―27― 反省

「う……っ」


 僕は目を覚ます。

 そうか、気を失っていたのか。


「お兄ちゃん、やっと目を覚ましたのね」


 目を開けると、妹のネネの姿が視界に入る。

 あれ? 妹がなんで俺の家にいるんだ?


「わたしが治癒魔術で治さなかったら、最悪死んでいたわよ」

「そうか、ネネが治してくれたのか。ありがとう」


 体を見る。

 どこもおかしいところはなかった。


「ノーマン様、無事でよかったです!」


 がふっ、と抱きつかれる感触を味わう。

 見ると、クローセルの横顔が。

 そっか、クローセルに心配かけんだな。

 クローセルの体温を感じながら、ふとそんなことを考える。


 ん? 待て、触れるってことは実体化しているってことだよな。

 え? なんでこの子、勝手に実体化しているの?

 ちなみに実体化したクローセルは翼と天使の輪っかがなかった。


「クローセルがなんでここに?」

「なんでって、クローセルさんが助けを呼んだからに決まっているでしょ。たまたま、私がお兄ちゃんの家に来たからよかったものの……」


 ネネは呆れた口調でそう言う。

 そうか、助けを呼ぶためにクローセルが実体化して、そこにたまたま妹のネネが家にやってきた感じか。

 というか、ネネのやつ今日も僕の家にやってくるとは、よほど自分の家に居づらいんだろうな。


「てか、ネネってクローセルと知り合いなの?」

「あーそっか、実は昨日、お兄ちゃんがでかけている間に、クローセルさんと知り合ったのよ」


 昨日って、つまり降霊術のせいで僕が女になっていたときのことだよな。

 確かにクローセルと名乗ってはいたが、見た目は似ていたとはいえ、目の前のクローセルと少し違う。まぁ、でも同一人物だと主張したら、イメチェンしたんだなって思われる程度の違いか。


「ノーマン様が目覚めないので、わたし心配で、心配で……」


 クローセルが涙声でそう呟く。

 きっと不安で仕方なかったのだろう。


「悪かったな……心配かけて」


 そう言ってクローセルの頭を撫でる。

 すると、クローセルは気持ちよさそうに「ふへへ」と笑う。


「はぁ、イチャイチャするなら私のいないとこでやってよ」

「イチャイチャてっ! 僕たちは――」


 恋人ではないわけだが、実際に否定したらまた話がまたおかしくなりそうだし、ここは黙っておくべきか。


「もう元気みたいだし、私は出ていくから。あとは2人だけで、ゆっくりするのよ」


 ネネはしたり顔でそう言って、部屋を出ていく。

 だから僕たちはそういう関係じゃないんだが。

 ネネが変なこと言ったせいで、クローセルは顔を真っ赤にして俯いているし。

 まぁ、クローセルはかわいいし、こんな彼女がいたらな、と思わないこともないが、残念ながら彼女は悪魔だ。

 人間が悪魔と付き合うとかあり得なさすぎる。


「それで、お前はなにをしているんだ?」


 僕は部屋にいた、もう一人の人物にそう話しかけた。


「わたくしはマスターの従者失格です……」


 そう言っているのは、部屋の隅で膝を抱えて縮こまって座っているオロバスだ。


「わたくし、もうマスターと一緒にいる資格がありません。どうか退去させてください」


 ま、マジか……っ。

 あれだけ退去を嫌がるオロバスが自ら退去を申し出るとか、ガチで反省しているぽいな。


「ちなみに聞くけど、なんでおもっいきり殴ったの?」

「人間がわたくしの想像以上に脆かったです……」


 悪魔の価値観、やばすぎる。


「まぁ、別に怒っていなから、退去させないけどさ」


 実際こうして無事だったわけだしね。


「マスタぁあああああ!! ありがとうございます!!わたくしこの御恩は一生忘れません!!」


 オロバスはいつもの調子に戻ったようだ。

 切り替え早すぎるような気もするけど、まぁいいか。


 さて、明日待ちに待った決闘の日だけど、結局ちゃんとした練習はできなかったな、と僕は思うわけだった。


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