人には内緒にしておこう。
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