―51― 説明
「まず、どちらから話を聞こうか」
部屋には、オロバス、ヴァラク、僕の3人が集まっていた。
クローセルには席を外してもらっている。
ちなみにクローセルに席を外してくれとお願いしたさい、
「えーっ、わたしもノーマン様と一緒にいたいのに、なんでのけ者にするんですかー」
と唇を尖らせるので、
「えっと、クローセルには食材の補充をお願いしたんだよな」
と、伝えたら「そういうことなら仕方がないですね」と言いながら行ってしまった。
この家の家事は悪魔たちにけっこう頼ってしまっている。
「まずはヴァラクから話を聞くべきだよな」
ヴァラクがなぜ、僕を殺そうとしたのか? その方が話題として重要な気がする。
ついでながら、オロバスには、ヴァラクが僕を殺そうとしたことについてはまだ伝えていない。
なので、このことはあまり無闇に広める必要はないかな、とオロバスにも席を外してもらおうかと考えたが、まだヴァラクに殺意がある可能性を考慮して、いざというときのためにオロバスには残ってもらうことにした。
仮にヴァラクが襲ってきても、オロバスがいれば安心だ。
「それで、なんでヴァラクは僕を殺そうとしたんだ?」
「なにぃ!? この小娘、わたくしのマスターを殺めようとしたですとぉ!? それはなんたる重罪! マスターが許してもこのわたくしが許しません! この小娘を今すぐ極刑にいたしましょう!」
なんかオロバスが張り切りだした。
やっぱ、この場にオロバスを参加させたのは失敗だったかな。
ヴァラクは「ひぐっ」と、涙目になって縮こまっているし。
「オロバス、いったん黙って」
「はっ、かしこまりました。わたくしマスターの許可がおりるまで、息さえ吸わない覚悟で黙っております!」
すると、オロバスは口をつぐんで直立した。
別に息は吸っていいんだけどね。
「別に極刑にするつもりはないからさ、理由を教えてくれないか」
優しく諭すような感じでヴァラクに話かける。
「だって……ノーマン様がクローセルちゃんを奪ったんだもん……」
奪った?
別にクローセルを奪った覚えはないんだが。
「ヴァラクちゃんの可愛い可愛いクローセルちゃんをせっかく大事に大事に愛でていたのに、ノーマン様に召喚されてから、クローセルちゃん全然魔界に帰ってこなくなったし。だから、ノーマン様を殺せばクローセルちゃんがまたヴァラクちゃんのものになると思ったんだもん!」
えっと、つまり……
「ヴァラクはクローセルのことが好きなのか?」
「す、好きとかじゃなくて……。ヴァラクちゃんはかわいいクローセルちゃんを愛でていたいだけなんだし!」
「ヴァラクも十分可愛いと思うけどな」
だから自分の顔を鏡で見て、それを愛でてればいいんじゃね? とか思った。
流石に暴論がすぎるか。
「ヴァ、ヴァラクちゃんが可愛いのはヴァラクちゃんが一番知っているし!」
とか言ってヴァラクは顔を真っ赤にさせながら後ずさりしていた。
なんか警戒されるようなことしたかな?
「ともかくそんな理由で死ぬのはごめんだ。それで、確認だがヴァラクはまだ僕に対して殺意を持っているのか?」
「もう殺そうとか、そんなつもり一切ないし」
ヴァラクはオロバスのほうを見ながらそう言った。
もしここでヴァラクが僕を殺す、と宣言したらオロバスが黙ってないだろうし、そんなこと言えるはずないか。
「けど、ヴァラクがクローセルと一緒にいたいという気持ちに変わりはないんだろ」
「そうだけど……」
「なら、お互い妥協できる案があればいいんだけどな」
このままヴァラクとクローセルを引き離したままでいたら、ヴァラクの不満がたまり再び僕を殺そうって考えにいたるかもしれない。
だから、なんとかしてヴァラクに不満がたまらないようにできたらいいんだが。
「1つお願いあるの」
「ん? なんだ?」
「ヴァラクちゃんを常時、召喚したままにしてほしいの」
「確かに、それならクローセルと一緒にいられるもんな」
けど、召喚できるのは最大3人まで。
今は魔界にいないフォカロルのことを考えたら、全員の要望通りにはいかない。
なんらかの対策を立てないとな。
「それは後で、クローセルも交えて相談しよう」
面倒ごとは後回しにして、次の話題に移る。
「オロバスしゃべっていいぞ」
「はっ、わたくししゃべる許可をいただきました!」
律儀にずっと黙っていたオロバスが口を開く。
「それでオロバスは今までどこにいたの?」
そう言うと、オロバスは汗を流しながら目を泳がせていた。
やましいことがあるときの反応だ。
「道に迷って帰れなかったんじゃないのか?」
「ええ、そうです! わたし帰ろうとしましたが、道がわからず迷っておりました!」
