―38― 風の魔術の特訓
「よしじゃあ、風の魔術を覚えるための特訓を始めようか」
ネネの誤解を解いたあと、ネネを家まで送った後、いつもの原っぱにてそう口にしていた。
「それでご主人様、具体的になにをするんですか?」
「そっか、フォカロルにはちゃんと説明してなかったや」
というわけで説明する。
僕は通常の方法である精霊を操ることで発現する自然魔術が使えないこと。
降霊術を用いて火と水の魔術を覚えたことを。
「なるほど、確かにその方法でしたらご主人様も風の魔術を覚えることができますが……」
フォカロルそう言いつつも、なにか懸念があるのか眉をひそめる。
「なにか心配事が?」
「いえ、その……すでにご主人様は2体の悪魔を降霊させたというわけですよね」
「うん、そうだけど」
「無用な心配かもしれませんが、三体以上の降霊はご主人様の体に負担になるかもしれません。というのも――」
フォカロルの説明によると、肉体に流れる魔力は右と左でそれぞれ独立しているらしい。
より正確に言うならば、完全に独立しているわけではないのだが、その話をすると長くなるため割愛する。
ともかく、2体の悪魔を降霊させても、右と左でそれぞれ役割分担できるためそう問題はなかった。
けれど3体以上となるとその理論が役に立たないゆえに体の負担が大きくなるんだとか。
「けど、ノーマン様なら恐らく大丈夫かと」
と、クローセルが口を挟む。
「どうして、そう言い切れるんですか?」
反論されたのが気にくわなかったのか、フォカロルは不機嫌そうに口を尖らせていた。
「だってノーマン様はわたしの全てを降霊させてしまいましたが、無事生還しましたので」
「そんなことが……っ」
フォカロルは信じられないとでも言いたげに目を見開く。
「そういうことでしたら恐らく大丈夫かと……」
フォカロルは納得したかのように頷いた。
「なら、早速やってみようか」
まず降霊術のための魔法陣を用意し、僕とフォカロルを繋ぐために魔道書『ゲーティア』をその上に乗せる。
そして詠唱した。
「――我は汝をノーマンの名のもとに厳重に命ずる。汝は速やかに、我の肉体に宿れ。汝の知識と力で我を満たせ。汝は己が権能の範囲内で誠実に、全ての我が願いを叶えよ。来たれ――第41位、フォカロル!」
以前のようにクロセルの全てを取り込むようなヘマはしない。
フォカロルの百分の一だけを降ろすよう意識する。
「うっ」
肉体に異物のようなものが入り込む。
苦しいっ、けど冷静に体の中の一部を一カ所に集めるように意識する。
「成功したか……?」
左手の平、アイムのシジルの裏に新しいシジルが刻まれていた。
「――
左手の上空に魔法陣が現れ、それと同時に風が起こる。
成功した。
「おめでとうさんございます」
「流石です、ご主人様」
クローセルとフォカロルそれぞれ賞賛してくれる。
「ありがとう二人とも」
それから、風の魔術の特訓を始めた。
すでに火と水の魔術を特訓してきたおかげか、それほど苦労せずある程度自由に風を操ることができるようになった。
そんな中、
「ご主人様、火と風の複合魔術についてはご存じですか?」
と、フォカロルに聞かれる。
火と風の複合、そういえばルドン先生の授業で聞いたことがあったな。
「確か、爆発魔術だっけ」
「やはりご存じでしたか」
爆発魔術。
火と風を複合させることで操ることができる魔術。
火の魔術単体に比べて衝撃が大きく、敵にダメージを与えやすい。
しかし、コントロールを誤ると自身も爆発に巻き込まれる可能性があるため、扱いには要注意だ。
ともかく、試しにやってみる。
「――
途端、左手を挟むように2つの魔法陣が発現する。
そして――
「あっ」
思わずそう声を上げていた。
というも、ボフッと左手を巻き込むように爆発が起きたからだ。
一般的な魔術師なら、魔術を発生させる起点をある程度コントロールできるのだが、僕の場合はシジルの影響を受けてしまうため、どうしても魔術が起こる起点がシジルのある手になってしまう。
だからか、今回も左手を起点に爆発が起きてしまった。
当然、爆発に巻き込まれた左手は見るも無残な状態になっていた。
「うっ……」
クローセルとフォカロルに見られているというのに、情けないことに僕の目から涙がこぼれてくる。
めちゃくちゃ痛かった。
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