―59― 道中

「オリアクスの言っていたことは本当だとこれで確認できたな」


 翌日、オロバスが探してきた新聞記事を見て僕はそう呟いていた。

 その新聞記事は60年前のもので、たしかにある一人の男が悪魔と契約したという理由で火あぶりの刑にされていた。

 にしても、火あぶりの刑って。

 僕も悪魔をたくさん召喚しているのがバレたら、おんなじ目にあうんだろうか。

 気をつけないとな。


 事実確認もとれたことだし、オリアクスの殺したい相手だというミナグロスさんに会いに行ってみようか。

 そんなわけで、フォカロルとオロバスを引き連れて、馬車で移動をする。

 オリアクスはあえて召喚しない状態で、ミナグロスさんに会うことにする。

 下手に引き合わせると、オリアクスが感情的になってしまい、ミナグロスを真っ先に殺しにかかってしまうかもしれない。

 だから、まずはオリアクスがいない状態で、ミナグロスさんに会ってみて、その上で判断したいと思ったのだ。



「あの、フォカロル。少し、近い気がするんだけど……」

「いえ、ご主人様の気のせいかと」


 馬車内にて、隣に座ったフォカロルがなぜかに僕にぺったりとくっつくように座るのだ。

 ちなみに、オロバスは対面に座っては外の景色を鼻歌まじりに楽しんでいた。


「いや……そっち側十分空いていると思うんだけど」

「例え空いていたとしても、わたしが座る位置は変わりません」


 どういうことだよ!

 フォカロルにこうしてくっつかれると、フォカロルの柔らかいアレがさっきから腕に当たって、すごくむず痒いんだけど。

 だから、離れてほしいんだが。

 とはいえ、僕が言ったところで聞き入れてもらえないようなので、仕方なくこの状態を受けいれることにした。


 馬車の中で揺れること半日、ミナグロスさんがいると思われるバルベルベ家の屋敷に来ていた。

 大きな豪邸だ。さすが、魔術の名家といったところか。

 しかし、こうして足を運んだはいいが、どうやって、ミナグロスさんに会えばいいのだろうか。


「ご命令とあれば、裏手から無理矢理侵入するお手伝いをしますが」

「わたくしもマスターの命令とあれば、扉を壊してみせましょう!」


 うちの悪魔たちは随分と暴力的だと思わないこともない。


「ひとまず、表から訪ねてみようか」


 それでダメだったら、また考えればいい。


「えっと、どちら様でしょうか?」


 屋敷の門で中の様子を伺っていると、使用人らしき女性が話しかけてきた。


「えっと、エスランド家の長男坊のノーマン・エスランドという者なんですが」


 ホントは家を追い出されたので、エスランド家を名乗ってはいけないのだが、貴族であると主張したほうが話も通じやすいだろう。


「はぁ、エスランド家の方がどのような御用で?」

「その、ミナグロス婦人に直接ご面会したく思いまして、こうしてうかがったのですが……」

「えっと、事前にアポイントはされてますか?」

「いえ、してないです」


 そうだよな。普通、貴族に会うとなれば、事前に手紙でも送って約束をとりつけておくのがこの世界の常識だ。


「それですと、難しいかと……」


 使用人が申し訳なさそうに、そう言う。

 んー、やっば難しいか。


「そこをなんとかお願いできないでしょうか」


 とはいえ、こっちも簡単には引き下がるつもりはない。

 だから、僕は頭を下げてお願いする。


「え、えっと、そんな頭を下げられても困ります!」


 と、使用人は慌てた様子でそう口にする。

 ちなみに、横でフォカロルが「ご主人様が頭まで下げているというのに、許可しないとはとんだ無礼者ですね」と言って舌打ちしていた。

 悪魔が普通の人には認識できなくてよかった。


「どうかしたの?」


 ふと、横から第三者による声が聞こえた。

 見ると、そこは白銀に輝く髪を持った少女が立っていた。


「あっ、ニーニャ様……その、えっと……」


 使用人の態度から察するに、この少女はこの屋敷に住む貴族の一人だろう。


「あの、ノーマン・エスランドと申します。そのミナグロスさんになんとか面会させてもらえないでしょうか!」


 なので、僕は銀髪の少女に向けてお願いをした。


「おばあちゃんに……?」


 と、少女は困惑した様子でそう口にする。

 どうやら、この少女はミナグロスさんのお孫さんのようだ。


「おばあちゃんになんの用なの?」

「その、禁術とされている悪魔について個人的に調べていまして、60年前の事件について、ミナグロス婦人からぜひお話を伺いたかったのですが」


 あらかじめ考えておいた理由を口にする。とはいえ、こんな理由では会わせてもらうのは難しいだろうが。


「60年前の事件……」


 なにか思うところがあったのか、少女はそう呟いては顎に手をそえる。


「おばあちゃんに直接あなたを中に入れていいか聞いてくる。だから、そこで待っていて」


 というと銀髪の少女は屋敷の中に入っていった。

 そして、5分後。


「彼を中にいれてあげて」


 戻ってきた銀髪の少女が使用人に対し、そう命令する。

 意外にも僕は中に入ることが許されるらしい。 


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