髑髏

@23922392

第1話

 己を叱咤激励したいと想うが、少々気が引けてしまい、それはでき兼ねる。草いきれする土手に座り込みながら、空を眺めて感慨に耽ける。その出来事に嘘を孕みながら。

 学校とはこうも楽しい物なのか…と心の半紙に書きしたためる。それは滲むこと無く、色鮮やかに且つモノクロに映えてゆく。鬱くしい色と評すればいいのか? それとも穢らわしい色と敢えて酷評すればいいのか? その行為の解は解らない。

 右膝を脱臼した高校2年の夏半ば。独り暗い部屋にテレビを点け、スマホの明かりとの交わりを眩しいと感じながら完治するまで待つ。

 学校に中学の頃は2週間行かなくとも何とも感じなかったが、今、たった数日行かないだけでどこか淋しい気持ちがフツフツと沸き立つ。不可解ではない、自分には解り得る事象である事は言うまでもなかった。

 私は漢字という物が好きであった。なぜ好きと問われれば、英語ではないから、としか答えようがないが、現代文が好きな私は漢字にも又魅了された。

 漢字を好きになったのも丁度中学2年の頃からだ。最初は『うつつ』や『秋桜コスモス』という風な比較的書きやすい漢字で構成された難読漢字を憶えようと尽力した。時間は数多あったのだから。

 けれどもけれども、飽きは不意に来るものである。次は『鞦韆ブランコ』に『麵麭パン』、『薔薇バラなどの単純に難しい漢字を好む様になっていた。それを憶える為に何度書き綴った事か。

 それでも飽きはやってくる。最終的に辿り着いた地点は『巷』『鞄』『菖蒲あやめ』であった。これらに共通していた事は漢字で書かれる事が多いという事であった。実用的な漢字を憶える事に注力していった結果、今では読めない常用漢字は殆ど無い程まで成長した。

 暇過ぎる毎日なのに、中学の頃はやる事が山ほどあった。なぜ地球は回転しているの? なぜ人間は白目が有るの? ベクトルって面白い! 楽しい毎日であった。人と接する事はほぼ無く、自分自身に酔いしれ惚れる事に酩酊していたのだ。

 なのに今、その知識を活用する事も応用する事もない。夏であるのに、夏だっていうのに、部屋に居ても、家から出なくとも何とも思わなかったのに今回ばかりは辟易してしまう。

 昔の自分に戻るのがある意味恐い。悠悠自適に過ごせる今よりも、自由奔放であった過去に寄り縋る。まるでノスタルジアだと嘲り笑いたい。

 カーテンを閉じていても判ることは在る。上階の足音、外での工事に因る騒音、燥ぐ太陽。そんな事は外に出なくとも判るコト。視覚・聴覚・嗅覚で状況は判断できる者。人間に備わった五感を滞りなく操る事が出来ているが故に、歩みを止める。

 漢字も近年書けない子が増えてきたとの情報を奪取ダッシュした。それでもそれは仕方がないのかもしれない。智識はそう容易く手に入るものでも、奪い取れるものでもない。

 私自身、英語をしなかった事を後悔している。何故しなければならないのか解らない中学の頃だったが、現在は漢字を識る為に必要不可欠である事を理解した。

 物事を別視点で見ることがその頃は足りていなかった。高校1年の初めての英語のテストの大問1はアルファベットを書く事であった。それはそれは難儀なものではなかった。なのに、その後のbe動詞や冠詞などになってくるや否や、難易度は跳ね上がる。

 何とか突破したとて、英訳和訳の壁が立ち塞がる。そこで思い知らされた。漢字に種類がある様に英語にも種類があり、それを当て嵌める時に適当な物を言い当てるには漢字を知らなければと、逆もまた然りで。

 今を慟哭ドウコクする事は恥ずべき事だと思ってしまった。自分を憂いてばかりでは昔の自分そのモノ。

 文章を書くのは苦手である。人に伝える事は己自身が理解するよりも遥かに難しい。

 時刻は申の刻に突入した。外は未だに明るく、燦燦としていて、威風堂々なその方は私を視る事は決してない。朴念仁なその方は私が視ると金環日食して立ち止まる。

 夜になるまで後数時間。永いと想うが、短いと思う方が余っ程、堅実的で素晴らしい。それが出来るのはラプラスの悪魔くらいしか居ない事もまた、言うまでもないが。

 重い脚を動かさない様に松葉杖を地面に付きながら歩く。は私に呪いを掛けたのかも痴れない。

 早く早く早く治して若返らなければ。思考は丿乀へつほつとさせていくと共に。

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