―61― 交錯

 困った僕はある悪魔を召喚することにした。


「フルカスさん、お久しぶりです」


 序列50位、フルカス。

 僕が一番最初に召喚した悪魔で、僕にいろんなアドバイスをしてくれた悪魔でもある。

 今回もフルカスさんにアドバイスをいただこうと思い、こうして召喚したわけだ。

フルカスさんはいつも通りのヨボヨボな爺さんの姿をして、錆びた槍と弱々しい馬を連れて召喚された。



「わしを召喚するということは、なにか困りごとかのう?」


 どうやら、フルカスさんには見抜かれているらしく、そう言って笑った。


「ええ、実はその通りでして……」


 それから僕はオリアクスに関する一連の経緯を説明した。

 占星術を学ぶために、オリアクスを召喚したこと。

 その取引して、オリアクスはミナグロスさんを殺したいとう願望を述べたこと。ミナグロスさんと実際に話してみて、僕としては殺してほしくないと思ったことを口にした。


「ふむ、なるほどのぅ……」


 説明を聞き終えると、フルカスさんは目を閉じじっと考える仕草をした。


「オリアクスはお主が思う以上に、聡明な悪魔じゃ。きちんと説明すれば、お主の考えは伝わると思うが、どうじゃろうか?」

「そうですか……」


 オリアクスがミナグロスさんを殺したいという願望は、僕が説得したところで消え失せることはないと思ったが、フルカスさんがこう言うってことは、実際には説得はそう難しくないんだろうか。


「どうじゃ、納得できぬか?」

「いえ、お互いが納得するには、ちゃんと話し合うしかないと思うので、やってみようと思います」

「そうじゃのう。何事もやってみないことはわからぬからの」


 そう言って、フルカスさんは満足そうに頷いた。


「それにしても、随分様々な悪魔から信頼を得ているようじゃのう」


 そう言ったフルカスさんの視線は僕の後ろに立っていたフォカロルとオロバスを向いていた。

 目線があうと、フォカロルとオロバスはフルカスさんに対してお辞儀をする。


「いえ、僕が悪魔たちに助けてもらっているばかりで、僕自身はなにもしていないに等しいですよ」

「ふむ、悪魔に助けてもらうのにも、才能と努力が必要じゃ。下手に悪魔の力を借りると、巡り巡って自滅しまう者も中にはいる」


 ふと、フルカスさんの言葉がどこかで聞いたような違和感を覚える。

 あぁ、そうだ。

 ミナグロスさんが言っていたじゃないか。


「その自滅って、魔人のことですか?」


 下手に悪魔の力を借りてしまうと、悪魔に取り憑かれては魔人となってしまうと、ミナグロスさんは言っていた。


「あぁ、そうじゃ、中には魔人になってしまう者もおるのう」

「それって、僕でも魔人になる可能性があるってことなんですか?」


 もし、僕でも魔人になることがあり得るというのならば、対策をする必要があるが。


「いや、お主なら問題ない。お主は、悪魔の力を自分の体に取り込んでも、コントロールすることが可能であるからな。魔人は、悪魔の力をコントロールできない者がなってしまうのじゃ」


 言われてみれば、僕は降霊術を用いて、悪魔の力を自分の中に散々降ろしていた。

 それで問題なかったってことは安心していいのだろう。


「色々と教えていただきありがとうございました」


 フルカスさんから一通りお話できた僕は、お礼を口にした後、フルカスさんを退去させる。

 そして、次に僕はオリアクスを召喚した。


「どうやら決心がついたようであるな」


 召喚されたオリアクスはそう口にする。


「その、ミナグロスさんについてなんですが……」


 それから僕はミナグロスさんに実際に会って、感じたことを説明した。


「その、彼女は反省もしていますし、悪意があって殺したわけではありません。それに、わざわざ殺さずとももうすぐ寿命でお亡くなりになると思うんです。だから、殺すことに意味がないと僕は思うんですが」

「ノーマン殿の考えはよくわかった」


 どうやら僕の考えはちゃんと伝わったようだ。


「だが、これはそう単純な話ではないと思わぬか、ノーマン殿」


 そうだよなぁ。

 簡単に感情に折り合いをつけることができるなら、この世に憎しみや殺意なんてものは芽生えないはずだ。

 やはり、僕の説明じゃ、そううまくはいかないか。


「とはいえ、ノーマン殿の意見を無下にするつもりはありませぬ。なので、ここは一つお願いがあるのですが」

「えっと、なんでしょうか?」

「ミナグロス殿に、直接会わせていただきたい」

「まぁ、それぐらいなら」


 もし、オリアクスがミナグロスさん会ったことで、殺意が芽生え殺そうとしたときは僕たちはとめればいい。

 そう思って、僕は承諾した。


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