第二部

―30― 決闘後日

 リーガルとの決闘に勝利してから翌日。


 僕の学校での評価は一変した。

 といっても必ずしもいい方向に変わったわけではなかった。


「なにか卑怯な手を使ったんじゃないか?」

 という生徒がいたり、

「魔術を使えることをずっと隠していたんじゃないか?」

 と揶揄する生徒もいた。

 他には、消去魔術を使えなかったリーガルを見て、実はリーガルが弱いと主張する生徒もいたり、僕が固有魔術を使っていなかったので、僕のことを固有魔術を使えない雑魚だ、と言う生徒も出た。

 

 おおむね馬鹿にする対象から不気味な生徒、と思われるようになったらしい。


「ノーマン、どうやら魔術が使えるようになったらしいな」


 授業中、ルドン先生が鋭い目つきでそう口にした。


「ええと、はい……」


 どうやら決闘で僕が勝ったことをルドン先生も聞きつけたらしい。


「だったら、今説明した風の魔術をここでやってみるがいい」


 まだ、風の魔術は覚えていないんだよな。

 と内心は思いつつも、僕は「はい」と言って返事する。


風よ起きろレバンタル・ビエント


 紙に書かれた魔法陣を見ながら詠唱をする。

 やはりと言うべきか、魔術は発生しなかった。


「どうやらできないようだな」

「まだ、風の魔術は覚えていないんですよ」

「まぁ、君は人より覚えるのに時間がかかるようだからな。精々励みなさい」


 いつもなら、ここで他の生徒が茶化してくるのだが、今日は特になかった。

 それだけでも決闘してよかった、と僕は思った。





「それじゃあ、今日は風の魔術を覚えるために新しい悪魔を召喚しようと思います」


 帰宅後、オロバスとクローセルを前にして、僕は宣言をした。


「それで2人に聞きたいんだけど、風の魔術を覚えるのにぴったりな悪魔を知らないかな?」

「マスタァアアアアア、申し訳ございまん! わたくしでは力になることできません!」


 とりあえずオロバスはそう言って、土下座した。

 うん、なんとなくオロバスはこういったことに役に立たないと思っていた。


「クローセルは……?」

「んー、あ、一人だけ心当たりがあります!」


 クローセルは考える仕草をしたあと、そう口にした。

 どうやら心当たりがあるらしい。よかった。

 もし、心当たりがなかったらフルカスさんに聞くしかないが、この時間召喚したしたとろで、フルカスさんは恐らく眠っているはず。


「それで、なんていう悪魔なの?」

「えっと、序列第41位フォカロルっていうんですけど……」


 クローセルはなにか言いたげに、唇をモニョモニョさせる。


「えっと、クローセル。言いたいことがあるなら、ちゃんと教えてほしいんだけど」

「その、わたし彼女のことすごく苦手なんですよ……」


 クローセルは伏し目がちにそう言った。


「だったら、クローセルを一度退去させてから」

「いやです、いやです! わたしノーマン様と離れたくないです!」

「えぇ……」


 クローセルもオロバスみたいに退去を嫌がるのか……。


「どっちにしろ、三体同時に悪魔を召喚できるかわからないしな……」


 だから、どっちかには一度退去してもらいたいんだが。

 そう思って2人を見るわけだか……。


「えっと、オロバスは……」

「マスタァアアアアア!! わたくし退去だけは嫌でございます!!」


 まぁ、オロバスはそうだよね。


「そんなオロバスさんばっかりズルいです! そもそもなんで、オロバスさんはそんなに退去を嫌がるんですか!」


 確かにオロバスが退去を嫌がる理由までは知らないや。


「オロバス、なんで退去が嫌なんだ?」


 ふと、気になったので聞いてみる。


「それは、わたくし魔界に帰るのが嫌なのであります!」


 魔界? ふむ、魔界とはなんだ?


「魔界とは、普段わたしたち悪魔が暮らしているところです」


 僕が魔界という言葉をわからなったのを察してか、クローセルがそう説明してくれる。

 へー、魔界か。

 どんなところなんだろ……。

 あまり居心地のよさそうな場所でないことはなんとなくわかる。


「それでオロバス。なんで魔界に帰るのが嫌なんだ?」

「それは、わたくし、魔界にて幽閉されているのでございます……」


 幽閉って、つまり牢獄とかに監禁されているってことかな。


「ですので、魔界には帰りたくありません!」


 と、オロバスは主張した。

 確かにそういう事情なら同情する余地もなくはないが。


「ちなみに、幽閉されるようなことって、なにをやらかしたんだ?」

「それはわたくしが上司に逆らったからです。ですが、わたくしの主はマスターただ一人! ですので、わたくしが上司に逆らうのは必然でもあるわけです!」


 と、オロバスはよくわからないことを主張する。

 ん、まぁ、悪魔って、想像以上に色々と大変なんだろうな。


「ちなみに、クローセルが退去したくない理由は?」

「そ、それは……その、ノーマン様と一緒にいたいからで……」


 と、クローセルは顔を真っ赤にしながら主張する。

 クローセルが僕のことを慕ってくれているのは薄々感づいてはいたが。

 しかし、それなら少しぐらい魔界に戻っていてもそう不満はないような気が。


「クローセル、風の魔術を覚えたらまた召喚するから、一度退去してもらうのは無理かな?」

「……ノーマン様がそういうなら仕方がないです。でも、絶対、絶対、すぐ召喚してくださいね!」


 と、話がまとまったところで、一度クローセルを退去させる。


「よし、それじゃあ、フォカロルを召喚しよう」


 一体どんな悪魔が召喚されるのか楽しみだ。


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