―82― それぞれの思惑
卒業シーズンが迫ってきた。
3年間通っていた学校も15歳になれば、強制的に卒業させられる。
昼は学校に通い、帰ったら悪魔たちと共に魔術の特訓をする。
そんなサイクルをここ数日繰り返していた。
マルコシアス以来、新しい悪魔を召喚していない。
クローセルやフォカロルに聞いたら、まだ召喚していない悪魔のほとんどはマルコシアスのように好戦的な者ばかりらしく、召喚すると同時に襲ってくる可能性が高いんだとか。
「今のご主人様なら、難なく撃破できる思いますが」とフォカロルは言っていたが、それは買いかぶり過ぎだ。
悪魔は恐ろしく強い。マルコシアスのときのようにうまくいくとは限らない。
だから、今の力でも十分戦えるように、特訓していた。
なにせ、魔術の特訓はとても楽しいから、苦ではない。
「そういえば、明日〈最後の宴〉が行われるんですよね」
夕食時。クローセルがふと、そんなことを呟く。
「なぜ、知っているんだ?」
「妹さんから聞きました」
そういえば、ネネのやつこの前、家に遊びに来ていたな。
「えっと、学校の卒業間際に行われるテストみたいなものだよ。このテストの結果で、どこの学院に入学できるか決まったりする大事な試合」
「ノーマン様も出るんですか?」
「もちろん出るけど」
「わぁっ! ぜひ、応援に行きたいです!」
「ご主人様の戦い、大変興味があります。この目で見てみたいものです」
「わたくしも応援にて、微力ながらも尽力したい所存であります!」
クローセル、フォカロル、オロバス3人とも見に行きたいと主張した。
こうなることが予想できたから、内緒にしていたんだけどなー。
「わかったよ。ただし、どんな理由があっても生徒に手を出すのは禁止だからね」
「はい、わかりました」
「承知致しました」
「マスターのご命令とあれば、この命に賭けて守る所存であります!」
「特に、クローセル。前科がある分、気をつけてよ」
以前、リーガルと決闘したときクローセルの介入で決着ついたことを念頭に、そう注意する。
「うっ、ちゃ、ちゃんと気をつけます」
「堕天使。一体、なにをやらかしたんですか……」
そういえば、あのときはまだフォカロルを召喚していなかったな。
にしても、もう卒業間近なのか。
一年前は、魔術を一切使えず、皆に馬鹿にされ、父親には失望された。
それから、初めて悪魔を召喚してから、半年以上の時が流れた。
悪魔を召喚してからの日々は随分と濃厚だったように思える。
その集大成が、明日行われる〈最後の宴〉なのかもしれない。
「楽しみだな」
ふと、そう呟く。
魔術が最も輝くのは、戦いの場だ。
明日の決戦では、皆が自慢の魔術を披露する。
一体、どんな魔術が見られるだろうか。
それが、今から楽しみで仕方がない。
◆
「ディミト、明日の〈最後の宴〉わかっているよな?」
エスランド家の食卓はピリついた空気が流れていた。
「えぇ、もちろんわかっていますよ」
そんな中、ディミトは笑う。
「明日は優勝しか許されない。そのことを肝に銘じとけ」
「だから、わかっていますよ」
ディミトはなおも余裕そうな笑みを浮かべて笑っていた。
「なら、いいが」
と言いながら、エスランド家の主でありノーマンにとって父親にあたるマークス・エスランドは息を吐いた。
実の息子を追い出し平民を養子にしたという事実は、マークスが思っていた以上に世間の風当たりが強かった。
貴族というのは、どうしても平民に対して差別意識が残っている。
だから、平民を養子にとったという行動は周囲から煙たがられてしまうのは仕方がないことだった。
そんなわけで、マークスの行動が正しかったと証明するには、〈最後の宴〉におけるディミトの優勝が必要不可欠だ。
ディミトの圧倒的な実力を見れば、誰も文句を言えなくなる。
「そういえば、ノーマンも明日の宴に参加するみたいですよ」
「なに――?」
マークスは眉をひそめる。
なぜ、魔術が使えない無能の息子が〈最後の宴〉に参加するのか理解不能だ。
「どうやら彼、少しは魔術使えるみたいですね」
「なんだと!?」
思わず声を荒げてしまう。
ずっと魔術が使えなかった息子で、今になって使えるようになっただと? そんなわけがあるか。
「それは本当か?」
「さぁ? 僕はこの目で確認していないので、真偽の程はわかりませんね」
実の息子を追い出したというのは、世間体がよろしくない。
だが、一方同情的な声もあった。それは、息子が魔術を使えなかったから仕方がないといったものだ。
そのはずなのに、ノーマンが魔術を覚えただと?
そんなことあっていいはずがない。
「おい、ディミト。ノーマンを徹底的に打ちのめせ」
「ええ、もちろんそのつもりですよ」
もし、本当にノーマンが魔術を使えたとしても、ディミトが圧倒的な力でねじ伏せれば、なにも問題ないはずだ。
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