不死身

「それで、教えてくれるんだよね?」

「うん。もちろん」

 桜が散り、少し寂しくなった飯縄公園のベンチに座る蓮に尋ねる。

 彼が言うにはここで寝泊まりしているらしい。

 でも、ホームレスではないらしい。どういうことだろうか。

 そこも気になるが、それよりも気になるのが生き返ったことである。

「僕、何歳に見える?」

「え?何歳か?普通に15か16じゃないの?」

 彼は高校一年生として高校に転校してきたのだ。それ以外に何かあるというのだろうか。

「ぶっぶー。ハズレ。僕の年齢は158歳でした」

「は?158?」

 桁外れの年齢を言われ、私の思考はストップする。

「こう見えて、日清戦争にも日露戦争にも第一次世界大戦にも日中戦争にも太平洋戦争にも参加しているんだよ?戦争マスターって呼んで」

「え?え?え?」

「まぁ、混乱するのも仕方ないよね。はい。飲み物」

 私は蓮から貰った飲み物を一気に口に流し込む。

「ぶー!」

 そして吐き出す。

「なにこれ!?」

 クソまずかった。人間の飲み物とは思えなかった。

「なにこれとはひどい。僕が生まれたくらいのときの飲水よ?」

「え?こんなん飲んでたの?」

「ひっど。僕はよく飲んでいたのに」

 蓮は私の手から飲み物を奪い、口つける。

 あ……間接キス。

「……あれ?こんなにまずかったっけ?」

 そして蓮がすぐさま吐き出し、首をかしげる。

「いや!結局まずいの!」

「あれー?技術の進歩ってすごいんだね」

 蓮はうんうんとうなずき、飲み物を懐にしまった。

 え?いや、え?懐にしまったって、え?制服の懐にペットボトルが入るの?というか、膨らみも見えないのだけど。

「で、落ち着いたね?」

「あ……いや、落ち着いたと言うか落ち着かされたと言うか?」

 正確に言うと、また一つ混乱の種があったのだが、それを言うと話が長くなりそうなので、一旦放置する。

「落ち着かされたって何さ。まるで僕が強制したかのようじゃんか。もう!で、僕の年齢のことだけどね。僕、15歳のときに体の成長が止まり、なんやかんやあって今もしぶとく生きているわけ。いわゆる不死身って奴?」

「……そんなことが!」

 正直に行って不死身で150年以上前から生きていると言われても実感がない。というか、一応オカルト部に所属している私としてはそのなんやかんやのところを聞きたい。

 しかし、いくら不老不死が信じられなくても私は2度も彼が死ぬところを見ているのだ。

 信じるほかはない。

 蓮が不死身であることを。

「説明終了。何か質問は?」

「蓮が不死身だという事はまぁ、わかったわ。それでもなんでビルから飛び降りたり、私に殺すように頼んだりして、死のうとするの?」

「ん?あぁ、生を実感するため」

「生、を?」

 蓮の答えに私は首をかしげる。

「そ。死ぬことは生きていないとできない。だから、死ねば今日も自分が生きたんだ、って実感が湧くの。そうでもしないと心が死んでしまうから」

 蓮が少し寂しそうに笑う。

「心が、死ぬ」

 その言葉を聞いて、私の中で何かがうごめく。

 心が死んでいたのなら、自分の心を自分自身で押しつぶしながら生きて、それはもう生きていると言えるのだろうか。そんな生に生きる価値なんてあるのだろうか。

「そう。だから、僕はこうして死を望む。死だけが僕に生を与えてくれる。死こそが生きた証になる」

「そ、っか」

「他に聞きたいことはあるかな?」

「……」

 聞きたいこと。……あ。

「ここに住んでいるってなんだったの?」

「あぁ、単純だよ。僕がここの神社の神なんだ」

「え?えぇぇぇぇえええ!」

 神と言われて驚きの声をあげる。

 しかし、蓮が不死身なのは、神だからというのなら驚きだ。

 ちなみにだが、ここ飯縄公園の隣に飯縄神社があるのだ。

「ほら、神木あるじゃん?樹齢450年の。あれに認められた人がこの神社の神となるの。僕の前にも神様が代々いたんだよ。どうやら僕が不死身だから神木にひと目置かれたようでね。ここの神に選ばれると、特別な部屋が与えられるんだよ」 

「へ、へぇ」

 こんな辺鄙な神社に本当に神がいたとは驚きである。

 というか、神様だから不死身なんじゃなくて、不死身だから神様になれたんだね。

「じゃあ、こんなところかな?聞きたいことは」

「うん」

「じゃあ、またね。家まで送っていこうか?」

「いや、大丈夫。家から近いから」

「ふーん。じゃあ、明日の朝。ここに来てよ」

「え?」

「一緒に学校に行こ?そして、僕を殺して?」

 彼が魅惑的に笑う。

「ごく」

 私は無意識のうちにつばを飲み込む。

「じゃあねー」

 蓮は私に向けて手を振り、そして目の前から消えた。

 ……もうなんでもありなんだろうか。

 今日は色々あって疲れた。家に帰ってベッドに飛び込みたい気分だった。

 私は家の方へと足を向けた。

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