―29― 決闘

 放課後、決闘場には人だかりができていた。

 こんだけ集まるとは、そんなに僕がリーガルにボコられるとこ見たいのかね。


「逃げずに来たみたいだな」


 決闘場に来た僕を見てリーガルがそう言った。


「うん、来たよ」


 僕は首肯する。


「おい、お前らぁ! あの落ちこぼれのノーマンが魔術を使えるようになったってよ。本当かどうかみんなで確認してやろうぜ!」


 リーガルはわざわざ観客席にいる生徒たちに向かって囃し立てるかのようにそう言う。

 すると生徒たちは笑い出す。


「今まで魔術を使えなかったノーマンが急に使えるわけないだろう」

「おい、リーガル。あんまいじめるのもほどほどにしてやれよ!」


 そんな感じに生徒たちは好き勝手言い始める。


「おら、好きにうってこいよ」


 リーガルはニヤリと笑って、挑発するかのように手で魔術を撃ってこいと仕草をする。

 リーガルも観客にいる生徒たち皆も、僕が魔術を使えるわけがないと思っている。


 だけど、


「マスター、あんなやつコテンパンにしてやってくたざい!」

「ノーマン様、がんばってください!」


 オロバスとクローセルだけは僕のことを応援してくれる。

 まぁ、彼らの声は他の生徒には聞えていないのだろうが、それでも、二人が応援してくれるだけで僕は勇気をもらえる。


 よし、と僕は心の中だけで気合を入れる。

 まず、意表を突いてやろう。

 そう考えた僕はゆっくりとリーガルのいるところまで歩いた。


「おいおい、なんのまねだ?」


 リーガルは馬鹿にするような口調でそう言う。

 それを無視して、僕は十分近づいたなと判断したら、左手を前にして、詠唱した。


「――火炎球フエゴ・フラマ

「うがっ」


 完全に不意をつかれたリーガルはそう言葉を発して、後方へ吹き飛ぶ。


「はっ、本当に魔術を覚えたようだな」


 リーガルはそう言って立ち上がる。


「まぁ、つっても誰でも覚えられるような基礎魔術をだがな」


 そう、火の玉を操れる程度、魔術師なら誰だってできる。


「――火炎球フエゴ・フラマ


 とはいえ、今の僕にできることは少ない。

 ならば、できることを全力でやるだけだ。


「はっ、2回も同じ攻撃が効くわけねぇだろがッ!」


 火炎弾を見たリーガルがそう言って、魔術を詠唱した。


「――消去コンセレイション!!」


 詠唱と同時、リーガルを守るように巨大な魔法陣が宙に浮かび上がる。

 消去魔術。

 魔術は大気に無数にいる微細の精霊に命令することで発動する。

 であれば、相手が命令した精霊に介入することで、発動した魔術を強制的に打ち消すことができる。


 とはいえ、僕の魔術は精霊依存ではないぞ。


「ぐはっ」


 再び、リーガルに火炎球が直撃する


 やはり読みどおり、僕の魔術は消去魔術では消えないようだ。

 消去魔術はあくまでも精霊に介入する魔術。

 悪魔の力を借りて発動させた僕の魔術まで消すことができない。


「――水の刃発射アグア・エスペイダ


 間髪入れずに次は水の刃を発射する。


「――消去コンセレイション!!」


 再び、リーガルは消去魔術を使う。

 けれど、消えない。

 リーガルに水の刃が直撃する。


「おい、どういうカラクリだ?」


 血を流しながら、リーガルはそう口にした。

 観客たちも異変に気がついてきたようで、ザワザワとし始める。

「リーガルのやつ押されてないか……」という観客の声まで聞こえた。


「――火炎球フエゴ・フラマ


 リーガルの質問を無視して、再び魔術を詠唱した。


「――突風ラファガ!」


 リーガルの両手から緑色の魔法陣が浮かび上がる。

 すると、そこから突風が発生する。

 突風は火炎球と当たり、お互い相殺する。


「舐めんのもいい加減しろよ。ぶち殺すッ!」


 リーガルは吠えた。

 そして、詠唱を始める。


「固有魔術起動、銀色の世界ムンド・デ・プラタ


 結局のところ。

 火を放ったり、水を放ったりといった単純な魔術を打っても消去魔術さえあれば消えてしまう。

 ゆえに消去魔術で消されない魔術を覚える必要があった。

 そうして生まれたのが固有魔術。


 魔術を何重にも複雑に組み込み、己の魂に刻み込む。

 魂に刻み込むことで、本来であれば膨大に必要な詠唱であったり魔法陣であったりといった工程をいくつか簡略することができるようになる。


 リーガルを中心に複数の魔法陣が浮かび上がる。

 本来であれば、1つずつの魔法陣を発生するのに、それぞれ詠唱が必要なはずだか、固有魔術であるため1つの詠唱だけで複数の魔法陣を出現させることができるわけだ。


「俺の固有魔術できっちり殺してやるよ」


 リーガルがそう口にした途端、宙に無数のナイフが出現した。


 無からナイフの生成。

 僕にはどういった原理で、この魔術が起動されているのか想像すらできない。

 それだけ上位の魔術だ。


「死ねッ!」


 無数のナイフは一斉に僕目掛けて宙を舞った。


 防ぎようがないな。

 今の僕では、このナイフを防ぐ手段を持ち合わせていない。

 ここまでか……。

 まぁ、最初から勝てるとは思っていなかったし、自分として十分やったほうだよな。


 僕は諦めのつもりで、目を閉じた。


「ノーマン様! 危ないっ!」


 え?

 目を開ける。

 目の前に、クローセルが立っていた。


 は? なんでいるの?


「えいっ!」


 クローセルがそう言って、両手を前に出す。

 瞬間、膨大な量の水が発射された。

 大量の水は向かってきたナイフすべてを弾き、そして――。


「おい、なんだよ、それ……」


 呆然と口を開けるリーガルへと放たれていた。


「ぐはぁっ」


 悲鳴を上げてリーガルは吹き飛ばれる。


「勝者っ! ノーマン・エスランド!」


 気絶したリーガルを見て、審判がそう判断する。


「え? ノーマンが勝ったのか……?」

「う、そ、でしょ……?」

「なんだ、今の魔術?」

「ノーマンのやつあれだけの魔術を無詠唱で放たなかったか?」


 観客たちの困惑した声が聞こえてくる。

 クローセルの姿が見えない観客からは、僕が魔術を放ったようにみえるらしい。


「も、申し訳ありません! わ、わたし、ノーマン様が傷つくと思ったら、居ても立っても居られなくて! ホント、駄目ですよね……。ノーマン様があれだけ、生徒に手を出すな、と命令されてたのにそれを破ってしまうなんて……。わたし、ノーマン様のお側にいる資格がありません!」


 振り返ったクローセルが涙目でそう謝罪してくる。


「クローセル、別にそんな気にしていないから」


 慌ててフォローする。

 実際、リーガルが倒れるとこを見て、スカッとしてしまったのはあるしね。

 そんなわけで、僕の初めての決闘は思わぬ形で勝利を収めることになったのだった。



 第一章 ―完―


―――――――――――――


面白ければ、感想、星、よろしくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る