―31― フォカロル
そういえばクローセルがフォカロルのこと苦手って言っていた理由を聞くの忘れていたな。
まぁ、仕方がないか。
「――我は汝をノーマンの名において厳重に命ずる。汝は疾風の如く現れ、魔法陣の中に姿を見せよ。世界のいずこからでもここに来て、我が尋ねる事全てに理性的な答えで返せ。そして平和的に見える姿で遅れることなく現れ、我が願いを現実のものとせよ。来たれ――第41位、フォカロル!」
呪文を唱え終えると魔法陣が光だす。
そして、人影が現れた。
「え? 天使?」
ふと、そんな言葉が漏れる。
というのも、クローセルのように人影には天使の羽があるように見えたからだ。
「フフフ……わたくしが、天使に見えるですか? やはり、羽というのはいいものです」
抑揚のない喋り方だと思った。
そして、光が消え、悪魔の姿がはっきりと視認できるようになる。
確かに羽はあった。
けれど、天使の羽とは全く違う。怪物の羽とでもいうべきか。
人の姿に怪物の羽をつけた、そんな感じである。
髪は乱雑に伸ばしており、清潔感のあるクローセルとはまた違う印象だ。
「それで、なんの御用でわたくしを呼んだのですか……?」
やはり抑揚のない喋り方だった。
「えっと、風の魔術を覚えたくてフォカロルさんを呼びました」
「確かに、わたくしは風の魔術が得意ですが……しかし、なぜ風の魔術を覚えたいのですか? 理由をお聞かせください」
理由?
そういう言われるとぱっとでてこない。
今は魔術を覚えること自体が楽しいので、そこに理由とか求められてもなんともいえないな。
「僕は魔術をたくさん覚えて優秀な魔術師になりたいんです」
ひとまず無難に答えておく。
「なるほど、でしたら却下です。あなたに魔術を教えたくありません」
なぜか、拒否されてしまった。
「えっと、その、駄目な理由を教えてくれませんか?」
このまま収穫もなく引き下がるわけにもいかない。
せめて、理由を聞いてなんらかの対策を立てないと。
「わたくしの力はたくさんの人を殺すことができます」
「はぁ」
「だから、わたくしの力はむやみやたらと他人に教えるべきではありません。なぜなら、人殺しは悪なのですから」
えっと、どゆことでしょう?
人殺しが悪? 悪魔がなにを言っているの?
悪魔って人を殺してなんぼみたいなとこあるでしょ。
「あの、フォカロルさんは悪魔でいらっしゃいますよね?」
「はい、わたくしは悪魔ですが……」
「悪魔が人殺しを悪と断罪するなんて、随分と変わった趣向をお持ちのようですが……」
「わたくし、天使に憧れているんです」
悪魔が天使に憧れているだって?
また、随分とおかしなことをいい始めたぞ。
「この羽も少しでも天使に近づきたいと思って、ガーゴイルから奪って取り付けたんですよ。フフフ……似合っているでしょ? おっと、わたくしとしたことが、ついニヤけてしまいました。天使のようにわたくしも笑うことを控えないと」
そう言って、フォカロルは自分の唇を指で押さえる。
この悪魔、天使に憧れているって、またおかしなことを言い始めたが、しかしやっていることは悪魔的だ。ガーゴイルから羽を奪ったってあたりが。
「そんなわけで、わたくしは天使のように人を導く存在になりたいんです。ですので、わたくしの人を殺せるこの力をあなたに教えるわけにはいかないわけです」
「えっと、僕は別に人を殺そうとか全く思っていないんだけど」
「あなたは優秀な魔術師になりたいと言っていました。魔術師は時に戦争で人を殺めることをわたくしは知っていますよ」
確かにフォカロルの言っていることは間違っていない。
魔術が戦争に使われてきた歴史なんて山程ある。
さて、どうしたら彼女を納得させることができるだろう。
考える。
そして、1つ案が浮かんだ。
「ねぇ、フォカロル。君は天使に憧れているっていうけど、具体的に人助けをしているのかい?」
「え、えっと、それは、その、助けたことぐらいはあります」
フォカロルはそう言って、言葉を濁す。
やはり、読みどおり彼女は人助けをあまりしていない。そりゃ、魔界にいたらそう人なんて助けられないよね。
「フォカロル、提案なんだけど、これから一緒に人助けをしないか?」
「人助け、ですか?」
「もちろん断らないよね」
「ええ、そりゃ、わたくしが人助けを断るわけがありません」
フォカロルはそう言って、了承してくれた。
僕の作戦はこうだ。
フォカロルに人助けをさせて、如何に魔術が人を助けるのに有用なのか教えればいい。
そうしたら、フォカロルは僕に風の魔術を教えてくれるはずだ。
そんなわけで、僕とフォカロルで人助けをすることが決まった。
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