―49― ピンチ
「ヴァラクちゃんのために、ノーマン様には死んでほしいの」
そう言って僕を見下ろすヴァラク。
どういうことだ?
なんで彼女は僕を殺そうとしているんだ?
わからない。
けど、このまま火口に落ちたらマズいのだけはわかる!
だからとっさに掴んだ。
ヴァラクの足を。
「ちょ、なにヴァラクちゃんの足を掴んでんの!」
「いや、だってこのまま落ちたら死ぬし!」
「だから、ノーマン様を殺すためわざわざここまできたんだし!」
「なんで殺されなきゃいけないんだよ。意味わかんねぇよ」
「ともかくヴァラクちゃんの足から離れてほしいの!」
ヴァラクはそう言って俺が掴んでいる手をガシガシともう片方の足で蹴る。
痛い。めちゃくちゃ痛いけど、離すわけにいかない。
と、そのときだ。
「ごぉおおおおおおおおお!!!!」
後方から低い呻き声が。
見ると、
だから、さっきまでその存在に気がつかなかった。
「えっ?」
ヴァラクが声をあげる。
僕も異変にすぐに気がつく。
体が急激に重くなったのだ。
気がついたときには、ヴァラクの立っていた足場が崩れ、火口の中央まで引きずり込まれる。
「ぎぁああああああああ!!」
「うわぁあああああああ!!」
ヴァラクと僕はそれぞれ悲鳴をあげた。
「ごぉおおおおおおおお!!!!」
「やばいっ、あれに襲われたら死ぬ。お前悪魔なんだろ、なんとかしろよ!」
俺はヴァラクを盾にするように後ろに下がり懇願する。
「いや、ヴァラクちゃん、悪魔だけどそんな強くないし! ノーマン様がなんとかしてくださいなの!!」
今度はヴァラクが俺を盾にしようと後ろに下がる。
は? まじで、俺がなんとかしなきゃいけないの!?
「ぐぉおおおおおおおお!!」
「――
土の壁を盾になるよう前にだす。アクレアスさんから教わった魔術の一つだ。
おかけで火に襲われずに済んだ。
けれど、
「おい、逃げるぞ!」
咄嗟に僕はヴァラクの手を握り、その場から駆ける。
すると、さっきまでいたところに
「おい、ヴァラク! お前、飛んで逃げれないの!?」
「それができるなら、とっくにしているし! なんか、体が重くて全然飛べないの!」
言われてみれば、俺も体が重くてうまく走れない。
とはいえ、このまま火口から逃げられないなら、いつか詰む。
「ちょ、ノーマン様! 化け物がまたこっちにきているし! なんとかしてほしいの!」
「なんとかしろっていわれもな。やるしかないのかっ!?」
俺は立ち止まり、突進してきている
「――
5つの水の刃が
「ぐぉおおおおおおおおお!!」
すると水の刃は一気に蒸発されてしまった。
やばいっ、なんも意味がなかった。
「ノーマン様! もっと強い魔術ないの!?」
「んなこと言われてもなっ」
火を操るドラゴンなら水が弱いかと思ったことがそんなことはないらしい。
クローセルの操る水なら
ならば――
「――
アグレス師匠から受け継いだ俺の必殺奥義。
受けてみろ!
土から生えた2本の巨人の拳が
「ぐぉおおおおおおお!!」
あっさり、土の拳が砕かれたー!
「あれ以上強い魔術、俺にはないぞ!」
「そうなの!? ノーマン様、全然使えないし!」
そんなこと言われてもな。
てか、この状況を作ったのはお前だろ! 少しは反省しろ。
と、次の瞬間。
「ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
途端、
当然、俺たちは熱気に包まれる。
その熱気に押し潰された俺の体は後方へと吹き飛ばされる。
「ぐはっ」
背中を強く殴打してしまう。
「大丈夫か、ヴァラク」
ヴァラクの安否を確認しようと、俺は声をかける。
「ま、まずいかも……」
見ると、ヴァラクが足を怪我していた。
熱気と一緒に吹き飛んできた岩にでも当たったのだろう。
「立てるか?」
俺はそう言ってヴァラクに手を差し伸ばす。
「べ、別に一人で立てるし……」
ヴァラクは俺の手を借りず一人で立とうとするが、結局よろけてしまい地面にお尻をつけてしまう。
「無理をすんなって」
俺はそう言いつつヴァラクの手を握ろうとする。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
けど、そんなことしている場合ではないようだ。
ヴァラクを連れて逃げるだけの余裕はない。
くそっ、こうなったら迎えうつしかないのか。
「――
俺は
けれど、1つじゃ足りない。
「――
俺は何回も詠唱し、計5つの土の壁を縦に並べた。
けど、
勢いがとまる気配は全くない。
そして、最後の土の壁をぶち壊された。
――死んだ。
ふと、脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
せめてヴァラクを守ろうと、彼女の前に立つ。けど、こんな行動なんの意味もないだろ。
「悪い、ヴァラク」
ぽつりと、俺は呟く。
「なんで、ノーマン様が謝るんだし……」
なんともいいようのない表情でヴァラクがそう口にした。
くそっ、こんなところで僕は死ぬのか。
諦めと後悔が渦巻いた感情がぐるぐると僕の中を回っていた。
そして、
僕は目をつぶる。
そして、思った。
ここにオロバスがいれば、なんとかしてくれたかもしれないな、と。
と、そのときだった。
「マスタァアアアア!! わたくし、助けにまいりましたぁあああああああ!!」
は?
目を開けたら、なんかオロバスが目の前にいた。
え? どゆこと。
なにが起きたか、さっぱり理解できていなかった。
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