―53― 相談

「錬金術を悪魔に教えてもらおうと思う」


 学校から帰ると早速僕は行動に移した。

 部屋にはオロバス、クローセル、ヴァラクの3人がいる。


「それで錬金術に詳しい悪魔を教えて欲しいんだけど」

「錬金術ですか……」


 クローセルはそう言って、顎に手をそえる。


「はいはーい、ヴァラクちゃん錬金術に詳しい悪魔に心当たりあるのー!」


 ヴァラクが元気よく手をあげてそう主張する。

 クローセルの前だからなのか、いつになくヴァラクは猫をかぶっているご様子だ。


「ぜひ、教えてほしいな」

「えーっ、どうしようかなーっ? ヴァラクちゃんが持っている情報、教えるかどうか悩んじゃうなーっ」


 とか言ってヴァラクはいたずらな笑みを浮かべる。

 素直に教えてくれたらいいのに。

 なんか面倒だな。


「えっと、情報の対価としてなにか褒美でもやったらいいのか?」

「別にヴァラクちゃんはそこまで欲深くないしー。ただ、言って欲しい言葉があるかもーっ」


 そう言ってヴァラクはスカートの裾をつまみポーズをとる。

 言って欲しい言葉?

 やばい、さっぱり検討がつかない。


 ヴァラクのポーズになにか意味があるのかな? と思いじっくりと観察する。

 あれ? ヴァラクの格好が昨日と違うな。

 ヴァラクはいつもの服装と違い、フリフリの多いワンピースを着ているような。

 待て、いつもと違う服装……?

 霊体である悪魔がなんで他の服装に着替えられるんだ?

 って、よく見たら、今のヴァラク実体化しているんじゃん!

 ということは、実体化することで新しい服に着替えたというわけで……。


「もしかして、俺の金を使って、新しい服を買ったのか……」


 確かに、学校に行っている間、クローセルとヴァラクが買い物に行くと言っていた気がする。

 買い物を含めた家事のほとんどは悪魔たちにまかせているため、そのときはなにも思わなかったが。


「んもーっ、そんなことはどうでもいいでしょー! それより、ほら、いつもと違うヴァラクちゃんを見て、言うことがあるでしょう」

「えっと、かわいい……?」

「でしょう! ヴァラクちゃんは世界一かわいいんだから!」


 ヴァラクは手鏡で自分の姿見て、キャッキャと騒いでいた。

 どうやら正解は『かわいい』であっていたようだ。

 って、そんなことよりもヴァラクが金を使って、新しい服を買ったことを問い詰めなくては。

 お金は家を追い出されたときに、父さんから最低限もらったのしかなく、日々の食費で減っていく一方だというのに。


「おでかけはクローセルも一緒に行ったはずだよね」


 と、もう一人の悪魔に話しかける。


「ど、どうやら、わたしの知らない間に勝手に購入していたようです……」


 クローセルは冷や汗を垂らしながら、そう口にした。

 そういうことなら、クローセルはなにも悪くないな。

 ちなみに、ヴァラクはというと未だに手鏡を手にしながら、自分の姿にうっとりしている。


「ヴァラク」


 と、呼んだところで僕の声は聞こえてないようで、こっちを振り向きもしない。

 それを見た、オロバスが指を鳴らしながら、こう口にした。


「マスター、命令さえあれば、不届き者を極刑に致す準備はできております!」

「ひぐっ、魔界だと服とか買えないから、つい調子乗って買っちゃっただけだし……だから許してほしいかも」


 オロバスの言葉が響いたようで、ヴァラクは涙声でそう弁明した。


「気持ちはわかるけど、そんなにお金があるわけじゃないからさ。余計なものを買われると困るんだよね……」

「ご、ごめんなさい……」


 反省しているので今回は許すとしよう。

 実際、このままだとお金はなくなるから、金策はする必要はあるんだよな。

 うーん、なにか解決方法があればいいんだけど。

 まぁ、そのことはあとで考えるとしよう。

 今はそれよりも。


「それで、錬金術に詳しい悪魔ってのは誰なんだ?」


 まずは錬金術を覚えることが先決だ。


「それは序列28位ベリトなの!」


 と、ヴァラクがころっと表情を変えて、そう主張する。


「え? そっちですか?」


 ふと、クローセルが疑問を呈した。


「違うのか? クローセル」

「いえ、わたしの中で錬金術の得意な悪魔といえば序列61位ザガンさんのイメージだったので」

「どういうことだ? ヴァラク」


 僕はヴァラクのほうを見る。


「ヴァ、ヴァラクちゃん嘘ついたわけじゃないし! 言われてみればザガンも錬金術が得意だったかもしれないけど……」

「そうですね。確かにベリトさんも錬金術が得意だとおっしゃっていたような気がします」

「そうなのか……」


 序列28位ベリトと序列61位ザガンか。

 まぁ、錬金術が得意な悪魔が2人いても別におかしくないか。


「どっちを召喚すればいいかな?」

「んー、特別親しいわけではないのでそこまでは……」

「ヴァラクちゃんもわかんないのー」


 2人とも首を傾げる。


「オロバスはなんかわからないの?」

「わたくし、全く力になれそうにありません!!」


 とか言って、オロバスはその場で崩れ落ちた。

 まぁ、ずっと黙ってたんで、恐らくそうなんだろうな、と思っていたけど。


「なら、どっちも召喚するか」


 と、結論を出す。

 どっちを召喚すべきかわからないなら、どっちも召喚してしまおう。

 我ながら頭がいいな、と自画自賛してみる。


「えーっ! そうすると、わたしが退去しなきゃいけないじゃないですか……」

「だったら、ヴァラクちゃんとクローセルちゃんどっちも退去させてほしいの!」


 残念そうにするクローセルとは対照的にヴァラクは嬉しそうだ。

 実際、オロバスが退去できない事情があるので、そうなると必然的に退去するのはクローセルとヴァラクになる。


 あとフォカロルと、オロバスを見つけたら召喚するって約束していたな。

 一度フォカロルを召喚して事情を説明したあと、フォカロルに退去してもらうって感じになるか。二度手間にはなるが約束は守ったほうがいいだろう。


 よし、方針も決まったことだし実行にうつろう。


「――汝、第49位クローセル、第62位ヴァラク。汝たちは我が要求に熱心に答えたので、我は汝に適切な場所へ退去するのを許可する。汝は我が魔術の神聖な儀式により召喚し呼んだらすぐにまた来るように準備し続けよ。我は平和的に静かに退去するよう命ずる」


 一度の退去の呪文で、2人同時に退去できるか試してみた。


「また、すぐ召喚してくださいね!」

「ばいばーい!」


 無事、退去は成功したみたいで2人とも言葉を残して退去していった。

 ふと見ると、ヴァラクの着ていた服が床に落ちていた。こっちで買った服はどうやら魔界には持ち帰ることができないのか。

 あいつ、ホント余計なことしかしないな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る