そっか、それはオロバスに悪いことをしたな、と思う。
「いましたよ。この家の近くに」
ぼそり、とヴァラクがそう言った。
「えっ? そうなの?」
「いえ、わたくしは道に迷い途方に暮れておりました!」
「むっ、ヴァラクちゃんの探す能力は完璧なんだし! だから、オロバスが家のすぐ近くにいるのはずっとわかっていたの! だから、なんでノーマン様がオロバスを探すのか不思議に思ってたんだから!」
「マスター! この小娘、虚言癖があるようです! 惑わされないでください!」
「ちょっ、虚言癖ってなによ! ひどい言い草にもほどがあるの!」
2人が言い合いを始める。
ふむ、どっちが正しいことを言っているのやら……。
まぁ、なんとなく察しはつくが。
「で、オロバス。なんで家の近くにいたのに、顔を出さなかったの?」
「ですから、わたくしは道を迷って――」
「オロバス、別に僕は怒っていないんだよ」
そう僕がいうと、オロバスは逡巡するような顔つきをしたのちこう言った。
「……はい、家のすぐ近くまで来ておりました」
「それで、なんで顔を出さなかったの?」
「戦闘時に眠っているという大失態を犯した手前、どういう顔をして会えばいいのか、このわたくしわかりませんでした!」
「まぁ、気持ちはわかるけどさ」
似たような経験誰しも一度は経験した覚えがあるだろう。
「わたくし、こたびの失態、マスターのご命令さえあればここで切腹する所存でございます!」
だから一々大げさなんだよ、オロバスは。
「何度も言うけど、本当に怒ってないからね」
「うぉおおおおおおおお、わたくしマスターの御心にいたく感動いたしました! わたくし、マスターがマスターでよかったです!」
とか言って、オロバスはその場で泣き始める。
ホント大げさなんだよな、オロバスは。
ヴァラクも、
「うわっ、めんどくさ」
とか言いながら、じと目でオロバスの様子を眺めているし。
「てか、
「いえ、わたくしあのときもこの家の近くにいました。気がついたときには、あの場にいましたが……」
「そうなんだ」
であれば、あの場にオロバスが現れたのがますます不思議である。
「恐らくオロバスの能力だと思うの」
と、ヴァラクが言った。
「そうなの?」
「わたくし、そのような能力に覚えはありませんが……」
「本人が自覚ないとか意味わかんないし」
呆れたとでもいいたげな調子でヴァラクがそう言う。
「まぁ、オロバスの能力ってなら納得だけど」
能力を予想すると、召喚者がピンチのときに現れて守るって感じかな。
実際、オロバスを召喚してから、命の危機を感じたのはあのときが初めてだし、あり得ないって話ではなさそうだ。
「話は変わるけど、この前アグレアスって悪魔からオロバスに言伝を頼まれたよ」
「ほう、言伝とはなんでしょう」
「『お前の上司が怒っているぞ。そろそろ戻ってきたらどうだ』ってさ」
そう言うや否や、オロバスの全身から汗がダラダラと流れてきた。
「わたくしのマスターはマスターただ1人! わたくしに上司のようなものは一切おりません!」
と、オロバスは主張するが、流石に嘘だってわかる。
オロバスの上司ね。
どんなやつなのか知らないけど、この件についても解決できたらいいんだが、流石に魔界のことは手が出しようがない。
とか、考えていたとき。
魔導書『ゲーティア』がカタカタと揺れ始めた。
急に揺れた『ゲーティア』を僕は思わず、落としてしまう。
見ると、『ゲーティア』はあるページを開いた状態で止まっていた。
――我を召喚しろ。
と、そのページには書かれていたのだ。
初めてみた現象に僕は困惑する。
ヴァラクとオロバスも気になったようで、近寄ってその内容を見た。
「魔界からの干渉かとヴァラクちゃんは思うの」
ヴァラクがそう言う。
へぇ、魔界からの干渉なんてあり得るのか。
けど、召喚されたがっている悪魔って、どういうことだろう。
「ひぃッ!」
なにかに気がついたオロバスが悲鳴をあげてのけぞった。
「マ、マスター、そ、その悪魔を召喚するのは、どうかおやめいただきたい!」
このオロバスの反応から察するに、
「もしかして、オロバスの上司?」
オロバスは無言で首肯する。
「大丈夫だよ、オロバス。召喚しないからさ」
そう言って、僕は『ゲーティア』を閉じた。
するとオロバスは「マスターありがとうございます!」と言って、また感激したのか泣き始める。
とりあえず、僕が召喚さえしなければ、オロバスの上司とやらが現世に干渉するのは不可能なので、さしあたっての問題はないだろう。
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