―54― ハグ

 クローセルとヴァラクを退去させたあと、気を取り直して、まずはフォカロルを召喚することに。


「――我は汝をノーマンの名において厳重に命ずる。汝は疾風の如く現れ、魔法陣の中に姿を見せよ。世界のいずこからでもここに来て、我が尋ねる事全てに理性的な答えで返せ。そして我が願いを現実のものとせよ。来たれ――第41位、フォカロル!」


「お久しぶりです。ご主人様」


 ぺこり、と現れたフォカロルがお辞儀する。


「あの、フォカロル。召喚してすぐでこんなことを言うのは申し訳ないんだけど――」


 それからフォカロルに説明した。

 錬金術を学ぶのに2人の悪魔を召喚するので、フォカロルにはまた退去してもらいたいってことを。


「そうですか。ご主人様のお願いなら仕方がありませんね」


 と、一見平静を保っているように見えるが、よく見るとわずかに頬が膨れていた。


「もしかしなくても怒っているよね?」

「わたしがご主人様に怒るだなんて。そんな失敬なことするはずがありません」

「いや、でも表情にめっちゃでているし」

「むぅ……おっと、わたしとしたことがつい感情を表に出してしまいました。わたしは天使のごとく感情のない従者でないといけないのに」

「もう怒っているの隠す気ないじゃん」

「むぅ……それでしたらご主人様にお願いがあります。わたしのこの無礼な怒りを抑えてください」


 怒りを抑えてください、って言われてもな。


「なにすればいいのか、検討もつかないんだが」

「そ、その……いつもクローセルがやっているようなことをわたしもしてみたいです……」


 と、フォカロルが恥ずかしそうにそう主張した。

 いつもクローセルがやっていることってなんだろう?

 考える。

 もしかして、あれのことか?


「その前にオロバス。あなた、この部屋から出ていきなさい」

「な、なぜでしょう!?」


 ずっと隅で黙っていたオロバスにフォカロルが眼光を向ける。


「お願いだからオロバス、少しでいいから部屋の外に行ってくれないか」


 今はフォカロルの機嫌をとる時間だ。

 フォカロルの願いはできる限り実現させてあげたい。


「ははーっ、マスターのご命令とあれば、わたくしどこへでも行く所存です! それは例え、火の中、海の中だとしてもーっ!」


 とか言って、オロバスは勢いよく部屋の外に出ていった。


「それでフォカロル、お願いのことなんだが」

「はい」

「もしかしてクローセルがよくやっているハグのこと?」


 コクリ、とフォカロルが無言で頷く。

 わずかだが、フォカロルの頬が朱色に染まっていた。


 抱きついてきたクローセルをフォカロルが引き剥がすって光景を何度も見てきたが、まさかフォカロルにそんな欲があったとは。


「えっと、じゃあ、はい」


 言いながら僕は手を広げる。

 なんかすごく照れくさいな、これ。


 すると、フォカロルの方もギュッと包み込むように僕に抱きついてきた。

 身長差的にフォカロルの胸がちょうど僕の顔に当たる。

 あ、やばいな、これ。


「わたしはご主人様に仕えたい一心ですので、どうかそのことを忘れないでください」


 ふと、耳元でフォカロルがそう呟く。


 それがひどくむず痒かった。


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