―47― 空の旅

「この山の火口に火口岩龍デルクレータードラゴンがいるのか」


 ガルラット山と呼ばれる大きな活火山のふもとまで来ていた。

 馬車で来れるのはここまでということなので、ここからは歩いていかなくてはならない。

 けど、ガルラット山は険しい山。

 道中、魔物と出くわす可能性もあるし、頂上まで行くのは流石に厳しいか。


「なぁ、ヴァラク。この山のどこにオロバスがいるのかもっと詳しくわからないのか?」


 例え頂上まで行ったとしても、そこにオロバスがいなければ骨折り損だ。

 オロバスのいる位置がもっとピンポイントにわかれば、と思う。


「うん、オロバスは頂上にいるのー!」


 と、ヴァラクが断言する。

 そうか、やはり山を登る必要がありそうだ。


「なぁ、この山。俺たちだけで登れるかな?」


 クローセルとヴァラクに意見を求めてみる。


「それでしたら、わたしが飛んで運びましょうか?」


 といってクローセルは天使の羽を広げる。


「そんなことできるの?」

「はい、できますよ」


 そっか、天使の羽があるならそれを使って飛ぶことはできるよな。

 あまりクローセルが空飛んで移動しているところを見たことがなかったので、その感覚が抜け落ちていた。


「けど、他の人に見られたらまずいよな」


 悪魔を使役してるなんて露見したらマズいことこの上ない。

 けど、パッと見クローセルは天使に見えるし、天使を使役していると誤魔化せばなんとかなるか? うーん、どうだろう。


「だったら、二手にわかれるのをヴァラクちゃんは提案するのー!」


 ヴァラクが手を上げて提案する。


「二手にわかれるってどういうことだ?」

「うんとね、ヴァラクちゃんがノーマン様を運んで、クローセルちゃんが霊の状態で周囲に人がいないか偵察するの。霊の状態なら普通の人には見えないはずなの」


 なるほど。

 あくまでも実体化するのはヴァラクだけで、クローセルは霊の状態で偵察すると。

 見た感じ、人のいなさそうな山なのでクローセル一人で十分偵察は可能だろう。


「だ、だったらわたしがノーマン様を運びたいです!」

「オロバスの位置がわかるのはこのヴァラクちゃんなの。だから、ヴァラクちゃんがノーマン様を運んだほうが効率がいいの」

「そうですよね……」


 話もまとまったことだし、その方法でいくことにする。


「ヴァラクで僕を運べるのか?」


 ヴァラクは僕より背の小さい子供だ。

 だからヴァラクで僕を運べるか不安である。


「こう見えても悪魔なの。あまり舐めないでほしいの」


 そう言って、実体化したヴァラクは天使の羽を広げ、僕をお姫様抱っこの形で掲げる。

 文句をいう立場ではないけど、お姫様抱っこで運ばれるのは恥ずかしいな。


「そういえば普段クローセルが実体化するときは羽がなかったよね」


 今、ヴァラクが実体化しているが羽がある状態だ。

 その違いはなんだろうと疑問に思った。


「実体化しているときは羽を収納可能なんですよ」

「ヴァラクちゃんの場合もそうなの!」


 随分と便利な羽だった。


「それじゃあ、わたしが先行して人がいないか確認してきますね」


 といってクローセルが空を飛んでいく。

 ある程度、周囲を確認したクローセルが遠くで手で大きな丸を作る。

 大丈夫ってことだろう。


「それじゃ、行くの!」


 僕をお姫様抱っこの状態で抱えたヴァラクも羽を広げ、空に急上昇する。


「うおっ」


 空を飛んで移動なんてもちろん初めてだ。

 その初めての感触に僕は驚く。


「お空での移動はどんな気分ですかー?」

「気持ちがいいな」

「えへへ……、そうだと思ったの」


 実際、空での移動は悪くないもんだ。

 景色も最高だし、風も気持ちがいい。


「ノーマン様にはホント感謝しているの」

「え? そうなのか?」


 別に感謝されるようなことをした覚えはないんだが。


「クローセルちゃんのこと。ノーマン様に召喚されてからクローセルちゃんすっかり元気になったの。前はその、陰気な感じだったから」

「確かにな……」


 クローセルの第一印象はとにかく暗いだった。

 それが今ではその影がすっかり消えてしまった。


「恋をすれば性格って変わるものなのね」

「恋って、なんのことだ?」

「えへへ、ノーマン様には教えないのー」

「うおっと」


 途端、ヴァラクが急加速した。

 思わず声をあげてしまう。


「……人の気配はなさそうだな」


 常に下を見て、人が確認しているが、特に問題はなさそうである。

 先行しているクローセルも時々、問題ない、と合図を送ってくるのでこの調子なら大丈夫そうだ。


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