―26― 水の特訓・続
「マスター、いつでもいいですよ」
僕らは近くにある原っぱにきていた。
オロバスは僕から少し離れたところで手を振っていた。
ちなみにオロバスには実体化してもらっている。霊の状態だと、そもそも攻撃が当たらないから。
クローセルにはひとまず観戦してもらっている。
「――
右手に水の塊を出す。
「――
左手に火の塊を出す。
今できる魔術はこの2つのみだ。
本当は火、風、水、土の四元素すべての魔術を覚えてから決闘に挑みたかったが仕方がない。
今から新しい悪魔を召喚するのは、流石に時間がないしな。
ないものねだりしても仕方がないし、この2つでなんとか戦うしかない。
「――
左手からオロバス目掛けて炎の塊を発射した。
当然、オロバスは火傷する。
「あ、大丈夫……?」
「わたくしマスターのためなら、この体がいくら傷ついても問題ありません!」
オロバスはそう主張する。
実際、服が焦げた程度で傷一つついていなかったので問題ないのだろう。
「――――
5つの火の塊を同時に出す。
そして、それらすべてを発射した。
「ふはははははっ、わたくしまだまだいけますぞ!」
オロバスは笑いながらそう豪語する。
実際、平気そうだ。
くそっ、どうすればダメージを与えられるんだろう。
てか、冷静に考えてみたら、水を出すことをできたのはいいが、この水を使ってどう攻撃すればいいんだろう?
氷に変化させれば攻撃として使いやすいが。
今の自分にはそれはできない。
「ねぇ、クローセル。水ってどうすれば攻撃に使えるかな?」
「そうですね……でしたら、実際にわたしがお見せしましょうか?」
そんなわけで、クローセルに水の使い方を見せてもらうことになった。
「それじゃあ、オロバスさん。いきますよ」
「いつでも問題ありません!」
「えいっ!」
瞬間、大量の水が勢いよく発射された。
「――ぶっ」
オロバスはそう言葉を発するとともに吹き飛ばされ、視界から消えた。
水とはいえ、あれだけの勢いで当てられたら軽い打撲では済まないだろう。
「あ、やりすぎてしまいました」
クローセルは軽い調子で言う。
「えっ、大丈夫なの?」
「オロバスさんも悪魔なので大丈夫だとは思いますが……」
不安そうな調子でクローセルはそう言う。
「ふはははははははっ、わたくしまだまだ平気であります!!」
あ、オロバスが戻ってきた。
意外と元気だった。
「クローセル、その、僕でもできそうな魔術を教えほしいんだけど……」
流石に、今見せられたのと同じのをやれと言われてもできそうにない。
「あわわっ、も、申し訳ございませんっ! わたし、ノーマン様の事情も考えずにっ!」
クローセルが必死に頭を下げる。
あ、このままだとクローセルがダウナーモードに入るかも。
「クローセル、別に謝らなくてもいいから。うん、怒っているわけじゃないし」
ダウナーモードになったら面倒なので、なんとかフォローする。
「ホント怒ってないですか……?」
「うん、全然怒ってないよ」
「本当ですか……?」
「うんうん」
全力で首を縦にふった。
そしたらクローセルは納得したのか「ノーマン様は本当にお優しいです」と言って満面の笑みになる。
どうやらクローセルの調子は元に戻ってくれたようだ。
「それで、もっと簡単なのはないの?」
「そうですね。でしたら、こんなのはどうでしょう」
そしたらクローセルはオロバスのほうに向き直り「いきますよー!」と合図を送る。
オロバスが了承したのを見て、クローセルは魔術を発動させた。
「えいっ!」
水が刃のような形状となって、オロバスを襲う。
「ぐっ」
オロバスは両腕を盾にして防ごうとする。
それでも鋭利となった水によって、オロバスの腕は僅かだが切れていた。
「水を薄い状態にして発射することで、刃のようになるんですよ」
確かにこれならコツさえ掴めばできそうではある。
そんなわけで、水を刃にして飛ばす練習を始めた。
「――
刃の形状となった水を発射させる。
すると、刃はうまいぐあいにオロバスの体を斬りつける。
「成功した……」
何十回と練習して、やっとものにすることができた。
「ノーマン様、おめでとうございます!」
「流石、わたくしのマスターです!」
二人とも称賛してくれる。
「あ、そうだ。オロバス、ずっと的になってもらって今更だけど、オロバスも反撃していいんだからね」
何回も攻撃したせいでオロバスは傷だらけだ。
霊の状態になれば、傷はなかったことになるので大丈夫らしいとのことだが、それでも一方的に攻撃するのは悪い気がしてきた。
「いえ、わたくしがマスターに攻撃するのは自分の忠義に反します!」
「けど、決闘の練習だから、オロバスも攻撃してくれないと練習にならないよ」
実際の決闘では、相手がただ立って的になるなんてありえないのだから。
「そうですか……。では、失礼いたします」
オロバスは構えのポーズをとる。
僕も火と水それぞれを両手にだし、いつでも攻撃できるよう準備する。
次からはオロバスは攻撃を交わしてくる。
だから、うまく狙わないと。
オロバスの動きに注視しようと、僕は意識する。
瞬間――。
「えっ、消えた?」
目の前からオロバスの姿がなくなった。
「は?」
次の瞬間、オロバスが目の前にいた。
消えたのじゃなかった。ただ、高速に動いただけ。
僕の目が追いつかなかったから、消えたように錯覚したに過ぎない。
そのことに気がついたときにはすでに遅い。
オロバスの拳が僕の腹にめり込んでいた。
「ぐはっ」
と、息を吐いたと同時に吹き飛ばされていた。
悪魔の力を舐めすぎていた。
後悔したときにはすでに遅く、地面に倒れたと同時に僕は気絶していた。
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