―28― 決戦前

「ねぇ、今日ホントに学校行くの?」


 朝、最近優しくなった妹がわざわざ僕の家に訪ねてはそう聞いてきた。


「うん、行くよ」

「私、お兄ちゃんが無理に決闘する必要ないと思うわ。その彼女さんだって、心配するよ」


 だからクローセルは彼女ではないんだが……。


「ネネ、ここだけの話、僕魔術使えるようになったんだ」


 内緒話のようにコソッと僕はネネにそう言った。


「う、そ……」


 ネネは驚いた様子で僕を見た。


「まぁ、だからお前が不安に思うようなことはないからな」


 妹を不安にさせたら兄失格だからな。

 だから、あらかじめ妹には伝えておくことにした。





「これから学校に行くわけだか、その前に2人に伝えておくことがある」


 オロバスとクローセルを前にして俺は喋っていた。


「伝えておきたいことですか?」

「わたくしマスターの言葉でしたら、どのような言葉でもしかと受け止めます」


 二人とも各々の反応を示す。


「それじゃあはっきり言うけど、僕は学校であまり評判が良くないんだ。というのも魔術が使えなかったから。だから僕は今日、色んな生徒にからかわれると思うけど、二人とも大人しくしていてね」


 要するに、生徒たちに手を出すなってことを言いたい。


「マスター、お言葉ですが、わたしくマスターを馬鹿にするやからがいたら、許せなくて殺すと思います!」

「うん、だから、そういうことをするなよってことだからね。あと、これは命令だから」

「ははっー、わたくしマスターのご命令とあらば、命をかけて実行する所存でございます」


 オロバスはそう言ってひざまずく。

 この調子なら、事前に言っとおいてよかったのかも。

 あらかじめ伝えておけば。オロバスはちゃんと守ってくれるだろう。


「わ、わたしもがんばります!」


 まぁ、クローセルは大丈夫だと思うので心配する必要はないか。





「おい、ノーマンのやつ学校に来ているぜ」

「俺、てっきりあいつ今日、学校来ないと思ってたよ」

「昨日学校サボってたしな。てっきり今日もサボりかと」

「わざわざ学校に来てどうするつもりかねー」

「リーガルにボコられにきたんじゃね」


 僕が歩くたびに、生徒たちが噂話を始める。


 オロバスはそれが気に入らないようで、僕の噂話をする生徒皆に拳を震わせながらガンを飛ばしていた。

 まぁ、オロバスのことは生徒たちからは見えないので、あまり意味のないのない行為だが、言いつけはちゃんと守るつもりらしい。


「なんだか、皆さんノーマン様のお話していますね」

「まぁね」


 クローセルの会話に短く返事する。

 あまり堂々とクローセルと会話をすると、一人でブツブツ喋る変人になってしまうからだ。


「逃げずに来たみたいだな」


 ふと、見ると目の前にリーガルがいた。


「うん、来たよ」

「今なら、謝れば許してやるけどよぉ。ホントは魔術が使えません、ごめなさいってな」


 リーガルは笑いながらそう言う。


「なんなのですか、この人。感じ悪いですね!」


 クローセルは怒った調子でそう言う。

 オロバスはなにも言わずリーガルをじっと見ていた。多分、本人は睨んでいるつもりなんだろう。見ていて笑いそうになるので、できればやめてほしい。


「言っただろ。この一週間で魔術が使えるようになるって。そんなに疑うなら、今ここで見せようか?」

「はっ、おもしれぇ。楽しみは決闘のときまでとっといてやるよ」


「それじゃあ、また放課後な」とリーガルは言って去っていった。


「ノーマン様! あんなやつ、コテンパンしてやっちゃいましょう!」


 クローセルはそう言うが、実際リーガルに勝つのは難しいだろう。


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