―52― 特訓

「こっちはいつでもいいよ」

「では、わたくしもいつでも問題ありません」


 翌日、僕はオロバスと原っぱで対面していた。

 その様子をクローセルとヴァラクが横で見ている。


 これからなにをするかというと、魔術の戦いだ。

 今の僕は、最近やっと魔術を使えるようになったばかりってこともあり、そこまで強くない。

 リーガルとの決闘はクローセルの介入で運良く勝てただけだし、先日の火口岩龍デルクレータードラゴンとの戦いでも、僕はなにもできなかった。

 あのときはオロバスが助けに来てくれなかったら、命が危なかった。


 そういうわけで、オロバス相手に戦いの訓練を始めようと思った次第だ。

 もちろん、以前みたいにオロバスが本気を出せば僕なんて一撃で撃沈してしまうから、手加減はしてもらった上で。


土巨人の拳ピューノ・ギガンテ


 そう言って、地面から土製の拳を生成してはそれで、攻撃する。


「ふんっす!」


 だが、オロバスが鼻を鳴らしながら、拳を叩き込むだけで土巨人の拳ピューノ・ギガンテはあっけなく壊れてしまう。

 それから、火炎球フエゴ・フラマ水の刃発射アグア・エスペイダを活かして攻撃を試みてみるが、全部オロバスに避けられてしまう。


 勝てる気がしないな……。

 てか、オロバスが強すぎるだけな気もする。


 ともかく、そんな感じで一日中、オロバスを相手にして特訓に励んでいた。





「あの、ルドン先生、相談があるんですが……」


 翌日、僕は学校に行っては先生のもとに訪ねていた。


「ふむ、相談とはなにかね?」


 先生はいつも通りの仏頂面で僕のことを出迎えてくれる。


「そのもっと強くなるにはどうすればいいのか、聞きたいと思いまして」

「ふむ、ノーマンがそんなことを聞いてくるとはな……」


 確かに、ほんの少し前までは魔術を一切使えなかった僕がこんなことを聞くのはおかしいのかもしれない。


「土の魔術は覚えたのかね?」

「はい、覚えました」


 そういえば、以前授業を行なったときは土の魔術が使えなかったことを思い出しながら、そう答える。


「ほう、見せてみろ」


 そう言われたので、僕は右手を前に突き出して詠唱する。


土よ起これポルボ


 すると、右手から砂がさらさらとこぼれ落ちてきた。


「そうか、ノーマンが4系統全ての魔術を覚えたか。感慨深いものがあるな」


 感慨深いと言いながらもルドン先生の表情は変わらない。

 ちなみに、4系統というのは魔術師にとって基礎となる、火、風、水、土の4つの魔術のことだ。


「とはいえ、これらは魔術師にとって、できて当たり前ですよね。だから、魔術をもっと極めるためにも、次のステップに進みたいんですよ」

「そうだな……」


 と言いつつ、ルドン先生は考える仕草をする。


「やっぱり僕も固有魔術を覚えるべきでしょうか」


 ふと、以前リーガルと決闘したときのことを思い出した。

 あのとき、リーガルが放った固有魔術に手も足もでなかった。クローセルが介入したおかげで、決闘そのものには勝ってしまったけど。

 僕に足りないのは、魔術を放つスピードな気がする。

 リガールの固有魔術、銀色の世界ムンド・デ・プラタは無数のナイフを作り出す魔術だ。

 あれを攻略するには、自分もたくさんの魔術を同時に扱う必要がある。

 それには、固有魔術で対抗するしかないような気もする。


「まだ、ノーマンには固有魔術は早いな」

「確かに、そうかもしれませんね」


 ルドン先生の言う通り、自然魔術しか覚えていない自分には早いか。


「そうだな、まずは錬金術を覚えるべきだ。余裕があれば、次に占星術と死霊術だな」

「まずは、錬金術ですか」


 確かに、錬金術は魔術師にとって、基本とされている分野だ。覚える必要はあるのだろう。

 錬金術も悪魔の力を借りれば、覚えることができるようになるだろうろか。


「それで、ノーマンは強くなってどうしたいんだ?」


 ふと、今度はルドン先生から質問が飛んでくる。

 どういう意図のある質問なのか、僕には把握できないが、素直に答えることにする。


「強くなりたいというか、魔術をもっと極めたいんです」

「魔術を極めたいか。なら、より優秀な学院を目指すべきだろう」


 優秀な学院か。

 確かに、優秀な学院に入れたら、それだけ魔術の真髄には近づけるはずだ。


「例えば、プラム魔術学院に入るにはどうしたらいいんですか?」


 プラム魔術学院。

 ここいらで最も優秀な人が通うことができる学院だ。

 誰もがその学院に入ることを憧れ、魔術の鍛錬をする。


 まぁ、学校で最底辺の僕にはプラム魔術学院の入学なんて夢のまた夢だってことは理解している。

 けれど、僕だってプラム魔術学院に入学できるなら入学したい。


「それなら、話は単純だ」


 そう言ったルドン先生は一拍置いてから、こう口にした。


「この学校は生徒同士の決闘を推奨している。それがなぜだかわかるか?」

「いえ、わかりません」

「それはプラム魔術学院が決闘主義だからだ。魔術で強いやつが一番えらい。それがプラム魔術学院だ」


 決闘主義。

 おもしろい、と僕はそう思った。


「まず、この学校で一番強くなれ。そうすれば自ずとプラム魔術学院への道が開ける」

「教えてくれて、ありがとうございます」


 僕は頭を下げた。

 ちょっと前まで、魔術を使えなかった僕が、プラム学院のことを聞いたところで、『お前にはプラム魔術学院は無理だ』と言われても、おかしくはなかったはずだ。

 けれど、ルドン先生はそんなことおくびにも出さず教えてくれた。

 そのことに僕は感謝する。


 学校で一番強くなれ。

 わかりやすくていいじゃないか。


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